arrow_back Genshin Impact: задания
祝福を祈り、テペトルに告ぐ 第三幕
抑揚の詠唱
もうすぐラゾーリとの約束の時間だ。もう一度彼女を訪ね、燃晶名刻の進捗を聞こう。
シロネンの工房に行く
アヴィリシュ:
シロネン!ちょうどよかった、あのさ…
シロネン:
左の棚の上から二段目、一番右の斧があんたの。クワはイクナルので、金づちはパカルのだから、自分のやつだけ持ってって。
アヴィリシュ:
まだ何も言ってないのに…もしかして今から休憩?
シロネン:
今日はいい感じの気温だから、ここで休憩。
アヴィリシュ:
マジで言ってる?今日はいつもよりだいぶ暑いと思うけど…暑くて外になんていられないわよ。
シロネン:
それが狙い。暑いとお客さんが注文や受け取りに来る時、いつもより早く済ましてくれるワケ。
アヴィリシュ:
あっそ…あら、次のお客さんが来たわね。じゃ、お疲れ。斧を確認させてもらうわ。
シロネン:
はいはい…
パイモン:
シロネン!こんにちは。
シロネン:
旅人、パイモン、また会ったね。元気そうで何より。
シロネン:
「聖宵の旅織り」の調子はどう?トラブルとか、だいじょぶ?
旅人:
すべて正常、何も問題はない。
シロネン:
ならよかった。ウチも「聖宵の旅織り」なんて初めてだったし、あんたはナタ人じゃないから…
シロネン:
「古名」の調子はどう?トラブルとか、だいじょぶ?
旅人:
すべて正常、何も問題はない。
シロネン:
ならよかった。ウチも「夜神」の力を借りて古名を作るのは初めてだったし、あんたはナタ人じゃないから…
シロネン:
不確定要素が多すぎてさ、正直、問題が起きないとは言い切れないんだよね。
パイモン:
えっ!?それって…問題が起きる確率はどれくらいなんだ?
シロネン:
ムアラニが「スピリットウェイ」を通るときにうっかり落ちる確率より低いかな。
パイモン:
うーん…それじゃあ、どう考えてもゼロだな…
アヴィリシュ:
シロネン、斧ありがとう。持ってくわね。
アヴィリシュ:
そういえばもうすぐニエガの誕生日だけど、会いに行くわよね?
シロネン:
もうプレゼントも準備してあるよ。近いうちに行くつもり。
アヴィリシュ:
はぁ…まさかとは思うけど、ペンチのフルセットとか、工具セットとかじゃないでしょうね?
シロネン:
もちろんできるよ。花は枯れるし、おもちゃは壊れる。おやつだって食べたらなくなっちゃうけど…
シロネン:
頑丈で長持ちする道具は一生物。きっとめっちゃ役に立つよ。
シロネン:
でも、今年のプレゼントは道具じゃないよ。ニエガから手紙が届いて、『勇敢なテクィ』がほしいってリクエストが来たから。
シロネン:
なかなか探すのが大変な本でさ。何冊かウチのコレクションにあって助かったよ。ずいぶん前に出版されたやつだけど、まあ、まだギリ読めるし…
アヴィリシュ:
ははは、ニエガくらいの年の子って童話が好きだからね。私もこの間ラゾーリのところに行ったときは、あの子に差し入れで…
アヴィリシュ:
あれ?何を持って行ったんだっけ?あの子が一番好きな…あれ…思い出せないわ…
シロネン:
暑すぎて熱中症になっちゃった?自分の名前はわかる?
アヴィリシュ:
そこまで忘れないって…ただ、ここ何日か…はぁ…なんかいろいろ忘れちゃうのよね…
シロネン:
あんたの「燃晶名刻」に大事なことを刻んで、メモ代わりにしちゃえば?
シロネン:
持ち運びにも便利だし、劣化しにくいからちょうどいいと思う。
アヴィリシュ:
コホン…それは確かにそうなんだけど…私の名刻にはもうほとんどスペースがないのよ…
アヴィリシュ:
違う違う。「燃晶名刻」にいくつか願いを刻んでるのよ。
アヴィリシュ:
願いっていうか…まあ、要するに将来に対する期待とか、いつかやりたいこととか。
アヴィリシュ:
ラゾーリは美しさを考慮すると、名刻に刻む文字はなるべく短くしたほうがいいって言ってたけど…
アヴィリシュ:
「燃晶名刻」って、古名を作ってた名鋳り師が作ったものでしょ?
アヴィリシュ:
だから…ちょっとくらいは神秘的な力があるんじゃないかって、みんな思ってるわけ。
アヴィリシュ:
それで、名刻を手に入れた人たちは、いつか夢や願いが叶うようにと願いを込めて、それを名刻に刻み込むのよ。
パイモン:
よくある「願いを叶えてくれる石」みたいだな…
パイモン:
でも、そんな風に願いとか思いを刻んじゃったら、他の人に見えちゃうんじゃないのか?
アヴィリシュ:
あはは、心配ないわ。普通はラゾーリにお願いして刻んでもらうんだけど、特別なやり方があるのよ。
アヴィリシュ:
その方法で刻んだ文字は、特定の角度で光を当てないと見えないようになってるの。
アヴィリシュ:
だから、わざわざ文字を見ようとしないかぎり、名刻もただのきれいな石ってわけ。
シロネン:
それは言えてる。燃晶名刻は結局ただの石だしね。人の願いを叶えることなんてできないよ。
シロネン:
この石に向かって願いをしたって、谷に向かって叫ぶのとおんなじで、自分の声がこだまするだけ。
シロネン:
まあ…「願いの備忘録」として使うのはアリかもね。願いを刻んだやつを常に持ち歩いて、時々取り出して見てみる…みたいな?自分を励ますくらいの効き目はあるかもね。
シロネン:
ただ、途中で願いを変えたいってなったら大変だよ。名刻ってすごく摩耗しにくいから、文字を書き換えるのは難しいだろうし。
シロネン:
捨てるにしても…結構高いもんだしね。買いたければいつでも買えるってシロモノでもないから、もったいなくて捨てられないよ。
シロネン:
それにしても変だなー…おばちゃんの技術にしちゃ、生産が追い付いてなさすぎ。誰かが少なめに作れば高く売れるとかって入れ知恵したのかな?
アヴィリシュ:
あははっ、言われてみれば確かにチョウエンのやり口ね。まあ、それでたんまりお金を集められるんならいいと思うわ。
アヴィリシュ:
ラゾーリとニエガももっといい生活ができるようになるからね。それに、治療費のことで頭を抱える必要もなくなる。
アヴィリシュ:
あの頃は本当に心配だったから、定期的に…あれをニエガに送ろうと…えっと…だから、あれを…
アヴィリシュ:
…あれ?何だったっけ?はぁ…私ったらなんで忘れちゃうの…
シロネン:
ほらほら、これ以上陽射しに当たると名刻でもどうにもできないくらい色々忘れちゃいそうじゃん。早く帰って休みな。
アヴィリシュ:
うん…ラゾーリとニエガによろしく。
アヴィリシュ:
いったいどうしちゃったのかしら?エリンレに薬をもらおうかな…
パイモン:
シロネンもニエガの誕生日会に行くのか?へへっ…実はオイラたちも行くつもりなんだ。一緒に行こうぜ!
シロネン:
いいよ。でも、あんたたちがラゾーリおばちゃんと知り合いだったなんてね。最近、集落でもめったに見かけないのに、どうやって知り合ったの?
シロネンと会話する
ラゾーリと知り合った経緯を詳しく説明した…
シロネン:
ふーん…「火山晶石」を原材料に使うなんて…娘のためってなると、やっぱ張り切っちゃうのかな。
シロネン:
なら、本人に聞きに行こう。ついでにウチも本、届けたいしね。
パイモン:
え、ええ?ちょっと待てよ!誕生日プレゼントって、サプライズのほうがよくないか?
パイモン:
本人に聞いちゃったら、サプライズにならないじゃないか…
シロネン:
でも、本人に聞かないでどうやって好みを調べるのさ。
シロネン:
ああ、それか——手紙に物語の本が好きだって書いてあったから、ウチと同じで本をプレゼントするのもありかな。
旅人:
本なら任せて、バッグにいくらでもある。
パイモン:
えーっと…それじゃ適当すぎないか?わかっててプレゼントを被らせるのって、なんか適当に済ませた気分になっちゃうぞ…
パイモン:
ニエガに何が一番欲しいかとか、聞いたことないのか?本以外にも欲しいものってあるだろ。
シロネン:
んー、聞いたことないな。数年前、病気が再発しちゃった頃って、部屋で安静にするだけで、人と話す気力もなかったらしいよ。
シロネン:
最近になってやっとちょっと回復して、手紙まで書けるようになったんだ。
シロネン:
とにかく、そんなに悩む必要ないって。何もいいのが思いつかなかったら、ウチの本を上下二冊にバラして半分こすればいいじゃん。ウチが上をあげるから、あんたたちが下をプレゼントすればいいよ。
パイモン:
全然よくない!適当すぎるだろ!それなら別の本をあげた方がいいぞ!
パイモン:
やっぱり直接ニエガに聞きに行こうぜ。サプライズにならなくなるのは残念だけど…欲しいものをあげられるしな!
パイモン:
そういえば、ニエガがほしがってた本って、どんな物語の本なんだ?そんなにマイナーな本なのか?
シロネン:
『勇敢なテクィ』って本なんだけどさ、ちょっとややこしくて、バージョンが二つあるんだよね。
シロネン:
物語の大筋はどっちも一緒で、二人の兄弟が魔王に立ち向かう話。
シロネン:
魔王を倒したあと、兄のテクィは弟のリマークに魔王の魂が取り憑いたことに気づく。
シロネン:
最初のバージョンのエンディングじゃ、兄は魔王を滅ぼすために弟を切り倒し、そのあと自分も火山に飛び込むんだ。
シロネン:
作中で、地母「コアトリクエ」に体を乗っ取られたリマークが言ったセリフがいっとき結構流行っててさ。
シロネン:
「その血を焼き尽くしたくはない。しかし、君の心を見た。この名を刻み付けてくれ、兄さん。僕を覚えている限り、離れることはない。」
旅人:
もう一つのバージョンは?
シロネン:
もう一つのバージョンは最近出たばかりなの。誰かからの助言を受けて急にまたこの童話を売り出そうとしたのか、作者が物語を書き直したんだけど…
シロネン:
そのバージョンじゃ、兄と弟が協力して魔王を殺し、二人とも生き残るんだよね——作者の言葉を借りると「ハッピーエンド」ってやつ。
シロネン:
でも、受けがあまりよくなくて…発売一ヶ月後も売れなかったんで、お店は大量の在庫を抱えることになった。
シロネン:
どの店も在庫処分のためにセールだのおまけだの、いろいろやってさ。
シロネン:
結果、未だに新しいバージョンしか市場に出回ってなくて、評価が高かった古いほうは手に入らなくなったってわけ。
シロネン:
でも、だからって評判の悪い新バージョンをプレゼントするわけにもいかないっしょ?何日もかけて倉庫を漁って、やっと何冊か古い版の『勇敢なテクィ』を見つけたんだ。
シロネン:
で、その中から一冊、比較的状態のいいやつを選んで、カバーもつけて、プレゼントにしようって思ったの。
シロネン:
これ、余ったほう、よかったらあげるよ。ページがボロボロだから、読むときは気をつけな。
シロネン:
あと…こっちの新しいバージョンもあげる。この間「ショコアトゥル水」を買ったらおまけでもらっちゃった。
パイモン:
そこまでしないと売れない本って…どんだけひどいのか気になってきたぞ。
シロネン:
さ、そろそろ行こ。ラゾーリおばちゃんの家は集落から遠いから、時間かかるよ。
ラゾーリを訪ねる
ラゾーリ:
イェング、いい子だから巣に戻りなさい。ニエガはまだ休んでいるの。
イェング:
キュー…
パイモン:
ラゾーリ、オイラたちが来たぞ!
ラゾーリ:
まあ、急にどうしたの?シロネンまで…
旅人:
ニエガに会いにきた。
シロネン:
お久しぶり、ラゾーリおばちゃん。
シロネン:
ニエガから手紙、受け取ったよ。『勇敢なテクィ』がほしいって書いてあったから持ってきた。
シロネン:
でもこの本って色んな装丁が出てるじゃん?どんなのが好きなのかわからなくて。
シロネン:
「懸木の民」の伝達使に聞いてみたら、こーゆー柔らかいカバーのが流行ってるんだって。だからこれを買ってきた。
ラゾーリ:
ふふ…シロネンは相変わらずね。
ラゾーリ:
さあ、中に入って。ちょうど「ショコアトゥル水」を作っていたところなの。味見していってちょうだい。
ラゾーリ:
シロネンは小さい頃「ショコアトゥル水」が大好物でね、うちに来るたび、何度もおかわりしていたのよ。
ラゾーリ:
シロネンがこれくらいの頃、やっとニエガが生まれて…まあ、とにかくまずは中に…
ラゾーリ:
う…っ!
シロネン:
…おばちゃん、早く家に入ろ。
シロネン:
旅人、一緒におばちゃんを支えてて。
旅人:
うん。
パイモン:
オ、オイラも手伝うぞ!
パイモン:
イェング、いい子にしてろよ。邪魔しちゃだめだからな。
イェング:
キュ!キュー…
シロネン:
早く中に入ろう。おばちゃん、足もとに気をつけて。
ラゾーリを部屋で休ませる
ラゾーリ:
ごめんなさいね。何日か前にニエガの症状がまた重くなって…看病で数日眠れてないの。
ラゾーリ:
急に日に当たったら頭がくらっとしたわ。びっくりさせちゃったかしら?
ラゾーリ:
「ショコアトゥル水」を持ってくるからみんなは座ってて。すぐ戻るわ…
シロネン:
もう持ってきてあるよ。はい、おばちゃんの分。こっちはあんたたちの。
パイモン:
「ショコアトゥル水」って…ショコアトゥルの種で作るのか?苦いらしいけど、実際どうなんだ…?…旅人、先に味見してくれよ。
シロネン:
だいじょぶだいじょぶ。おばちゃんはショコアトゥル水を作るときいつも砂糖をめちゃくちゃ入れるから、そんなに苦くないよ。
ラゾーリ:
…前に来たときはあんなに小さかったのに。今のあなたはもう、「こだまの子」を…いや、ナタを背負って立てるわね。
シロネン:
おばちゃんちで飲んだドリンクと読んだ本のおかげだよ。
旅人:
けっこう長い付き合いなの?
パイモン:
ラゾーリとシロネンが同じ部族の人だってことは聞いてたけど、こんなに仲が良かったんだな。
シロネン:
子供の頃、父さんと母さんは、ラゾーリおばちゃんの「古名」作りの技術が素晴らしいとか、お手本にするべきとか、そんなことばかり言ってたな。
シロネン:
家でゴロゴロしてると、いつもおばちゃんの工房に連れて行かれて、ちゃんと見て学べよとかって言われてさー…
ラゾーリ:
ご両親には先に帰ってもらって…「ショコアトゥル水」を作って、部屋で遊んでもらっていたわね。
シロネン:
そうそう。んで、カンカンって仕事の音を聞きながらドリンクを飲んでたんだ。
シロネン:
でも、おばちゃんが工房を広げるために集落を出てってからは…ウチも遊びにいかなくなった。
パイモン:
へえ、でもさっき、キッチンにドリンクを取りに行ってくれただろ。なんでスイスイ場所がわかったんだ?
シロネン:
昔おばちゃんが住んでた家と、ここは間取りが完全に一緒だから。
シロネン:
例えば…ね、あそこがニエガの部屋でしょ?
ラゾーリ:
そうそう。ふふ…あの頃は、あの子の寝室にこもって本を読んだり絵を描いたりするのが大好きだったわね…
ラゾーリ:
でも、今はもう大きくなったから、居着きたくてもニエガのベッドじゃ横になれないわね。
ラゾーリ:
ニエガもそう思っているわ。少し元気が出てくるとすぐに、手紙を書いてくれているシロネンお姉ちゃんはいつ会いに来てくれるのってしつこく聞いてくるのよ。
シロネン:
だからこうして来たんだって。お詫びにプレゼントまで持ってきたし。本はそこに置いといたよ。
ラゾーリ:
あら、あの子がねだったの?悪いわね…家にいても遠慮がちで、おやつだって聞いてから食べるのに、あなたにはプレゼントをねだるのね…
ラゾーリ:
はぁ…厳しく育てすぎたのかしら。母よりお姉ちゃんのほうが懐かれているわ。
シロネン:
そうなの?だったら余計、頼りないお姉ちゃんで申し訳ないや。
シロネン:
病気が悪化したときは何の役にも立てなかったし、お見舞いも数えるほどしか来なかった。できたのは欲しい本を見つけてあげるくらいだよ。
ラゾーリ:
自分を責めないで。あなたには部族の名鋳り師としての重い責務があるんだもの…他に気が回らなくても仕方ないわ。
ラゾーリ:
特に…私が仕事を放り出してから、あなたの負担はますます重くなった。
シロネン:
おばちゃんにはニエガのお母さんとしてやるべきことがあったってことは、部族のみんなもわかってるって。ニエガにはお母さんが必要だった。
ラゾーリ:
それでも、責任を放棄したのは変わらないわ。それに…今もまだ、再びハンマーを握る勇気がないの。
ラゾーリ:
全部あなたに押し付けて、ごめんね。
シロネン:
……
パイモン:
く、空気が重いぞ…二人とも元気出してくれよ!ニエガはもうよくなったんだろ?
シロネン:
心配しないでよ、おばちゃん。ウチ一人で大丈夫だからさ。でも、ニエガが完全に元気になったら戻ってきて——そしたら、長い休暇を取れるから。
シロネン:
戻ってきたらバリバリ働いてもらうから覚悟しててよ。手も貸してあげない。隣で「ショコアトゥル水」を飲みながら応援してるよ。
ラゾーリ:
ふふ…本当にそうなったらいくらでも「ショコアトゥル水」を飲んでもらっても構わないわ。
ラゾーリ:
ふふ…前まではこの話題に触れるのも怖かった。
ラゾーリ:
でも今はニエガがだんだん元のように元気になってきてくれているから、あの時のことに向き合う勇気も…多少は出て来たわ。
ラゾーリ:
実は、あの子の「病気」は「アビス」のせいなの。
ラゾーリ:
その日の夜は、集落で次の古名作りに関する相談をしていた…
ラゾーリ:
すると、急に外から警告の角笛の音がして、無数のアビスの魔物が集落に奇襲をかけてきたの。私を含めた部族の全員が迎撃に出たわ。
ラゾーリ:
魔物を撃退したあと、部族の守衛と一緒に家に帰って…ニエガが家にいないことに気づいたの。
ラゾーリ:
どれほど探したんでしょうね…二、三日かしら?結局、そう高くはない崖の下であの子を見つけた。
ラゾーリ:
あの子は手に枯れたエンバーコアフラワーを握ってた…そして傷口にはアビスに侵食された痕跡が残っていたわ。
ラゾーリ:
私の…私のせいなのよ。ああなる前に、古名を作ってくれないかとあの子に聞かれたの。
ラゾーリ:
当時は仕事で忙しくて、私…エンバーコアフラワーを見つけてくれたらそれを原材料に古名を作ってあげるって…言ったのよ…
ラゾーリ:
ニエガを…ニエガをこの腕に抱えて…どんなに名前を呼んでも、目を開けてくれなかったわ…
ラゾーリ:
私が古名を作るために工房を郊外に移したから…ニエガを一人で家に置いてきてしまったから…
ラゾーリ:
うぅ…ううっ…私の娘…私のニエガ…どうしてあんな苦しい目に遭わせてしまったのかしら…
パイモン:
わっ!そ、その…そんなに思い悩むなよ!ニエガはもう元気になったんだろ?
パイモン:
手紙も書けるようになって、それでオイラたち…いや、シロネンがプレゼントを持ってきたわけなんだし!
ラゾーリ:
ごめんなさい…思い出すたびに、感情をコントロールできなくなっちゃうの…
ラゾーリ:
ふぅ…ごめんなさいね。せっかく来てくれたお客さんを涙でもてなすわけにはいかないわ。
ラゾーリ:
食材を頼んであるから、夕飯はうちで食べていって。チュペ・デ・カマロネスと、魚のミントソースグリル、メインのお料理はタタコスよ。
パイモン:
そんなに沢山、一人で作るのは大変じゃないのか?オイラたちも手伝うぞ!
ラゾーリ:
ふふ…ありがとう。でも大丈夫、お料理くらいどうってことないわ。
ラゾーリ:
あなたたちは食べるのをメインにお願い。私はもう若くないから、そんなにたくさん食べられないわ。
パイモン:
えへへっ…オイラたち、ちょうどお腹空いてたんだ!絶対完食できるぞ!
ラゾーリ:
そういえば、シロネンはパステル・デ・ハイバが好物だったわね?魚のミントソースグリルはやめて、パステル・{RUBY#[D]蟹グラタン}デ・ハイバにしましょうか?確か、魚の骨を取るのが苦手だったのよね。
シロネン:
どっちでも。今は魚を骨ごと噛み砕いて飲み込めるから。
ラゾーリ:
もう、そんなことしなくても魚の骨くらい取ってあげるわよ。
ラゾーリ:
それと…食後のデザートはグレインの実がいい?それともチョコレート?
パイモン:
グレインの実!
旅人:
チョコレート!
シロネン:
チョコとグレインの実!
ラゾーリ:
ふふ、わかったわ。さて、料理の準備をするから、少しだけ手伝ってもらおうかしら。
ラゾーリ:
注文した食材がもうすぐ届くはずだから、入り口のところで待っててくれる?届いたら中に運んでちょうだい。
ラゾーリ:
…シロネン、起きなさい。食欲がなくなるから、ご飯の前に寝ちゃだめよ。
シロネン:
もう、子供じゃないんだけど。食欲もバッチリだってば。
ラゾーリ:
子供じゃなくてもだめなものはだめ!若いうちに体には気をつけておかないと、年をとってから…
シロネン:
わかったわかった、行ってくるって!
パイモン:
オイラたちも行こうぜ!すぐそこだし、そんな手間でもないだろ。
ラゾーリ:
はぁ…あの子ったら…
ラゾーリを手伝い、荷物を取り戻す
パイモン:
…誰もいないぞ。外に出ればすぐに誰かがユムカ竜に乗って空から降りてくるって思ったのに…
シロネン:
「懸木の民」の伝達使は空から降りてきたりしないよ。フツー、崖から降りてくる。
シロネン:
見なくていいよ、いないから。
トラパル:
くそったれが!はぁ…はぁ…
トラパル:
おい!お前ら…すまんが、ラゾーリの家がどこにあるか知らないか?
パイモン:
食材を届けに来たのか?
旅人:
食材はどこ…
トラパル:
食材?危うく俺が食材になるところだった!
トラパル:
魔物たちが追ってきてる!話はあとだ、お前らも手伝ってくれ!
パイモン:
シロネン、オイラたち…あれ?シロネンは?
パイモン:
わっ!もう魔物と戦ってるぞ!オイラたちも早く行こう!
トラパルの状況を確認する
シロネン:
よし…これで全部。楽勝楽勝。
シロネン:
荷物もほぼ無傷じゃん。ラッキーだったね。
パイモン:
おかしいな…オイラたちが来た時は、こんなに沢山の魔物、いなかったぞ。
トラパル:
運だって?俺は昔からよくこの道を配達で使うが、これだけの魔物に襲われたのなんか初めてだぞ。
トラパル:
それにここは集落に出入りするための主要な道だから、部族のやつらが時々魔物を退治してる。安全なはずだ。
トラパル:
ただ…最近、理由は分からないがここいらの魔物が狂いだして、普段はおとなしいテペトル竜まで暴れ出してるんだ。
トラパル:
はぁ…ラゾーリのやつ、どうせ古名作りももうやってないんだから、集落に戻ってくりゃいいのに…
トラパル:
そうすればニエガだって一緒に遊ぶ友達ができる。あの子はまだあんなに小さいのに、まだ一度も…
トラパル:
ん…ニエガの友達…あれ?うちの子、ニエガに会ったことあったよな…確か、ニエガの好きな遊びも知ってるって言ってたような…
トラパル:
おかしいな…急に思い出せなくなった…
パイモン:
…おい、こいつも「燃晶名刻」を持ってるぞ。
シロネン:
…ショックのあまり記憶が混乱してるみたいだね。早く集落に戻りなよ、食材はウチらで運んどくからさ。
シロネン:
こっちはウチが持つから、残りはお願い。
トラパル:
ありがとな!じゃあ、あとはよろしく頼んだ。今日は出かけるんじゃなかったぜ…
トラパルはシロネンのそばを離れた…
シロネン:
……
パイモン:
なんかおかしいよな…なんで今日会った人たちはみんな色々忘れちゃってたんだ?
旅人:
しかもみんな「燃晶名刻」を持ってる。
パイモン:
なんていうか…裏があるような…変な感じがするぜ。
シロネン:
長く生きてれば変な日もあるって。
シロネン:
とにかく食材を運ぼう。じゃないと夜ご飯が食べられないよ。
ラゾーリの家に戻る
ラゾーリ:
やっと帰ってきたのね。遅かったから、ちょっと心配してたのよ。
シロネン:
ちょっとしたトラブルがあったけど、もう解決した。
ラゾーリ:
そう…解決したのならよかったわ。じゃあ、夕飯を作ってくるわね。すぐできるからみんな座って待ってて。
ラゾーリがてきぱきと調理を始めた。しばらくすると、豪華な料理が次々とテーブルに運ばれてきた。
パイモン:
うわぁ——美味しそうなものがいっぱいだぞ!ラゾーリ、おまえすごいな!
ラゾーリ:
簡単なものばかりだけどね。さあ、遠慮しないでどんどん食べて。
パイモン:
へへっ、自分で取るぞ。うーん…これとこれと、あとこれも食べたい!!
シロネン:
おかわり。
パイモン:
も、もう食べたのか!?おまえ、魚とかちゃんと噛んで食べたか?
シロネン:
そりゃそーよ。魚は骨ごと噛み砕くってさっき言ったじゃん。
シロネン:
もう一匹だけちょうだい。あとはニエガにとっとく。
ラゾーリ:
いいのよ。ニエガはこういうものは食べられないから、全部食べてちゃっていいわ。
ラゾーリ:
あの子の体じゃスープしか飲めなくて…こういうのを食べても消化できないのよ。
パイモン:
そんな…でも、ニエガはもうだいぶ良くなってきてるんじゃないのか?
ラゾーリ:
アビスの影響は不可逆でね…あの子の状況だと現状を維持するのが限界だってお医者さんが言っていたわ。
ラゾーリ:
でも大丈夫よ!今は話もできるし、手を繋ぐこともできるから…十分よ。
ラゾーリ:
…たとえあの子が、二度と私のことを分からなくても。
パイモン:
えっ?どういうことだ?
ラゾーリ:
お医者さんは、アビスがあの子の魂に不可逆の影響を与えたって言ってたわ…それで…怪我をする前の記憶をすべて失ったんだって。
ラゾーリ:
あの子は単純に「忘れた」のじゃない。過去に起きたことを二度と思い出せなくなったのよ。
パイモン:
え?過去に起きたことを思い出せないってどういうことだ?
ラゾーリ:
「謎煙の主」が記録に使っている織物——ウォーベンのことは知ってるかしら?
ラゾーリ:
「忘れる」というのは、「ウォーベン」が色褪せることに似ているの。塗り直せば、色褪せた記憶は再び蘇る。
ラゾーリ:
でもニエガは…「ウォーベン」の一部を切り落として、灰になるまで焼き尽くしてしまったような状態なの。
ラゾーリ:
好きだった本や花、この家で過ごした日々のことはすべてアビスによって切り落とされた。もう二度と蘇ることはないの。
ラゾーリ:
わかりやすい症状で言えば…今のあの子にとって私は「お母さん」を自称する知らないおばさんにしか見えていないわ。
ラゾーリ:
いい子だから、一生懸命看病してくれているおばさんを悲しませたくなくて、「お母さん」って呼んでくれているけど…
ラゾーリ:
本当はずっと、本当のお母さんはどこにいるのか、どうして自分がここにいるのか…もしかしたら、本当のお母さんに捨てられたのかもって、不安な気持ちでいると思うわ。
ラゾーリ:
本当のお母さんはこうしてすぐ目の前に、ずっと一緒にいるのに…あの子にはもうわからない…
シロネン:
だから、自分の手で「ウォーベン」を織り直してあげることにしたの?
パイモン:
え…?シロネン、一体何を言ってるんだ?
シロネン:
それとも…ずっと前から「ウォーベン」の修復は始まってたのかな。
シロネンは「燃晶名刻」を一つ取り出した…
シロネン:
宅配の兄ちゃんのやつだよ。腰についてたから、ちょっと貸してもらった。
ラゾーリ:
……
シロネン:
全部の答えがわかったらちゃんと返すから大丈夫だってば。安いものじゃないしね。
ラゾーリ:
いつから気づいてたの?
シロネン:
「燃晶名刻」が部族で流行り出した時期から目をつけてた。
シロネン:
そのときから、名刻を身につけてる人の記憶が多かれ少なかれ混乱してるってことにも気づいてた。
シロネン:
旅人たちもちょっとは違和感あったでしょ?
シロネン:
「古名の製造技法で作ったアクセサリー」…ただのアクセサリーにしちゃ、中の「燃素銘刻」があまりにも複雑すぎる。
シロネン:
それに、銘刻の形も流れも「古名」のと一緒だし。
シロネン:
いくつかメインの流れとかつなぎ方をちょこっといじるだけで——「燃晶名刻」はほとんど「古名」って言えるものになる。
シロネン:
…「燃晶名刻」の中にはいつでも起動できる「燃素銘刻」が仕込まれてる。なのにおばちゃんは——
シロネン:
それを誰にも話してなかった。でしょ?
ラゾーリ:
…やっぱりあなたには隠し通せないわ。
ラゾーリ:
ええ。ニエガの過去の記憶を取り戻す方法はあるわ。とても簡単な方法よ。
ラゾーリ:
あの子のために過去の記憶を入れるための「古名」を作ってあげるの。
シロネン:
どうして大霊に認めてもらわないといけないか知ってる?「古名」が扱う記憶は全部地脈に保管されてるからなんだよ。
シロネン:
で、地脈から「記憶」を抽出するためには大霊の協力が必要。
シロネン:
でもおばちゃんは地脈から記憶を抽出するつもりはないんだよね?
シロネン:
そうじゃなくて、「燃晶名刻」を使ってニエガのための巨大記憶データベースを作るつもりなんだ。そうでしょ?
シロネン:
「古名」を作るのは、「記憶データベース」から記憶を抽出するのに古名が必要だから。
パイモン:
記憶のデータベースを作る?ちょっと待ってくれ。ってことは、急にみんな色々忘れちゃったのは、「燃晶名刻」にニエガの記憶を持っていかれちゃったからだったのか!?
シロネン:
他の人の「記憶」を使ってニエガの「過去」を補完する…なかなか斬新なやり方だ。
ラゾーリ:
もう私の考えなんてお見通しね。シロネンは昔から本当に優秀だわ…私なんかよりずっと。
ラゾーリ:
そうよ。こうやってニエガに関する記憶の整合性をとって、あの子の過去を取り戻してあげるつもりなの。
パイモン:
で、でも…「燃晶名刻」に記憶を吸われた人たちはどうなるんだ?
ラゾーリ:
安心して。部族の人たちに危害を加えないように、「燃晶名刻」による記憶の抽出はちゃんと細かく制御しているわ。
ラゾーリ:
これは「燃晶名刻」を制御するための「中枢名刻」よ。
ラゾーリ:
…そして、この「中枢名刻」こそが、これからニエガが持つことになる「古名」なの。
パイモン:
これ…全部ラゾーリが一人で作ったのか?
ラゾーリ:
そうね…たくさん頑張ったわ…おかげでとても疲れちゃった。歳を取りすぎたのかしらね。
ラゾーリ:
あなたたちも見たでしょう…?日の光にちょっと当たっただけで、倒れそうになっちゃうのよ…
ラゾーリ:
もしかしたら明日…いや、今すぐ倒れてしまうかもしれない。でも、ニエガの古名はまだ完成していない。
ラゾーリ:
記憶をしまうところまでは出来たけど…まだあの子とこの「中枢名刻」をリンクさせる方法がわからないの。
シロネン:
おばちゃんの「古名」を改造するのかと思った。
ラゾーリ:
それも考えたわ。でも私の「古名」とあの子のことは関係ない。
ラゾーリ:
…助けにならないし、今は必要ないわ。
シロネン:
わかってると思うけど、こんなものを作るにはかなりの「代償」が必要だよ。
ラゾーリ:
わかっているわ。でも…私のニエガが帰ってきてくれるのなら、すべてを差し出しても構わない。
ラゾーリ:
今、やらなきゃいけないの。そうじゃないと…私がいなくなったら、あの子はもう二度と自分の「過去」を取り戻すチャンスに巡り会えない。
ラゾーリ:
そうなったら、あの子は私のことも、どうして自分の名前が「ニエガ」なのかさえ忘れたまま…
ラゾーリ:
自分がどこから来たのか、どこに行けばいいのかもわからないまま…一人で孤独に世界を彷徨うことになるのよ。
ラゾーリ:
あの子は私が名前をつけた、私の娘…母としても名鋳り師としても、あの子の「名」がこのまま失われるのを見ながら、ただ手をこまねいているわけにはいかないわ。
パイモン:
シロネン…
シロネン:
「中枢名刻」は持ってくよ。
シロネン:
バラバラにして構造と具体的な用途を確かめる。
シロネン:
それがわかるまで何も言えない。
シロネン:
ニエガにおやすみって言っといて。
ラゾーリ:
あの…ちょっと待って!旅人さんとパイモンちゃんに作った名刻が完成してるから、取ってくるわ。
ラゾーリ:
待たせてしまってごめんなさいね…
シロネン:
それはおばちゃんがしまっといて。
シロネン:
旅人とパイモンはニエガに会ったことないから、記憶は抽出できないよ。
ラゾーリ:
そんなつもりは…これはただのお礼よ…受け取って…
部屋のほうから、急に物音が聞こえた…
パイモン:
んっ?何の音だ…
ラゾーリ:
ニエガが起きたのよ。あの子ったら、また一人でベッドを降りようとしているんだわ…ごめんなさい、先にあの子の様子を見てくるわね。
ラゾーリ:
ニエガ!一人でベッドから降りないで!ほしいものがあったらお母さんが取ってくるから!
シロネン:
おばちゃんはニエガの面倒を見てて。
シロネン:
…行こう、旅人、パイモン。話したいことがある。
シロネンは「燃晶名刻」の製造法を解明し、ラゾーリの目的を推測した。念のため、シロネンは「燃晶名刻」を完全に分解し、構造を分析するという。その結果で、ラゾーリを手伝って重病のニエガを助けるかどうかを決めるようだ。
シロネンの工房に行く
シロネン:
いるモノ取ってくるから外で待ってて。中は散らかってるから案内はやめとく。
シロネン:
えっと…誤解誤解。汚いから恥ずかしくて見せられないとかじゃなくて。
シロネン:
本とか書類とか、「謎煙の主」からもらってきた典籍とか、モノで溢れててさ。
シロネン:
びっしり天井まで積まれてるから、足の踏み場がないって意味。
シロネン:
一回、資料を調べるのに夢中で鍵をかけ忘れちゃったことがあってさ…カチーナが入ってきて、大変な目に遭ったらしいんだよね…
シロネン:
工房に入ったらソッコー巨大な「謎煙の主」のウォーベンに驚いて、振り返ったら今度は鍛造図の本の山をひっくり返して…
シロネン:
崩れてくる本を避けようとしたら、今度は後ろの図面ケースにつまずいて転んだところに分厚い鍛造図の本がすっごい勢いで頭に落ちて来たんだってさ。
パイモン:
うわぁ…
シロネン:
なんとか。でも意識がぼんやりしてたみたいで、「こだまの子」の部族誌に埋もれそうになってたよ。ちょうどウチが気づいて手遅れになる前に二階に引き上げたからよかったけど。
シロネン:
あれから、カチーナはうちに来るとき、ゼッタイ中に入らないんだよねー。
パイモン:
シロネンは「職人」だもんな。オイラも工房の中は武器とか鎧とかでいっぱいなんだと思ってたぞ。
パイモン:
でも、それなら工房っていうより図書館みたいだな。
シロネン:
ま、ウチの本職は「古名」作りだしね。「古名」を作るのってめっちゃ大変だよ。剣とかクワと違って、必要な技法の参考書のほかに典籍も色々読まないとだし。
シロネン:
あんたたちも知ってると思うけど、「古名」は何らかの「精神」を表すものなんだ。つまり、「精神」を反映する無数の事績が伴うのがフツー。
シロネン:
もっと簡単に言うと、「古名」の本質はある種の「精神」の具現化だってこと。
シロネン:
「古名」の名鋳り師として新しい「古名」を作るとき、作業としての鍛造だけをやって終わりってわけじゃない。
シロネン:
「古名」が表す「精神」を明らかにするほうが大事なんだ。
シロネン:
でもって、「精神」を明らかにするには、関係がありそうな物語をできるだけ集めて、全部に目を通すしかない。
シロネン:
でも…人って自画自賛する時、結構話を盛っちゃったりするじゃん?
シロネン:
明らかに盛ってたり、アレンジが入ってたりしそうな物語があったら、今度はその物語に関係ありそうな物語や資料を芋づる式で探してきて、集まったものを照らし合わせてみるしかなくて…
シロネン:
それができてやっと、物語の装飾部分を剥ぎ取って、真実に近い状態に戻すことができるワケ。
シロネン:
真実の物語からしか、真の「精神」は見つけられない。
シロネン:
ソレを見つけてようやく、ウチらはその核を「古名」として具現化させることができるの。
パイモン:
「古名」の原理は聞いたことがあったけど…改めて詳しく説明されると、なんだかすごいな!
旅人:
もうちょっとすごかったら…
シロネン:
いくらすごい「古名」でも、武器に変身したり拳で山をぶち抜く力を授けたりはムリだかんね。
シロネン:
あくまで代々引き継がれる「精神の力」だから、そーゆー分かりやすい効果はないの。
シロネン:
んー…例えば二人の名前もそう。
シロネン:
生まれたときから、誰かが二人に「祝福」を用意してくれてた。
シロネン:
その人は「祝福」を「名前」に集約して、二人に与えた。
シロネン:
二人が名前を授かったのは過去の出来事かもしれないけど、その「名前」は二人と一緒に未来に向かって歩んでくれてる。
シロネン:
「名前は、過去に立つ人々が未来に贈る祝福」——ラゾーリおばちゃんが昔教えてくれたコトなんだけどね。
シロネン:
「名前」ってゆー「祝福」が一緒にいてくれることで、人はより安心して未来に進めるんだ。ほら、夜道を歩くとき、ランプがあると多少安心するじゃん?
パイモン:
おお!わかるぞ!くらーい夜道を行くときって、一人だと怖くて、しかもすぐ疲れちゃうんだ。
パイモン:
でも誰かと一緒ならそんなに怖くないし…疲れはするけど、一人よりはマシだぜ。
パイモン:
こいつの傍にはいつもオイラがいるから、そんな心配ないけどな。
パイモン:
ふふんっ、ほんと、おまえってついてるよな。
旅人:
いつも先にバテるのはパイモンだけどね。
パイモン:
オイラは飛んでるから疲れやすいんだ!っていうか、話がそれたじゃないか!本題に戻ろうぜ…
シロネン:
とにかく、それが名鋳り師になる訓練を受けたときにラゾーリおばちゃんから教わったコト。
シロネン:
正直ウチは二割くらいしか理解できてないけどね。
パイモン:
それ、ほとんどわかってないじゃないか!?
シロネン:
いや。少なくとも一番大事なところについてはおばちゃんと同意見だから。
シロネン:
ちょっと話しすぎちゃったや、残りはあとで。ここで待ってて、取ったらすぐに戻ってくるから。
シロネンはドアを開けて工房に入った。中から不安をかき立てるような鈍い衝突音が聞こえ、そのあと、ぞっとするようなギシギシという音が続いた。
やがて、箱を抱えたシロネンが駆け足で戻ってきた。彼女は境界を越えた瞬間、振り返りざまにドアを蹴り、舞い上がったほこりと本が落ちる音を工房の中に閉じ込めた…
パイモン:
何か崩れてないか!?
シロネン:
ゲホ…ゲホゲホ…だいじょぶだいじょぶ、ずっと前の「古名」の記録だから。とっくに写しはとってある。
シロネン:
この「燃素楔」のセットが奥に埋まりすぎてラクに取り出せなかったから、ちょっと力技を使うしかなくってさ。
シロネン:
さて、「中枢名刻」を分解しに行こ。そんなに時間はかかんないはず。
シロネンを手伝って「燃晶名刻」を分解する
シロネン:
着いた、ここだよ。
パイモン:
高い崖だな…どうやって分解するんだ?あの山のてっぺんから名刻を投げるのかよ?
シロネン:
この崖の面に燃素を刻印して、「中枢名刻」の内部構造を調べるよ。
シロネン:
さてさて…ちゃんと起動できるかな。前回使ったときはまだ見習いだったんだよねー。
シロネン:
古名の内部の燃素銘刻を作るときは、さきに崖や空き地で同じ構造の銘刻図を作るの。
シロネン:
んで、燃素がちゃんと銘刻の脈道を通れるなって確認してから、古名の内部に小型の脈を刻むんだ。
シロネン:
「中枢名刻」に損傷を与えずに分解するにはこいつを使わないと…巨大な銘刻図を手で刻みたくないしね。
パイモン:
えっ!それじゃあ…この名刻を壊さずに中を調べられるのか!?
シロネン:
まあそんなとこ。普通の未完成の古名の殻なら、直接こじ開けて燃素で中の銘刻を押し流せばなんでもわかるんだけど…
シロネン:
この「中枢名刻」は…まっ、勝手におばちゃんからのニエガへの祝福を壊すのも気が引けるしね。
パイモン:
この「中枢名刻」って、シロネンが理解してる二割に入ってるのか?それとも、わかってない八割のほうか?
旅人:
八割の確率で二割じゃない?
シロネン:
大丈夫だって。一番大事なとこについてはおばちゃんと同意見だって言ったっしょ?
シロネン:
ウチもおばちゃんも「名前」自体に価値があるってことは認めてる。
シロネン:
名前があってこそ、物事を分類して数えることができる。だからこそ、世界は整理されて、理解できるものになるんだよ。
シロネン:
たとえば、鉱石を注文するとき、ウチは「純度三十五くらい、不純物の含有量三パーセント以下の火山晶石をください」とかって言う。
シロネン:
でも、名前がなくなったらどうなると思う?「これとこれを下さい…いや、やっぱりこっち…いや、それじゃなくてあっちの…」みたいな感じになっちゃうでしょ。
シロネン:
「名前」は職人の仕事の標準化プロセスにおいて一番大事ってこと。「名前」がなくなったら仕事にならないよ。
シロネン:
実際、「古名」の製造は根本的には技術的な問題だしね。
シロネン:
「名前がどうして重要なのか」とかそっちの問題は、仕事に支障をきたさない範囲で、実践しながら理解していけばいーでしょ。
シロネン:
「古名」を作るのは簡単じゃないからね…
シロネン:
んー…どうせ今集落にいないし言っちゃおっか…もうちょっとわかりやすく言うとね、「古名」を作るのは本質的にはナタの歴史上の英雄たちに「あだ名をつける」営みなわけ。
シロネン:
人に名前を与えるのは、その人に対しての自分の願いを表現できればいいから、主観的でいいっしょ?
シロネン:
でもあだ名は客観的でないと。正確なあだ名をつけるには、めっちゃ観察してめっちゃ考えないといけないんだ。
シロネン:
「古名」…ってか、あだ名が十分にその人のエッセンスを捉えてないと、誰も覚えてくれないしね。
シロネン:
だからウチはできるだけ使えそうな資料を集めて、正確なあだ名をつけようと努力してる。
シロネン:
もしそれが少しでもずれてて、みんながあだ名を誤解してしまうようなことがあったら、それはウチの名鋳り師としての大きな失敗になるから。
パイモン:
シロネンにあだ名をつけようなんて思ってないぞ!それにもともと、オイラのつけるあだ名は特徴をちゃんと捉えてて覚えやすいしな!
シロネン:
気になるなー。パイモン、ウチにもあだ名をつけてよ。
パイモン:
えっ?本当につけてほしいのか?
シロネン:
もちろん。あだ名をつける者同士、遠慮することないって。
パイモン:
えーっと…あだ名…あだ名…シロネンは…燃素を使って武器を作る…それから、人にあだ名をつける…
パイモン:
…ね、燃素いじり?
シロネン:
あははは!いーねいーね、いい得て妙じゃん。覚えとくよ。
シロネン:
パイっちも、もうちょっとウチの仕事を観察してれば、もっといいあだ名が思いつくようになるかもね。
シロネン:
これから「燃素いじり」してくるから、まあ見ててよ。
シロネンの分解した「燃晶名刻」について聞く
パイモン:
シロネン、おまえ…崖を平地みたいに駆け回って、すごかったぞ!
旅人:
これが「こだまの子」の実力?
シロネン:
「こだまの子」は関係ないよ。あれはこの燃素を入れた靴と燃着反応のおかげ。
シロネン:
でもさっきので入ってた燃素をほとんど使いきっちゃった…次からは予備の燃素缶も持ってくるか。
旅人:
装備をたくさん持ってきたの?
シロネン:
まあね、使えそうなやつは全部。
シロネン:
今度時間があったら装備を紹介してあげる。今はまず目の前の仕事に集中しよ。
シロネン:
どれどれ…アンカーの一番から…濃度三の燃素でアクティブ化、と…
パイモン:
うわぁ!崖に大きな図面が出てきたぞ!
パイモン:
ラゾーリの作った「中枢名刻」が浮いてる…
やがて燃素の衝撃が終わり、「中枢名刻」がシロネンの手元に戻った。
パイモン:
シロネン、調査は終わったのか?結果はどうだった?
シロネン:
燃素銘刻に異常はなかったよ。細かい調整もすべて「古名」の製造技法によるものだった。
パイモン:
それじゃあ、オイラたち、ラゾーリとニエガの手伝いをしてもいいってことなのか?
シロネン:
まあね。でも、いい知らせと悪い知らせがある…あっ、選べとかじゃなくて、普通に両方教えるけど。
パイモン:
いい知らせを聞き終わったら耳を塞ぐぜ…
シロネン:
聞かなくても事実は変わらないけどね…それと、話す前に旅人に一つ質問がある。
シロネン:
「記憶の抽出」についてどう思う?
シロネン:
あんたらしい答えだね。
シロネン:
でもウチから見ると、おばちゃんの話には一つ穴があったんだよね。
シロネン:
まず、「記憶の抽出」には制御できない要素が多すぎる。技術的な観点から見れば、名刻の作動範囲はもっと広くできる可能性が高い。
シロネン:
おばちゃんの体は耐えられないだろうけど、協力者がいれば…名刻を使ってもっと大がかりなこともできるはず。
パイモン:
協力者って…なんかラゾーリが悪いことをしてるみたいに聞こえるぞ…
シロネン:
ここからいい知らせね。「燃晶名刻」は確かに犯罪にはうってつけの道具だけど、今んとこ協力者はいないっぽいし、名刻の力を濫用してるってこともなさそう。
シロネン:
つまり客観的に見て、「燃晶名刻」を使った犯罪が存在するかは一旦「結果待ち」ってとこかな。
シロネン:
んで、悪い知らせは…「燃晶名刻」には看過できない問題があるってこと。
シロネン:
前も言ったけど、「古名」は大霊の力を借りる装置なんだ。「古名」の所持者は大霊の力を使って地脈から情報を読み取ることができる。
シロネン:
「大霊」は「中継機」みたいなもんで、古名の所持者が地脈に含まれる情報を感知するのを助けてるってわけ。
シロネン:
「大霊」の力を借りないで、ほかの道具も使わずに地脈から特定の物語を見つけようとするのは…
シロネン:
大河の奔流から特定のサイズの砂粒を拾おうとするのと同じこと。
シロネン:
そういうこと。そんなことになれば、人は魂が抜けちゃったみたいになるか、気が狂ってずっとブツブツ呟き続けるようになるか、どっちかだろーね。
シロネン:
さて、おばちゃんが集めた記憶が地脈だとすれば、ニエガはその地脈で唯一古名を持ってる人ってことになる。
シロネン:
おばちゃんが何の道具も持たせずにニエガを記憶の大河に放り込むはずがない。そんなことをしたらあの子は膨大な記憶に流されちゃうからね。
シロネン:
とはいえ、「すべての記憶を失った」ニエガは、たとえ道具を使っても自力で「正しい過去」までたどり着けるはずない。
シロネン:
ニエガの「過去」をフィルタリングできるのは、おばちゃんだけなの。
シロネン:
だからウチは…おばちゃんが本当にしたかったことは、ニエガの「大霊」になって、必要なときに記憶の抽出を手伝うことなんじゃないかと思う。
シロネン:
理想的な状況なら、別になんの問題もない。毎回正しい記憶を見つけられるってことさえ保証できれば、ニエガは過去を取り戻したも同然になる。
シロネン:
おばちゃんはニエガのことならなんでも覚えてると思うから、間違えることもないだろうしね。
シロネン:
ただ…おばちゃんは「大霊」じゃない。あの体じゃ、もう長くは持たない。
パイモン:
でも、そんなのどうやって解決すればいいんだよ!どんな方法を使ったってラゾーリは…
シロネン:
「名前は、過去に立つ人々が未来に贈る祝福」…
シロネン:
ウチも決めた。おばちゃんに会いに行こ。
ラゾーリの家に戻る
ラゾーリ:
シロネン。もうどうするか…決まったみたいね?
シロネン:
うん。これはウチの研究をまとめたものだよ。「中枢名刻」のコントロールを調整する参考になると思う。
シロネン:
「燃晶名刻」の改造、ウチも協力したげる。でも、代わりにすべての名刻の管理と使用時の監督はウチがさせてもらうから。
シロネン:
それと名刻が汲み取れる記憶は、ニエガの「過去」に限定すること。期間については、また後で一緒に話し合お。
シロネン:
もし範囲を超える記憶の抽出が分かったら、犯罪行為として見るよ。その時点で「燃晶名刻」に関することはすべて中止。
シロネン:
あと、データベースの作成が終わったら、すぐに「燃晶名刻」の抽出機能を停止し、出力機能のみにして。
ラゾーリ:
ええ、約束するわ。
ラゾーリ:
ありがとう、シロネン。本当に…
シロネン:
おばちゃんも知ってるっしょ、ウチってこういうのに弱いたちだって。助けが必要なら、言ってくれればよかったのに。
ラゾーリ:
古名を作る技術を無断で他のものに流用するのは、あまり褒められたことじゃないでしょうから、私…
シロネン:
ま、確かにそーだね。でもさ、助けを必要とする子供や、失われそうになってる「名前」と比べたら、そんなの大したことじゃないでしょ?
シロネン:
すべて終わったら、一緒にパカルのところに行って、ぜんぶ話そ。いい?
ラゾーリ:
ええ。ニエガのためなら、どんな罰でも受けるつもりよ。
シロネン:
さぁて、まずはテーブルを片付けよっか。とりあえずプランを立てないとだね…
シロネン:
どうやって、ニエガに「燃晶名刻」をコントロールさせて、記憶を抽出させるか…じっくり考えないと。
シロネン:
そういえばおばちゃん。あの本はニエガにもう渡した?
ラゾーリ:
いえ、まだよ。せっかくニエガのために用意してくれたプレゼントだもの。そんなあっさり渡したらもったいないじゃない?
ラゾーリ:
綺麗な箱に入れておいたわ。誕生日当日のサプライズにしようと思って。
シロネン:
へっ、ただの古い本だし、そこまでしなくても…
部屋のほうから、再び重々しい異様な音が聞こえた…
パイモン:
ニエガがまた起きたのか?今回はずいぶんと大きな音だな。まるでなにかが床に落ちたみたいだったぞ…
パイモン:
ええっ!だとしたら大変だぞ!はやく見に行こうぜ!
ラゾーリ:
ニエガ!…大丈夫?
???:
…シロネンお姉ちゃん?
パイモン:
おお!おまえがニエガなんだな!
ラゾーリ:
…ニエガ、何度も言ったでしょう、ちゃんと休んでなさいって。昨日まで熱があったのよ。
シロネン:
おはよ、ニエガ。
ニエガ:
おはよう…シロネンお姉ちゃん。本、ありがとうね。何回も読んじゃった。
パイモン:
ん?何回も?でもさっき、本は箱に入れたって言ってなかった?
ラゾーリ:
きっとまた思い違いだわ。この子が読んだのはシロネンが贈ったものじゃなくて、私が買ったものよ。
ラゾーリ:
数日前、どうしてもその本が欲しいって言われてね。本には詳しくないけど…ダメもとで集落の中を探してみたの…
ラゾーリ:
で、やっと一冊見つけたからそれを買って、この子の部屋に置いといたのよ。
ラゾーリ:
けどその後、ニエガが急に高熱を出して、私も看病に追われてね。そしたら本のことも、シロネンにプレゼントをねだったことも、すっかり忘れてしまったみたい。
シロネン:
おばちゃん、その本ってどっちのやつ?
ラゾーリ:
どっち?ええと、確か本を売ってくれた店主は、ハッピーエンドのほうだって言ってたはずよ。今買えるのはそれしかないって。
ラゾーリ:
はぁ、私のせいで、モラを無駄遣いさせてしまったわね。それどころか、サプライズも台無しに…
シロネン:
いいって。たかが本だし、ニエガが喜んでくれてるならそれで十分だから。
パイモン:
ニエガは、まだオイラたちのことを知らないよな?オイラたちは…
ニエガ:
パイモンお姉ちゃんに旅人お兄ちゃんでしょ?お母さんから聞いたよ。
パイモン:
へへっ、オイラたちのことを知ってくれてたのか。
シロネン:
今日はなんだか体調良さそうじゃん。ずっと引きこもってたみたいだしさ、ウチらがニエガを連れて近くを散歩でもしてこよっか、おばちゃん?
ラゾーリ:
散歩ね…でも、ニエガの体じゃ…
シロネン:
だいじょーぶだって、おばちゃん。ウチと旅人がいる限り、ニエガの心配はいらないから。
シロネン:
もちろん、そう遠くまで行かないよ。万が一何かあったら、すぐ医者に連れてくし。
シロネン:
それに、もうすぐこの子の誕生日っしょ?その買い出しにちょうどいいんじゃない?当日はどーんと祝ってあげないと!
シロネン:
どーかな?
ニエガ:
お母さん、わたし走り回らないって約束するよ!
ニエガ:
この間も言ってたでしょ。もっと新鮮な空気を吸わないとって。
ラゾーリ:
…はぁ、仕方ないわね。分かったわ。
ラゾーリ:
ちょうど修理の終わった「燃晶名刻」を集落へ届けに行くから、一緒に行きましょう。
ラゾーリ:
あっ、ちょっと待っててくれる?ニエガの水筒とタオル、あとお薬を持っていかないと。それと日傘も…
ラゾーリはニエガの部屋に入ると、すぐに片付けを済ませて出てきた…
パイモン:
すごい荷物だな…
旅人:
野宿できそう。
ラゾーリ:
転ばぬ先の杖よ。さて、行きましょう。ニエガ、ちゃんといい子にするのよ。シロネンお姉ちゃんたちに迷惑をかけないようにね。
シロネン:
荷物はウチが持つよ。ニエガも遠慮しなくていいから。何かあったらすぐ言ってよ。子供の頃、ウチも散々おばちゃんの世話になったし。
パイモン:
へへっ、そうだぞ!せっかくのお出かけなんだ、思いっきり羽を伸ばさないとな!変な遠慮はするなよ!
ニエガ:
うん!みんなありがとう!お母さんも安心して!
ニエガ:
ちゃんといい子にしてるから。
「燃晶名刻」をイクナルに返す
イクナル:
ラゾーリ、集落に来るなんて、どうしたの?…あれ?ニエガちゃんまで来てるなんて。
イクナル:
順調に良くなってるみたいだね!お散歩ができるようになったんなら、もう少ししたらチャニルたちとも一緒に遊べるんじゃない?
ラゾーリ:
そうなるといいわね。今日はこれを持ってきたの——はい、修理を頼まれてた名刻よ。
イクナル:
えっ、わざわざ届けに来てくれたの?ありがとう!そうだ。この間いい鉱石を見つけたから、ニエガちゃんに綺麗なアクセサリーでも作ってあげて!
イクナル:
たしか、キラキラする指輪を見るたび喜んでたよね?でしょ?ニエガちゃん?
ラゾーリ:
きっと喜ぶわ。ありがとう。
イクナル:
気にしないで。ちょっと待ってて、鉱石を持ってくるから。
シロネン:
アクセサリー作りはウチに任せて。ニエガ、どんなデザインがいい?
ニエガ:
えっと…
ラゾーリ:
エンバーコアフラワーがいいと思うわ。この子、エンバーコアフラワーの形の「古名」が欲しいって、前からずっと言ってたから。
シロネン:
オッケー。じゃ、来年の誕生日プレゼントはこれで決まり。
シロネン:
あっ、ごめんニエガ。これじゃ、サプライズ感がなくなっちゃうか。
ニエガ:
…ううん、大丈夫だよ。シロネンお姉ちゃんありがとう!
イクナル:
あった、あった。お待たせ。さ、受け取って。
イクナル:
そうだ、ニエガちゃん。今度また鉱石のことを知りたくなったら、手紙でもなんでもいいから、いつでも聞いてちょうだい。
イクナル:
この前、いきなり「火山晶石」が欲しいって手紙をくれたでしょ?あの時はびっくりしたよ。
ラゾーリ:
あっ、迷惑をかけてごめんなさいね。体調が良くなってから、あれこれ興味を持つようになったのよ。
ラゾーリ:
体が弱いせいで自由に外を歩けないでしょう?だから、部族のみんなに手紙を送って、いろんなことを聞きたいっていつもねだってきて。
イクナル:
アハハハッ!なにせ「こだまの子」の子供だからね!鉱石を好きになるのも無理ないって。
パイモン:
なんだかいい感じだな。へへっ、新しいほうの『勇敢なテクィ』の主人公みたいに、もうすぐ家族のリマークを救えそうな雰囲気だぜ。
パイモン:
物語だと、オイラたちは今…ええと…
パイモン:
「テクィは、山と炎の女神に『この心と血を引き換えに、弟の名を伝承させてほしい』と祈りを捧げた。」
パイモン:
「すると、女神は『あなたの祈りは届いたわ。けれど、あなたの弟はもう血縁者ではなくなり、その名も既に奥深くまで落ちてしまった。』と答えた。」
ニエガ:
そしたら、テクィはこう言った。
ニエガ:
「我の血を炎に変え、我が心で奥底まで照らそう。この血尽きる前に、弟を連れ戻してみせる。」
パイモン:
おお!ニエガって記憶力がいいんだな!オイラも覚えてるぞ!本にはたしか…あれ、なんて書いてあったんだっけ?
旅人:
読んだばっかなのにもう忘れたの…?
パイモン:
オ、オイラは二冊一気に読んだから!似たような物語と文章のせいで…内容がごっちゃになっちゃってるんだ。
パイモン:
でも、やっぱり古いバージョンのほうがオイラ好きだな。子供には…ちょっと難しいかもしれないけど…
パイモン:
そういえば、ニエガはもう一つの結末を知らないよな?へへっ、あとで読んでやるな!
ニエガ:
ううん…もう一つの結末も知ってるよ。
パイモン:
えっ?でも、おまえって片方しか読んでないんだよな…?
ラゾーリ:
あら、楽しそうに何の話をしてるの?
ニエガ:
…!!!
ニエガ:
お母さん…旅人のお兄ちゃんと、あの本の結末について話してたの…
ニエガ:
悪者が倒されて、みんな無事にお家に帰って…ハッピーエンドになるっていう…
ラゾーリ:
素敵なお話ね。でも、そんなに早く読まれちゃうと、今夜寝る前にお母さんが読んであげられる本がなくなっちゃうわ。
ラゾーリ:
また今度、童話の本を買ってあげるから、今日の夜は我慢してちょうだいね。
ニエガ:
わかった、お母さん…
旅人:
鉱石のほうはどうだった?
シロネン:
なかなか上物だよ。来年のニエガの誕生日には、丈夫で綺麗なアクセサリーをあげれそう。
シロネン:
でも今は、今度やる誕生日会のほうを優先しないとね。んで、次はどこ行くの?おばちゃん。
ラゾーリ:
次はアポパロンのところね。すぐそこよ。
ラゾーリ:
おいで、ニエガ、あんまり離れないようにね。
ニエガ:
うん…お母さん。
「燃晶名刻」をアポパロンに返す
アポパロン:
今日はやけに蝶を見るな?どうなってんだ…
ラゾーリ:
それは幸運の兆しよ、アポパロン。
アポパロン:
はははっ、これはこれは、偉大な名鋳り師が二人揃ってご登場とは、いらっしゃい!
アポパロン:
ラゾーリ、今日は何を買うんだ?いつも通り、割引きするぜ!
パイモン:
おおー!いきなり割引きしてもらえるなんて!ラゾーリって人望があるんだな…
アポパロン:
名鋳り師として、部族のために尽力してくれたからな。割り引きくらい当然さ。
ラゾーリ:
いつもありがとう…はい、あなたの「燃晶名刻」よ。直ったから持ってきたの。
ラゾーリ:
おじさんにお礼を言ってちょうだい、ニエガ。
ニエガ:
おじさんありがとう…
アポパロン:
ひょっとして…ニエガちゃんか?ラゾーリから写真を見せてもらったことがあるよ。
アポパロン:
ははっ、元気そうでよかった。よぉし!店にあるものをなんでも一つ選んでくれ。おじさんからのプレゼントだ。
ニエガ:
ありがとう、でも大丈夫だよ。もうたくさんのものをもらったってお母さんに聞いたから。
アポパロン:
あれは君の「家」に贈ったものさ。君自身にはまだプレゼントしたことないだろ?あっ、もしかして照れてるのか?なら、お母さんに代わりに選んでもらったらいい。
シロネン:
おばちゃん、せっかくだし選んであげたら?
シロネン:
アポパロンが作るドリルと小型ピンセットって、どれも質がいいしサイズも正確なんだよ。それにめっちゃ頑丈だし。
シロネン:
急用のときは、ウチもここで買ってんだ。
シロネン:
そだ、子供用のハサミはまだ残ってる?いくつか種類があったでしょ?
アポパロン:
ああ、まだ少しあるぞ。裏に置いてあるから、欲しいなら持ってくるぜ。
シロネン:
あー、手間かけちゃうし、それなら直接裏に行って見てくるよ。おばちゃんも行こ?そう時間もかからないからさ。
ラゾーリ:
でも、そういうのには詳しくないし…シロネン、あなた一人でも…
シロネン:
ハサミの模様とか種類とかいろいろあるし、一緒に来てよ。ニエガが一番好きそうなものを選べる自信がなくってさ。
シロネン:
ね、すぐ終わるから。
パイモン:
シロネンのやつ、ラゾーリを引っ張ってハサミを見に行っちゃったぞ。せわしないやつだな…
ニエガ:
うん、ちゃんといい子で待ってるよ…ねぇ、パイモンお姉ちゃん、『勇敢なテクィ』の中で一番好きな登場人物って誰?
パイモン:
もちろんテクィだぞ!あいつは家族を救うために、いろんな方法を使って頑張ってたからな。
パイモン:
古いバージョンだと…結局、家族と一緒に暮らせないけど、最後までめげなかったあいつは、すっごくかっこいいと思うぞ。
パイモン:
ニエガはどうだ?誰が一番好きなんだ?
ニエガ:
わたしは…リマークが好きかな。
パイモン:
ああ…コアトリクエに体を奪われても、ずっとテクィのことを忘れなかったやつだな。あいつも確かにすごかったぞ。
パイモン:
あの強さがなかったら、きっと二人とも最終決戦でコアトリクエにやられてただろうな!
パイモン:
本を読むからには、物語に入りきらないとつまらないだろ。
パイモン:
えへへっ、ニエガ。今ちょうど時間があるし、『勇敢なテクィ』ごっこでもやらないか?おまえがリマークで、オイラがテクィをやるな!
旅人:
カッコいい決め台詞を言いたいだけでしょ。
ニエガ:
お兄ちゃん、わたし…地母のコアトリクエをやってもいい?
パイモン:
そいつって悪役だろ?地母はリマークを食べた上に、その姿に化けちゃうんだぞ?
パイモン:
あ、そうだったな。ニエガが読んだのはハッピーエンドのほうだったぜ。たしか…新しいほうの結末では、コアトリクエはやられて、リマークとテクィの両方とも生き残るんだよな?
パイモン:
まあ、どっちの話をやるにしても、違うのは最後の台詞だけだし、ニエガは好きなセリフを言っていいぞ。オイラは両方とも読んでるし、上手いこと合わせてやるぜ。
ニエガ:
わたしが一番好きなのは…ラストのあの台詞なの!えっと…
ラゾーリ:
ニエガ、こっちに来てくれる。まあ…すごい汗じゃない。大丈夫?
ニエガ:
お母さん…!
ラゾーリ:
ほら、拭いてあげるからじっとしてて。さ、お水も飲みなさい。この子ったら…遊んでると、つい夢中になっちゃうんだから。
シロネン:
プレゼント選びはバッチシだよ。アポパロンが包んでおばちゃんの家まで届けてくれるって。二人はニエガと遊んでた感じ?
パイモン:
いいところだったのに…
パイモン:
そうだったのか?そう言われるとたしかに…さっきもわざとラゾーリを引き離してたよな。でも、なんでそんなことを…?
シロネン:
まぁ、この件は一旦忘れてくれる?今はウチを信じて、まだ手を出さないでおいて。
シロネン:
おばちゃん、次で最後にしよっか?今日は暑いし、ニエガを長時間外にいさせるのもよくないっしょ?
ラゾーリ:
そうね。最後にチョウエンのところに行って帰りましょうか。
「燃晶名刻」をチョウエンに返す
ラゾーリ:
チョウエン、「燃晶名刻」を直したわよ。特別に補強もしてあるから、もうそう簡単に壊れたりしないわ。
チョウエン:
助かったよ…!あの「火山晶石」はどうだった?使えそう?
ラゾーリ:
ええ、充分よ。ありがとう。
チョウエン:
礼なんていいって。ニエガちゃんが元気になってくれたらそれでいいから。
ニエガ:
ありがとう…チョウエンお姉ちゃん。
チョウエン:
まったく、母娘そろって律儀なことで…
シロネン:
ふーん、あれほどの「燃晶名刻」を作るには、そうとう鉱石が必要だと思ってたけど…
シロネン:
チョウエンさんが、ラゾーリおばちゃんの「共犯者」だったってワケ?
チョウエン:
シロネン?ええっと…
シロネン:
ウチらもあんたとおんなじ。
旅人:
ニエガのために集まった仲間。
チョウエン:
ふぅ…ヒヤッとしたよ!チクられるのかと思った…もしパカルに知られでもしたら大変だろ…?
チョウエン:
ただ正直なところ、もう隠しきれそうにないんだよね。しょっちゅう遠出してるし、鉱石のストックも急激に減ってるから…
チョウエン:
前にパカルにも聞かれたんだ。その時は新しいアクセサリーを考えてるせいで、鉱石を大量に使ってるとしか言えなくってさ。
チョウエン:
遠出するときは…新しい鉱脈を見つけたから、宝石を採掘しに行ってるって誤魔化してる。
チョウエン:
おっと!ごめん長々と。さ、入ってちょうだい。
ラゾーリ:
ええ、少しだけ休ませてもらうわ…
ニエガ:
あの…チョウエンお姉ちゃん、あそこのアクセサリーを見ててもいい?
チョウエン:
イミシュのところにあるやつ?いいよ。でも、あんま陽に当たらないようにね。
パイモン:
オイラも!なあ、ニエガと一緒に見に行こうぜ?ナタのアクセサリーをじっくり見たことなかっただろ?
パイモン:
本当か!えへへっ、それなら、よく吟味しないとな!
シロネン:
おばちゃんも、しばらくアクセサリーなんて買ってないっしょ?見てみたら?
ラゾーリ:
……
パイモン:
ニエガ、こっちこっち。オイラたちアクセサリー選びの経験がないから、一緒に見てくれ。
ニエガ:
お兄ちゃん、わたし…
ラゾーリ:
ニエガ、おいで。
ニエガ:
…!!!
ラゾーリ:
ごめんね、チョウエン、シロネン。もう遅いし、そろそろお暇させてもらうわ。
ラゾーリ:
ニエガの誕生日まであと少しでしょ?だから、やることがたくさんあって…
チョウエン:
ああ、気にしないで。一番綺麗なアクセサリーを持って、ニエガちゃんの誕生日を祝いに行くから。
ニエガ:
お母さん…わたし…
ラゾーリ:
…また熱が上がってきたわね。さあ、おんぶしてあげる。早く帰りましょう。
ラゾーリ:
まったく、遊んでるといつも体のことを忘れちゃうんだから。帰ったらお説教ね。
ニエガ:
わ…わたしは別に…
ラゾーリ:
…言い訳を教えた覚えはないわよ、ニエガ。
ニエガ:
ご、ごめんなさい…お母さん、た…ただ…
パイモン:
ニエガがこっちを見てるぞ。なんかおかしくないか?ど、どうしたらいいんだ?
シロネン:
今日は楽しすぎて、ついはしゃぎ過ぎちゃっただけでしょ。しょうがないって。
シロネン:
おんぶはウチがするよ。おばちゃんだって体の調子がよくないんだし、無理しないで。家までおんぶしたら、ベッドで横になるはめになっちゃうよ?
ラゾーリ:
大丈夫よ、これくらいなら。
ラゾーリ:
さあ、ニエガ。お家に帰るわよ。
ラゾーリは誰の手も借りずに、ニエガを負ぶって集落を離れた。家に着く頃には足がよろめき始めていたが、それでもずっと負ぶっていた…
ラゾーリと一緒に家に戻る
ラゾーリ:
今日は私たち母娘に長いこと付き合ってくれて、ありがとう。シロネン、旅人さん、パイモンちゃん。
ラゾーリ:
ニエガの誕生日会には、ぜひ来てちょうだいね。
ラゾーリ:
ええ。ニエガももう寝る時間だし、今日は失礼させてもらうわ。
シロネン:
そうだね。おばちゃん、ウチが買った『勇敢なテクィ』をニエガにあげるのを忘れないでよ。探すの大変だったんだから。
ラゾーリ:
はいはい。ふふ…あなたの頑張りを無駄にするはずないでしょう?
ラゾーリ:
シロネンお姉ちゃんがくれた本には、特別な意味が込められているから、ニエガも大切に保管するわよね…でしょ?ニエガ?
ニエガ:
う…うん。ありがとう、シロネンお姉ちゃん…
シロネン:
うん?保管するだけ?読まないの?
ラゾーリ:
この童話は、何回も読み聞かせてきたもの。ニエガったら、セリフだって全部覚えているのよ…
シロネン:
だったらだいじょぶだよ、おばちゃん。だってウチが用意した『勇敢なテクィ』は、ニエガの知らないやつだからね。
ラゾーリ:
えっ?他とは違う本なの?
シロネン:
まぁ、そんな大差ないけど。ただ、物語の結末が、おばちゃんが買ったやつと少し違うの。
シロネン:
ウチが渡した『勇敢なテクィ』は、改訂される前の古いやつなんだ。
シロネン:
出版されたのは、ニエガが病気になるよりずっと前。
ラゾーリ:
…シロネン、いつからそんなに童話に興味を持つようになったの?
シロネン:
べつに。ウチはただ疑問に思っただけ。もしおばちゃんの言うニエガの症状——つまり、病気になる前のことを何も思い出せないってのが本当なら…
シロネン:
古いバージョンの『勇敢なテクィ』の結末も、「ニエガが忘れてしまう過去」の範囲に含まれてるってことでしょ?
シロネン:
言い換えれば、もしニエガが古いバージョンを病気になってから読んでなければ、もちろんその結末も知るはずがない。
ラゾーリ:
ちょっと分からないのだけれど…たかだか物語の結末に、どうしてそう引っかかっているの?この子が覚えていたら、何が証明されるのかしら?
ラゾーリ:
私の知らないところで、ニエガがこっそり抜け出して、どこかで古いバージョンを読んだ可能性もあるでしょう?
シロネン:
だね、その可能性は否定しないよ。病気になった後のことは、ニエガも覚えてられるし。
シロネン:
じゃ、聞きに行こっか?集落のみんなに、ニエガが自分のところに来たかどーかを。
シロネン:
ウチらの部族で本を売ってる店なんて、指で数えるほどしかないでしょ。それか…どこで読んだかを、ニエガ本人に聞くのでもいいけど。
ラゾーリ:
集落の人は名刻を持っているし、もしかしたらそれに関する記憶も…
シロネン:
つーことは、「燃晶名刻」がここ最近のみんなの記憶に影響を与えたってことだよね?
シロネン:
おばちゃん、前にも言ったっしょ?そういうことをしたら「犯罪行為」として見る。その時点で「燃晶名刻」に関することはすべて中止だって。
ラゾーリ:
…家に、他にも本があるのよ、きっと…
シロネン:
「その血を焼き尽くしたくはない。しかし、君の心を見た…」
ラゾーリ:
…えっ?
シロネン:
答えて、ニエガ。
ラゾーリ:
ニエガ、部屋に戻りなさい。
ニエガ:
わ…わたし…
ラゾーリ:
いい子にするって言ったでしょう?
シロネン:
ニエガ、手紙を出したのはあんたで、ウチに本をねだったのもあんた。自分のために声を上げられるのだって、あんただけなの。
シロネン:
さあ、話したいことがあるなら聞くよ。今ここで。
ニエガ:
「…この名を刻み付けてくれ、兄さん。僕を覚えている限り、離れることはない。」
ラゾーリ:
黙りなさい!
パイモン:
い、今のって古いほうの最後で言うセリフだよな!ってことは、ニエガは本当に覚えてるんだ!
ニエガ:
うん、知ってる!わたし全部知ってるの!シロネンお姉ちゃん!助けて!おねがい!
ニエガ:
きゃあ!!!
パイモン:
塞がれちゃったぞ!
シロネン:
…下がって。
シロネンは助走をつけると、何のためらいもなく障害物ごとドアを蹴破った。
パイモン:
シロネン!待てって!
ひどく荒らされた部屋。ベッドがズラされ、塞がれていた地下道が姿を現していた。周りの壁はひび割れており、その中には…何かが隠されているようだ…
シロネン:
地下の道も塞がれちゃってる。ワナがあるかもしれないから、入らないで。
壁の中には、大量の「燃晶名刻」が積み上げられている。一体…なんのためのものだろうか?
パイモン:
うわっ!ニエガの部屋の壁になにか貼ってあるぞ!
シロネン:
…おばちゃんが予備で作った名刻っぽいね。全部ここにあるみたい。
シロネン:
…「古名」を完成させるために、彼女が行く場所はあそこしかない。
シロネン:
行くよ、ついて来て。
正体を見せたラゾーリは、「ニエガ」を脅して閉鎖されたはずの工房へと連れて行った。助けを求めてきたあの子を救うには、追いかけるしかない。
ラゾーリを追う
ラゾーリ:
こうもすぐ追い付かれるなんて…ずいぶん足が速いのね。
パイモン:
上を見ろ!ニエガがいるぞ!あいつ、なにするつもりだ!?
ラゾーリ:
私は嘘なんかついていないわ。最初から最後まで、ただ娘のニエガを救いたいだけ。
ラゾーリ:
今はまだ私の子じゃないけど…すべてが終わったら、この子は本物のニエガになるのよ。
パイモン:
今はって?一体どういうことだ?
ラゾーリ:
もう理解したようね?そう、私がやろうとしているのは、「記憶」を利用してニエガを甦らせること。
ラゾーリ:
あの子は夜神の国に長くいすぎた…暗いのも、寒いのも苦手なのに。
ラゾーリ:
ニエガを一人にしたのは私よ。だから、必ず連れ戻さないと。
ラゾーリ:
怖がらないで、ニエガ。お母さんは何も忘れてなんかいない。あなたの名前を今も覚えているわ…
シロネン:
…おそらく、あんたが考えてる通りだろうね。
パイモン:
じゃ…じゃあ、上で横になってるのは誰なんだ!?
ラゾーリ:
同じ集落の子よ。この子の両親は以前のアビスの侵攻で命を落としたの…でも偶然、この子の誕生日は私のニエガと同じだった。
ラゾーリ:
この子を引き取って、ずっと面倒を見てきた。そうすれば…少しは楽になると思ってね。
ラゾーリ:
初めてお母さんと呼んでくれたとき、すごく嬉しかったわ。けど、急に怖くなったの。
ラゾーリ:
この子は本当に私の子?…私の子の名前はニエガ。ニエガ以外にいない。
ラゾーリ:
どうして嬉しいと思ったのかしら?…私のニエガは、まだお母さんを待っているのに…私が連れ戻してくれるのを…
ラゾーリ:
言ったはずよ——ニエガを連れ戻すためなら、私はすべてを捧げても構わないって。
ラゾーリ:
今こそ、すべてを捧げる時なの。
ラゾーリ:
私が持っている、この役立たずの「古名」にも…そろそろ役に立ってもらわないと。
ラゾーリ:
力を貸してくれないのなら、ニエガの「古名」のために燃料となりなさい。
シロネン:
……
ラゾーリ:
シロネン。まだ動かないのは、周りの銘刻図を観察しているからね?
ラゾーリ:
無駄よ。「燃晶名刻」はすべて配置した。銘刻図もとっくに機能し始めているわ。
ラゾーリ:
あなたがアイデアをくれたおかげよ。この「中枢名刻」は、ニエガの本当の「古名」になる。
ラゾーリ:
ニエガが帰ってきたら、誕生日会に招待してあげるわ。
パイモン:
おい…まさか強行突破するつもりか?
シロネン:
…この銘刻図には穴がある。もうすぐボロが出るから、ウチの合図に合わせて。
ラゾーリ:
ニエガ…大丈夫、心配しないで…お母さんがいるからね…
シロネン:
3——
ラゾーリ:
ずっと傍にいるわ。決してあなたを忘れたりしない…
シロネン:
2——
ラゾーリ:
さあ、ニエガ…早く目を覚まして。お願いだから、早く…
シロネン:
1!
ラゾーリの儀式を止める
movie
ラゾーリは儀式を始めた。しかし「燃晶名刻」から湧き出たのは、無数の悲しい思い出だった。それらはラゾーリと「ニエガ」を蝕み始めた。
彼女たちがその思い出に呑み込まれる直前、シロネンはラゾーリの「古名」の中に眠っていた本物のニエガを呼び覚ました。
新生の烈火の中、うめき声をあげる悲しみは浄化され、「名前」で作られた檻もすべて消えた。
そしてニエガの本当の心の声も、届くようになった…
ニペカを助ける
ラゾーリ:
ニエガがいたわ。私と会話もしたのに、どこへ行ったの…ねえ!
ラゾーリ:
ニエガ!ニエガ!どこにいるの!聞こえたら返事してちょうだい!お願い…お願いだから…
ラゾーリ:
シロネン…!あなたも見たでしょう?私のニエガを!
ラゾーリ:
この手で触れて、抱きしめることもできた…方法は間違ってなかったのよ…ええ、そう…
ラゾーリ:
あの灰色の影も、何か些細な誤差にすぎないはず…もう一度やれば、そう、もう一度やればニエガはきっと…
シロネン:
…おばちゃん、まだ気づいてないの?
ラゾーリ:
気づく…?何に?何も間違ってなんかいないわ、何も!
ラゾーリ:
あの子は私のことを怒っていて、無視しているだけよ…あの子は昔からわがままだったから。ええ…それくらい仕方ないわ!
シロネン:
おばちゃん!いい加減にして!
シロネン:
「燃晶名刻」で呼び出したのは、本物のニエガじゃなかった。
シロネン:
おばちゃんはみんなからニエガに関する「思い出」をたくさん集めたけど、ひとつ忘れてる…
シロネン:
集めた記憶の中には、本物の「思い出」以外にも、無数の「感情」が混じってるってことに。
シロネン:
気づかなかった?みんなが重病のニエガのお見舞いに来たとき、どんな「感情」を抱いてたか。
シロネン:
死に瀕した子供の手を握りながら、ニエガの弱々しい呼吸、絶望に満ちた目…そして、徐々に下がっていく体温を見た人々は…
シロネン:
悲しみと痛み以外に、何を感じると思う?
ラゾーリ:
私は…そういった感情まで…
シロネン:
その「感情」はすべて、あんたの手によって「燃晶名刻」に取り込まれ、実在する「過去」となったの。
シロネン:
さっき灰色の人影がいくつか現れたでしょ?あれは「過去」を「写した姿」。彼女たちはニエガの最期を繰り返すことしかできない存在なの。
シロネン:
逆に本物のニエガが伝えようとした言葉は、どれも歪んだ悲しみによって上書きされてしまった。
ラゾーリ:
そ…そんなつもりなかったの…私はただ、ニエガのことを記憶に刻んで…あの子にもう一度会おうと…
シロネン:
…ニエガは、ずっとおばちゃんの傍にいたんだよ。
シロネン:
おばちゃんに「役に立たない」って言われた「古名」は、ずっと前からすべてを記録してた。
シロネン:
あらゆる手を尽くし、何もかもを投げ出してまで娘を救おうとしたのは…まぎれもない事実。
シロネン:
自分の「古名」の意味を忘れたわけじゃないよね?
ラゾーリ:
私の「古名」は…「ウンドゥグ」…
シロネン:
その「古名」は、あんたとニエガの間にある揺るぎない家族愛を刻み続けていた。それなのに、あんたはそれを見て見ぬふりしてきたの。
シロネン:
「名前とは、過去から未来への祝福。」——これ、おばちゃんが教えてくれた言葉だよね。
シロネン:
ニエガに名前を付けて、最初の祝福を贈ったのはおばちゃん。
シロネン:
けど今、その人は自分の手でニエガの名を檻に変え、罪のない子供を…そして自分をも閉じ込めた。
ラゾーリ:
…ニエガは私のすべてよ。あの子がいない未来なんて、考えられないわ。
ラゾーリ:
祝福は…ふふっ…ニエガがいなくなってからは、一度も感じられなくなった。私の手を握りながら、痛いから抱きしめてとお願いする、あの子の夢ばかり見るの。
ラゾーリ:
けどね、何も見えない…ニエガを抱きしめられないのよ。目が覚めるまでずっと、ただ名前を呼び続けるだけ。
ラゾーリ:
毎日毎日…自分のことを憎み、「古名」のことを憎んだわ。あの子も…もしかしたら…
シロネン:
ニエガも、自分のことを憎んでるって思うの?
ラゾーリ:
……
シロネン:
おばちゃん。ニエガが最期に残した言葉、本当の遺言を…覚えてる?
ラゾーリ:
そ…それは…
シロネン:
「祝福」を感じられないのは、本物の「過去」を忘れたからだよ。…おばちゃんはただ、自分が想像した記憶に浸かって、現実逃避してるだけ。
シロネン:
「過去」を失くした「名前」は、根のない枯れ木に過ぎない。朽ちる以外に、未来はないの。
シロネン:
これでおしまい。おばちゃん、これでぜんぶ終わりだよ。
パイモン:
おい、ゆっくりで大丈夫だぞ!なんなら横になったほうがいいんじゃないか?あっ…ええと、ここで横になるのはよくないか。
パイモン:
シロネン!ニエガ…ニペカはもう立てるみたいだ。すぐそっちに行くから待っててくれ!
ニペカ:
ありがとう。パイモンお姉ちゃん、旅人お兄ちゃん…
ニペカ:
わたしなら平気だよ。ニエガお姉ちゃんが助けてくれたおかげで、もうそんなに苦しくなくなったの。
シロネン:
ふぃー、よかった。もし本当にニエガになっちゃったら、この物語も『勇敢なテクィ』と同じになっちゃうからね。
シロネン:
ここでおしゃべりするのもあれだし、場所を変えよっか。
パイモン:
えっと…ラゾーリはどうするんだ?
シロネン:
安心して。おばちゃんはもう危険な真似なんてしないから。
すべてが終わって工房を後にすると、シロネンにニペカの相手を頼まれた。彼女はまだ、ラゾーリと話すことがあるらしい…
シロネンと一緒にしばらく休む
シロネン:
——これでよしっと。おばちゃんはカギをかけた部屋の中でぐるぐる巻きにしといたよ。あとで集落に連れてって、ちゃんと罰を受けさせないとね。
シロネン:
今は…ここで日向ぼっこでもしよっか。
シロネン:
あんだけ大暴れしたし、もぉヘトヘト…
パイモン:
一気に全部を終わらせちゃうなんて、シロネンってホントに仕事が早いな…
パイモン:
にしても…いま思い返すと恐ろしいよな。自分の養子をニエガに変えようとするなんて。しかも、あと少しで成功しちゃいそうだったし…
パイモン:
そうだな。カウントダウンするシロネン、すっごくカッコよかったぞ!一瞬で距離を縮めて、一気にかたを付けるんだもんな!
シロネン:
ニペカがめげなかったおかげだよ。この子が勇敢に何度も助けを求めてくれてなかったら、そう簡単におばちゃんの計画には気づけなかっただろーし。
ニペカ:
ううん、シロネンお姉ちゃんとパイモンお姉ちゃん、そして旅人のお兄ちゃんが勇気づけてくれたおかげだよ。それに、あれはわたしが思いつく最後の方法だったんだ…
ニペカ:
これまでにも何度か試したの。でも家によく来てくれたおじさんやおばさんたちは、ラゾーリさんの言葉を鵜呑みにして来なくなるか、わたしを信じてくれないかでね…
ニペカ:
それに何を話しても、病気のせいだってラゾーリさんに丸め込まれちゃうの。
ニペカ:
…あの人が涙を流せば、みんな慰めるばかりで、誰もわたしの話を聞いてくれなくなった。
ニペカ:
わたしが送る手紙も、受け取ったプレゼントも、全部ラゾーリさんに確認されてね。す…少しでも言うことを聞かなかったら、変なお薬を飲まされちゃうんだ…
ニペカ:
それを飲むと、何日も眠っちゃうし、記憶力もすごく悪くなっちゃうの。寝ている間は…いろんなものが見えて、周りの壁も四六時中喋るようになって…
ニペカ:
毎日が怖かった…今回も失敗したら、わたし本当に諦めてたかも…
旅人:
もう全部終わったから大丈夫。
パイモン:
オイラたちが傍にいるから安心しろ、ニペカ。これ以上、おまえを傷つけようとするやつがいたら、旅人とシロネンがすぐぶっとばしてやるからな!
ニペカ:
う…うん。ごめん…ぐすっ、我慢…できなくて…
パイモン:
おまえは十分勇敢だったぞ。しかも助けを求めた相手がシロネンなのは、へへっ、大当たりだ。
パイモン:
シロネンは涙で誤魔化されるようなやつじゃないからな。こいつは人の話をしっかり聞くし、どんな些細な点も見逃さないだろ。
シロネン:
そんな「些細な点」を聞けたのも、あんたたちのおかげ。
シロネン:
二人がいなかったら、ニペカも助けを求めるメッセージを送れなかったでしょ。
シロネン:
もしウチが声をかけに行ってたら、きっとラゾーリおばちゃんは警戒して、この子をまた部屋に閉じ込めてただろうし。
パイモン:
へへっ、じゃあオイラたちってば、けっこう重要な役目を果たしたってことか!でも、あいつも大胆だよな?集落の人だって、本物のニエガの顔くらい見たことあったはずだろ?
パイモン:
別人って、気づかれるのが怖くなかったのかな?
旅人:
燃晶名刻をかなり前から使ってたのかも。
シロネン:
その可能性はあるね。ラゾーリおばちゃんが作った「燃晶名刻」は、みんなからニエガの過去を集めるだけじゃなく、その記憶を消すこともできるから。
シロネン:
ラクガキでたとえるなら——まんべんなく絵の描かれた壁に新しいものを描くには、まず古いものを消さないといけない。
シロネン:
もしかしたら、ウチもおばちゃんのターゲットの一人だったのかも。だから、「中枢名刻」をあっさりウチに渡したんじゃないかな。
パイモン:
ひっ!それを知った上で受け取ったのかよ?オイラだったら、きっと遠くに投げ捨ててるぞ!
シロネン:
まっ、リスクを冒さなきゃ、真実だって手に入らないっしょ?それに、この手で「中枢名刻」をバラしてなかったら、本当の狙いに気づくこともできなかっただろうし。
パイモン:
つまり、おまえは最初からあいつを疑ってたってことか?
シロネン:
ぜんぜん。だって、親戚のおばちゃんだよ?最初から悪者扱いだなんてあり得ないって。
シロネン:
せいぜい…その可能性と対策を頭の片隅に置いてたくらい。結局、最悪の結末になっちゃったけどね。
シロネン:
でも、苦しんでた子供を助けられたし、結果オーライってとこかな。
シロネン:
さぁて、祝勝会の「健闘をたたえ合うコーナー」は終了!
シロネン:
全部片付いたし、ニペカはもう安全なはずだよ。
ニペカ:
シロネンお姉ちゃん…わたし、これから何をしたらいいんだろう?
パイモン:
もちろん、好きなことをやっていいんだぜ。もうおまえを部屋に閉じ込めようとするやつはいないからな。
ニペカ:
でも、わたし…何ができるか分からないの…
ニペカ:
わたしが知ってることは、どれもニエガお姉ちゃんと同じだから。好きな料理や花、喋り方、普段の振る舞い…
ニペカ:
ニエガお姉ちゃんじゃないのに…お姉ちゃんじゃないといけなかった。分からないよ…シロネンお姉ちゃん、わたしどうしたらいいの…
シロネン:
安心して、ニペカ。「燃晶名刻」はもう機能してない。別人になることを強要する人はいなくなったから。
ニペカ:
けど、自分の名前以外、何も覚えてないの。もしかして、このまま何も思い出せずに、過去を全部捨てることになるのかな?
ニペカ:
シロネンお姉ちゃん…怖いよ…ぐすっ…どうしたらいいの?
シロネン:
泣かないで、ニペカ。
シロネン:
ほら、これをあげる。ラゾーリおばちゃんが保管してた鉱石をちょっと拝借して、作ってみたんだ。
パイモン:
「燃晶名刻」じゃないか!シロネン、おまえも作れたのか?
シロネン:
いんや、別ものだよ、これは。ただの綺麗な石ころ。見て、「ニペカ」って名前が刻まれてるっしょ?
シロネン:
これはあんたが最初に貰った「祝福」。あんたを愛する二人からの心のこもったプレゼント。
シロネン:
これがニペカを守って、ずっと傍にいてくれる。過去も未来も現在も、あんたから離れることはない。
ニペカ:
…でも、お父さんとお母さんの名前すら覚えてないんだよ…わたし…何も…
シロネン:
……
シロネン:
何もかも元通りになる、だなんて大口は叩かないよ…あんたを待ってる未来がどんなものなのか、ウチにも分かんないし。
シロネン:
けど一つ言えることは、この先どんなことがあっても、その「名前」だけは消えたりしないってこと。これは、一人の「名鋳り師」からあんたに贈る祝福だよ。
シロネン:
ニペカ、あんたはこれからゆっくり成長してく。苗木がすくすくと伸び、鳥が空をいつも羽ばたくようにね。
シロネン:
「ニペカ」って名前はあんたの原点であり、あんたの成長を導く道しるべでもあるんだ。
シロネン:
自分の名前、そして経験したすべてを胸に刻むの。そうすればきっと、未来に向かってどう進めばいいか分かるはずだから。
ニペカ:
うん…頑張ってみる…!
パイモン:
その意気だぜ!ニペカ!
旅人:
俺たちがいつも応援してるから。
ニペカ:
ありがとう。シロネンお姉ちゃん、パイモンお姉ちゃん、旅人お兄ちゃん…
シロネン:
まぁ、どうしてもやりたいことが思いつかなくてもだいじょーぶだよ。気楽にやるのが一番だからさ。
シロネン:
同じ集落の人間なんだし、そんときはあんたのことを知ってる年寄りを捜して、出自を調べたげる。
シロネン:
結果が出るまで、ウチの工房にいていいよ。茶碗が一つ増えたところでなんてことないからね。
シロネン:
ま、上手くいくか分からないし、誰に聞けばいいかの見当もついてないけどね。
シロネン:
そういう運任せの方法をアテにするなら、まずは自分の力で地道に頑張ってみてからのほうがいいっしょ?
シロネン:
まあ、そう深く考えないでやってこ。じゃ、ウチはラゾーリおばちゃんを集落に連れてくね。ニペカも一緒に来て。
シロネン:
あっ…そういえば晩メシがまだだったや。好きな食べ物とかある?
ニペカ:
えっ?わたし?好き嫌いは特にないから、何でも大丈夫だけど…
シロネン:
オッケー。んじゃ行こっか。やることが山ほど残ってるし、しばらく休めそうにないね、こりゃ。
シロネン:
あっ、そうそう…ひとつ言い忘れてた。
シロネン:
誕生日おめでと、ニペカ。
ラゾーリを待っているのは罰だ。ニペカは「名前」を取り戻し、「燃晶名刻」も処分されることが決まった。悪夢と檻は消え、すべてが終わった。シロネンはニペカを自分の工房に連れ帰ったが、もしかしたら彼女はもう次にやるべきことを決めているのかもしれない…
シロネンの工房を訪れる
シロネン:
あっ、来てくれたんだ?ちょうど全部片付いて、今から休もうとしてたとこだよ。
旅人:
ラゾーリはどんな罰を受けるの?
シロネン:
まだ検討中だってさ。古名の技術を使った犯罪なんて、参考にできる事例が限られてるからね…パカルはしばらく頭を抱えることになるんじゃない?
シロネン:
ただ、ラゾーリおばちゃんの工房は完全に閉鎖されて、作りかけの「燃晶名刻」は処分されることになったよ。
シロネン:
もう完成してる「燃晶名刻」については、ウチが対応することになったけど。はぁ、またメンドーな仕事が増えちった…
シロネン:
とにかく、おばちゃんの「古名」に問題が生じなかったのは不幸中の幸いだよ。じゃなきゃ、今頃ヤバイことになってただろうし…
シロネン:
あっ、古名といえば、いいニュースもあんだ。「燃晶名刻」に取り込まれた記憶は元に戻せるんだって。
シロネン:
すべての「燃晶名刻」の機能が停止したら、記憶は元の道を辿って持ち主のところに戻るみたい。
シロネン:
そゆこと。でも今になって思うとさ…おばちゃんはニエガを取り戻そうとして、みんなにその存在を忘れさせたんだよね。
シロネン:
けど本当にいなくなった今、こうして思い出せるようになるなんて…ほんと、めちゃくちゃ。
旅人:
ニペカの調子はどう?
シロネン:
今はウチの工房で休んでるよ。部族の人にも相談して、出自を調べてもらってる。
シロネン:
その結果が出るまで時間が掛かるだろうし、しばらくはあの子の世話をしながら、鍛造の技術でも教えよっかなって思ってる。
シロネン:
ま、どれも今後の話だけどね。今はゆっくり眠らせてあげないと。
シロネン:
睡眠を十分に取ることこそ、面倒事を片付ける上で一番大切だからね。