arrow_back 原神 クエスト
第四章 第一幕
白露と黒潮の序詩
フォンテーヌに向かう時が来た。旅の者よ、フォンテーヌへの道を歩むのだ…
キャラバン宿駅に行く
パイモン:
キャラバン宿駅か…初めてここに来たのっていつだったっけ?
パイモン:
そうだ!ナヒーダの意識が「博士」に閉じ込められちゃった時、砂漠で救援を探すようにって、あいつがオイラたちに知らせを残してくれたんだよな…
パイモン:
いつの間にかこんなに経ってたのか。今のスメールって、ナヒーダの統治でどんどん良くなってきてるよな?
パイモン:
この平和がずっと続いて、もうナヒーダがトラブルに遭わないといいな。
パイモン:
うぅ…たしかに。オイラたちっていつも事件とかの中心になっちゃうんだよな。またなにか起こらないとも限らないぜ。
パイモン:
もしかして…おまえの体質のせいか?おまえってトラブル体質なんじゃないのか?
旅人:
パイモンのせいだと思うけど。
パイモン:
えっ?オイラは…おまえに会うまでは全然こんなじゃなかったぞ。せいぜいクタクタに疲れた時に、変な渦のせいで海の中に引きずり込まれて、おまえに釣りあげられた程度だな。
パイモン:
うぅ…とにかく、ナヒーダのためだと思って、オイラたちもそろそろ次の旅に出発しようぜ?
ディシア:
こんなところで会うとは思わなかったぜ。あんたら、ほんとに色んな場所をぶらぶらするのが好きなんだな。
パイモン:
あっ、ディシアだ!っておいおい、オイラたち別にぶらぶらするのが好きってわけじゃないぞ。いつもやってるのは真面目なことだし…まあ、「旅」とは関係ないかもしれないけど…
パイモン:
うぅ、まあいいや。それで、おまえはここでなにしてるんだ?
ディシア:
さっきまで、砂漠でお得意さんの依頼をこなしてたのさ。特に語れるようなこともない、普通の護送。今から報告に戻るところだ。
ディシア:
遠くからあんたたちを見てたが、何か真面目な話をしてたみたいじゃないか?あたしにも聞かせてくれよ。
旅人:
スメールを出てフォンテーヌに行くつもり。
ディシア:
な…
ディシア:
まじか、そいつは驚いたぜ…はぁ。まあ、あんたらは元々旅人なわけだしな。一所に落ち着けないってのはわかる。
ディシア:
でも今後は、今日みたいに偶然顔を合わせることすら、贅沢になっちまうのか…すごく寂しいぜ。
ディシア:
そうだ、傭兵仲間たちと一緒にあんたらを送っていこうか?
パイモン:
いやいや、気持ちだけ受け取っておくぜ。へへっ、まさかディシアが、こんなにオイラたちとの別れを惜しんでくれるなんてな。また機会があったら遊びに来るぜ!
ディシア:
そうか。この砂漠を越えて、いくつかの水路を渡って行けばフォンテーヌだ。あんたらなら何の問題もなく着けるだろう。
ディシア:
それで、いつ出発するつもりなんだ?
パイモン:
うーん、待てよ…まだスメールで食べてないものがあったような…前に書いたリストがあるから、それを見ながら…
ディシアに別れを告げていると、遠くで見知らぬ誰かがこっそりこちらを覗いていた…
???:
……
ディシア:
ハハッ。なら、あたしも送別会をやるなんて野暮は言わないでおくよ。余計しんみりしちまうからな。
ディシア:
今思えば、スメールが今の姿になったのも、あんたらのおかげみたいなもんだ。やっぱ英雄ってのはいつも、静かに去っていくものなんだな、ハハハッ。
パイモン:
でも…ナヒーダにも挨拶して行かなくていいのか?
パイモン:
たしかにな。じゃあ、あいつを邪魔しないでおこうぜ。
ディシア:
それじゃあここらでお別れだ、旅人、パイモン。雇い主としてでも、友人としてでも、いつでも会いに来てくれ。
パイモン:
またな、ディシア!またな、スメール!
フォンテーヌのロマリタイムハーバーに行く
スメールでの用事を済ませたあなたたちは、フォンテーヌの国境に近いところに到着した…
パイモン:
やっと着いたな…道中、砂と水だらけだったけど…ここはもうフォンテーヌ領内の港みたいだぜ。
パイモン:
フォンテーヌって…なんか先進的だよな。工業が発達してて、変な機械がいっぱいあるって聞いてるぞ。
パイモン:
観光客としてってのも悪くないけど…なにか目標を決めたほうがいいんじゃないか?
パイモン:
どう思う?
旅人:
まずは水神に会いに行こう。
パイモン:
そうだな。前もオイラたちに有用な情報をいっぱいくれたのはナヒーダだったしな。
パイモン:
「俗世の七執政」は、オイラたちがいま接触できる中で一番いい情報源に違いないぜ。
パイモン:
おう、情報は多ければ多いほどいいしな。
パイモン:
でも、水神ってオイラたちと気が合うタイプだと思うか?ナヒーダはめちゃくちゃ個性的なやつだって言ってたけど…
パイモン:
一国の神について知るなら、やっぱりその国のやつに聞いたほうがいいよな。あそこに話し込んでるやつらがいるから行ってみようぜ?
アントワーヌ:
…でも、あの結末はちょっと悲惨すぎると思うな。根は悪い奴じゃなかったわけだろう?
ヴィエンヌ:
ええ、まさかあんな「幕引き」になるなんてね。てっきり家族のためにもうちょっと抵抗するかと思ったんだけど…
ヴィエンヌ:
残念ながら、私が期待してた「どんでん返し」はなかったわ。でも彼の物語には感動させられるものがあったわね。
アントワーヌ:
えっと…そこの二人、何か用か?ずっと何も言わずにこっちを見てるみたいだが…
パイモン:
あっ、オイラたち、フォンテーヌに来たばかりの旅人なんだ。二人に色々聞きたかったんだけど、なんか劇のことを話してるみたいだったから…邪魔しちゃ悪いなって思って…
アントワーヌ:
劇?いやいや、俺たちが話してたのは現実のことさ。何日か前に審理された事件だよ。
パイモン:
そうだったのか?でもさっきの会話、はたから聞いてたら物語っぽかったぞ…
ヴィエンヌ:
実は物語も、現実の事柄を改変して作られたものが多いのよ。逆に現実だって、誰かによって意図的に演出されている可能性もある…
ヴィエンヌ:
実際、本当にあったことかどうかなんてどうでもいいの。舞台上で演じられている物語が素晴らしければ、それで十分。
ヴィエンヌ:
あっ、君たちは外から来た旅人だから知らないわよね。フォンテーヌには「エピクレシス歌劇場」っていう法廷があるの。通称「歌劇場」よ。
旅人:
「審判」を「歌劇」と見なすなんて…
パイモン:
それって…なんか軽すぎないか?あっ、別におまえたちフォンテーヌのルールに文句があるわけじゃないけど、罪人を裁くのって、もっと深刻なものって印象があるぞ…
ヴィエンヌ:
ふふっ、いいのよ。外から来た人はみんなそう考えるから。私たちはただ、事件の背後にある感動的な物語を無駄にしたくないだけなの。
ヴィエンヌ:
君たちが心配してる「審判は厳粛であるべき」ってことについては…絶対的な公正性を保つ最高審判官のヌヴィレットさんがいるから、何の問題もないわ。
ヴィエンヌ:
…それに、神が作った審判マシナリー「諭示裁定カーディナル」って二重保険もあるし、冤罪や誤審なんてフォンテーヌにはほとんど無縁なの。
パイモン:
審判マシナリーって、もしかしてある種の機械みたいなやつなのか?うーん、気になる…機会があったら見てみたいな。
パイモン:
そうだ、肝心なことを聞き忘れてたぜ。その…オイラたち、水神に会いたいんだけど、どうすれば会えるんだ?
アントワーヌ:
そんなの簡単だろう?——歌劇場に行けばいい。水神フリーナ様は毎日歌劇場に入り浸っていらっしゃる。あそこはフリーナ様の一番のお気に入りだからな。
ヴィエンヌ:
えっと…二人はたぶん、フリーナ様と面と向かって話がしたいとか、そういう意味で言ったんじゃないかしら…
ヴィエンヌ:
…フリーナ様に謁見したいってことなら、少し難しくなるわ。かなり前に予約しておかないとお会いできないし、フリーナ様の「スケジュール」がどんな状況かにもよるから…
パイモン:
水神って公務やなにやらで忙しいのか?でもおまえたち、水神は毎日歌劇場に入り浸ってるって…
アントワーヌ:
いやいや、フリーナ様はほとんど国の政には関与しない。予約が難しいのは単に、フリーナ様が「人気」だからじゃないか?
ヴィエンヌ:
そうよ、なんたって私たちの神様なんだもの。話し方や行動が大げさなところもあるけど、それでも「人気者」なのよ。
パイモン:
ぷっ…人々の神に対する印象が「人気者」なんて、オイラ初めて聞いたぞ…
パイモン:
うーん…ちょっとだけわかってきた気がするぜ。水神はフォンテーヌの「大スター」みたいな神なんだな?
アントワーヌ:
確かに間違ってはいないが…どちらかというと、「マスコット」に近いかな。
ヴィエンヌ:
ちょっと、私たちの神様なのよ。それはあまりにも直接的すぎない?
アントワーヌ:
おっと、確かに。外から来た人には、もうちょっと遠回しに言うべきだったな。じゃないと、逮捕されてヌヴィレット様に会う羽目になりかねない。
ヴィエンヌ:
ふふっ…冗談はよしなさいって。確かに法律は沢山あるけど、フリーナ様の悪口を言ったぐらいで罪にはならないわよ。
パイモン:
よし、おかげで色々わかったぜ、ありがとな。とにかく、水神に会いたいなら歌劇場に行けばいいってことだな。
パイモン:
予約しても実際に会えるのはいつになるかわからないけど、まあ、その間に色々見て回れば…
そう離れていないところにいる少女が、水面を見つめていることに気付いた…
パイモン:
…ん?なに見てるんだ?
パイモン:
なにかあったのか…?まさか、海に飛び込もうとしてるわけじゃないよな?
パイモン:
うぅ…ちょっと話しかけに行ったほうがいいんじゃないか?
水辺の少女と会話する
???:
……
パイモン:
…その、邪魔して悪い。でも…大丈夫か?
???:
…ん?
???:
ありがとう、大丈夫。
パイモン:
な、ならいいんだ。なんか…思い悩んでるみたいだったから。
???:
心の中に留めるしかないことも…確かに沢山ある。でも、これは仕方のないことよ。
???:
私はただ、小さい頃お兄ちゃんと一緒に遊んでた場所を懐かしんでただけ。ほら、あの小さな丘の上。
パイモン:
えっと…でも、おまえが指さしてるのって海だよな…ん?もしかして…おまえとおまえの兄ちゃんは、小さい頃、海の中で暮らしてたのか?
???:
人々はよく、フォンテーヌの周りにある水を海と言うけれど…実際は、淡水で満たされた内陸湖に過ぎない。
???:
あの小さな丘のことは鮮明に覚えてるわ。でも、今ではもう海の底。
???:
お兄ちゃんはよくあそこではしゃぎ回って、砂ぼこりがたくさん舞い上がってた。周りの空気も、太陽の光と海風の香りでいっぱいだった。
???:
海は、今にも私たちの思い出を飲み込もうとしている…
???:
…そして、私たちをも。
パイモン:
…えっと…オイラ、よくわからないぞ…
元気な少年があなたたちに挨拶した。
???:
見ない顔だね、リネットの新しい友達かい?
パイモン:
ん?おまえは…
???:
妹を気にかけてくれてありがとう。リネットはここで昔の思い出を懐かしむのが好きでね、心配はいらないよ。
リネ:
おっと、自己紹介がまだだったね。僕はリネ、こっちは妹のリネットだ。見たところ、外国から来た旅人さんかな?
パイモン:
おう、オイラはパイモン、こいつは旅人だ。オイラたち、フォンテーヌに来たばっかなんだ。
パイモン:
さっきまでおまえの妹としゃべってたんだけど、その…なんか言ってることがよくわからなくて…
リネ:
そうだったのか。リネットがこんなによく話すのは珍しいんだよ。普段はとても物静かでね、会話は僕が担当することが多い。
パイモン:
へぇ、そうだったのか。オイラと旅人のコンビもおまえたちと似てるぜ。いつもオイラだけが喋ってるんだ。
パイモン:
えっ、そうだったのかよ!?
リネット:
私もお兄ちゃんがおしゃべりだって思うことがある。
リネ:
あっははは…僕たち似た者同士みたいだね、パイモン。
パイモン:
あはは…
パイモン:
それで、さっきリネットが言った、海は今にも私たちの思い出を飲み込もうとしてる…私たちをも、って…一体どういう意味なんだ?
リネ:
ああ、それか。フォンテーヌに長く伝えられている「予言」だよ。
リネ:
うーんと…いや、正確には予言とは言えないかも。予言って言うのは、起こるかどうか分からないものでしょ。でもフォンテーヌでは、すでに現在進行形で起こってることなんだ…
旅人:
何が起こってるの?
リネ:
それは…どこから話せばいいか…
リネ:
そうだ、この件はまた今度話そうよ。僕たちまだちゃんと挨拶をしてなかったよね?
パイモン:
えっ?さっきの自己紹介だけじゃ足りないのか?
リネ:
こんにちは、旅人。
リネ:
それから…こんにちは、パイモン。
リネはパイモンの背中をそっと叩いた。
パイモン:
おいっ!なんでオイラとは握手じゃないんだよ!リネは一体なにがしたいんだ?
リネ:
あはははっ…気にしないで。フォンテーヌにおける交友の「マナー」だとでも思ってよ。もしかしたら、「役に立つ」時が来るかもよ?
パイモン:
そうなのか…?まあ、現地の友達ができるのはいいことだけどさ。
パイモン:
そういえばオイラたち、歌劇場に行って水神と会いたいんだけど、よかったら道案内してくれないか?
リネ:
フリーナ様に会うのかい?いいよ、ちょうど僕も歌劇場に行くつもりだったんだ。けど、まずはここでの用事を済ませたいんだよね…
リネ:
僕について来て。
リネについて行く
リネ:
君たち…フリーナ様に会いたいって言ってたけど…あちらから二人を出迎えに来てくださったみたいだよ。
噂の水神フリーナは、護衛を連れて、意気揚々とこちらに向かって歩いてきた。
パイモン:
えっ!?あれが…水神なのか?なんでオイラたちが来ることを知ってたんだ…
フリーナ:
富める者も貧しき者も、グラスを持つ者も持たざる者も、杯を掲げよう!グラスがない者は代わりに腕を。
フリーナ:
諸君らの見ての通り、見知らぬ旅人が我らの国を訪れた。さあ、彼らに祝福を!遠路はるばるやって来た旅人とその仲間のために、祝杯をあげようじゃないか!
パイモン:
えっ!?オイラたちのことか?
旅人:
(グラスなんて誰も持ってないけど…)
フリーナ:
キミたち二人がいくつかの国を派手に荒らしてきたことは、もう耳にしているよ。だが、それでも歓迎しよう。いや、それどころか、この僕が直々に出迎えてあげようじゃないか。
フリーナ:
恐れなど、小物が抱く感情だ。僕は神として、そんな無意味なことを信条にして警戒したりはしない。キミの敬虔さはよく知っているから、安心するといい。
フリーナ:
此度の謁見は僕の力と権力を仰ぎ尊んでもらうためのものだ。賢き者は、常に正しき旗の下に集う。これ以上に英明なことなどないだろう?
フリーナ:
ようこそ、水の国へ。キミたちの旅の価値と意義を、このフォカロルスが認めよう。さあ、思う存分、快哉を叫ぶといい。
旅人:
こんなに簡単に神に会えるなんて…
パイモン:
オイラもまだ状況が分かってないぞ…まだフォンテーヌに着いたばっかなのに…
パイモン:
それにこの水神、「前置き」もちょっと…なんだか「大げさ」っていうか…
パイモン:
その…聞きたいんだけど、なんでオイラたちが来ることを知ってたんだ?
フリーナ:
うん、キミたち異郷人が凡庸な考えを持ってしまうことは充分に理解できる。しかし、神の中にも「平凡」な神と「優秀」な神がいるというのを忘れないでほしい。キミたちが僕の才能に驚くのも無理はないけどね。
フリーナ:
今一度自らを見つめ直すべきじゃないか?キミたちが本当に神と会話できるほどの人徳と礼儀を兼ね備えているのかどうかについてね。僕からすれば、キミたちの情報を得ることなんて指を動かすのと同じで、これ以上ないくらい簡単なことさ。
パイモン:
うわぁ、めちゃくちゃ偉そうだぞ…
旅人:
自分の神の地位をすごく強調してくる…
フリーナ:
……
フリーナ:
…おやおや?なんだいその目は?もしや、このような歓迎の儀にすら満足できないと?もっと何か言ってあげれば気が済むかい?
旅人:
……
パイモン:
…えっと、オイラたちが話題を切り出すのを待ってるのか…?
ヴィエンヌ:
わぁ、こんなところでフリーナ様に会えるなんて、珍しいわね。
ヴィエンヌ:
あっ、二人はもしかして、あの有名な「異郷より訪れる金髪の旅人」だったの?さっきは気付かなかったわ。
アントワーヌ:
なになに、フリーナ様がいらっしゃったって?何か面白いものでも観られるのか?
レクトゥール:
そりゃそうさ!なんたって「異郷より訪れる金髪の旅人」だぜ。フリーナ様がわざわざここに来られたのは、きっと彼と素晴らしい対決を繰り広げるために決まってる!
アントワーヌ:
うぉおお!そいつは楽しみだ。やっぱりフリーナ様は俺たちの期待を裏切らないな!
フリーナ:
フハハハッ!いかにも——しかしそう焦らないでくれ。まったく、僕を信奉する民は、いつも観衆と一緒になって高らかに叫びたがる。少々耳につくが…僕はそれすらも寛容に受け止めよう。
フリーナ:
これは褒美だと思ってくれ。キミたちの想像通り、僕はこの異郷の旅人と歴史的な対決をするつもりだ!
パイモン:
えっと…いきなりやり合うのか?なんか展開が早すぎるような…
フリーナ:
…ん?コホンッ!キ…キミは、恐れを感じないのか?これは神との対決なんだぞ。
クロリンデ:
何をする気だ、旅人。民の前で神を愚弄するつもりか?
フリーナ:
…コホン、気にするな、クロリンデ。神に向かって剣を抜ける者などそういない…その勇気は讃えよう。彼は、正真正銘の闘士であると言わざるを得ないな。
フリーナ:
だが残念だ…この時代の人々は、常に刺激を望む。単なる武力対決では、飢えた魂を満たすことはできないだろう!
レクトゥール:
…確かに言われてみりゃ、殴り合いの対決だけじゃ面白みに欠けるな…
アントワーヌ:
エリニュス島の犯罪者たちも、しょっちゅう決闘を通して自分の名誉を守りたがるし…確かに武力対決には飽きてきたな。
フリーナ:
そうだろう?であれば…正義の神である僕が、この異郷の旅人と法廷で対決しようではないか!
レクトゥール:
おぉぉッ!そいつはいい、そう来なくっちゃな!
アントワーヌ:
ああ、こっちのホームはフォンテーヌなんだ。歌劇場を利用しないなんて惜しいな。
パイモン:
なんでそこまで観衆の反響を気にするんだよ…その「歌劇場」ってとこに浸かり過ぎなんじゃないのか…?
パイモン:
それに…法廷で対決するって言ったって、なにをするんだ?まさかオイラたちを審判でもする気かよ?
フリーナ:
フフッ、キミたちに審判を下す理由はもちろんあるさ。むしろ…すでに明白だろう?
旅人:
明白?
フリーナ:
フォンテーヌの法律において、月始めの三日間は如何なる者であろうと、フォンテーヌの街中で飛行物体を放つことは禁止されている。キミたちはすでにこれに違反しているのさ。
アントワーヌ:
おお!確かにそうだった。さすがフリーナ様…フォンテーヌの法律のことなら、右に出る者はいない。
パイモン:
そ、それのどこが明白なんだよ。そんな変な法律…いや、待てよ…オイラのこと「飛行物体」だと思ってるってことかよ!
旅人:
えっと…
フリーナ:
そうだとも。異論がないなら、水神の名においてキミたちを逮捕しよう。
リネ:
申し訳ございません、フリーナ様。空気を壊すようではありますが…口を挟むことをお許しください。
リネ:
…そのパイモンは、飛行物体に入らないと思います。
パイモン:
そうだぞ、リネ!やっとマトモなやつが話に加わったぜ。オイラが「飛行物体」なわけないだろ!?
フリーナ:
ほう?大魔術師リネ、我が愛しの民よ。僕への反論は許すが、一体どうやってそれが飛行物体でないことを証明する気だい?
リネ:
ふふっ、「魔術師」ともあろう者が、場をかき乱してしまいましたね。そのフォローをする責任は当然ながら僕にある…
リネ:
ちょうど観衆も揃っていることですから、ここでひとつマジックを披露いたしましょう。
リネが指を鳴らすと、あなたとパイモンの背中を繋ぐ細い糸がはっきりと見えた。
リネ:
(パチン!)
リネット:
ジャジャーン——
パイモン:
えっ!オイラの背中に…いつの間にこんな細工を…
旅人:
(あの時だ…)
初めてリネと会った時、彼はあなたの手を握り、パイモンの背中を叩いたことを思い出した。
リネ:
見ての通り、パイモンは…ふふ…気球のようなものに分類されるべきです。この糸はずっと存在していて、さっきまでは見えていなかっただけなのだから。
ヴィエンヌ:
えっと…それってマジックって言うより、ジョークに近いんじゃ…
アントワーヌ:
ハハハッ、俺は面白いと思うが。よっ、いいぞ!
レクトゥール:
…うーん、なんつったらいいか。それじゃ、フリーナ様のお考えが…
フリーナ:
……
フリーナ:
ぷっ…ハハハハハハッ…
フリーナ:
素晴らしい、実に素晴らしいよ、リネ君。こういう予想外の展開は大好きさ。キミのおかげで、今日の演出は完璧なものになった。
パイモン:
演出?今日の出来事を演出の一つだって言いたいのか?
フリーナ:
であれば、審判の件はこれで終わりとしよう。正義の神が無実の者に濡れ衣を着せるわけにはいかないからね。
フリーナ:
だが…審判の理由さえあれば、異郷の旅人どころか…
フリーナ:
異国の神であろうと、僕は裁くことができる。フフッ…
フリーナ:
それでは、リネ君にリネット君、キミたちの次のパフォーマンスを楽しみにしているよ。皆の衆も、また会う日まで。
リネと会話する
パイモン:
も…もう行っちゃったぞ…なんかよくわからない神だったな。質問する暇もなかったし…話はまた今度だな。さっきのあんな雰囲気じゃ…
リネ:
大したことじゃないよ。たまたまそんな法律があることを知っててね、君たちのために念のため準備をしておいたのさ。まさか本当に役に立つなんて思ってもみなかったよ。
リネ:
これで、フリーナ様がどんな神なのか分かっただろう?
リネット:
時々訳が分からなくなるけど、一応は理屈が通じる。
パイモン:
ところでリネ、おまえってすっごいマジシャンだったんだな!歌劇場でパフォーマンスとかやるのか?
リネ:
ははっ、単にちょっとしたトリックが見せられるだけさ。それを使って生計を立ててるだけだよ。マジックの助手も、リネットがやってくれてる。
リネ:
けど、実はフォンテーヌ最高のホールである「歌劇場」でパフォーマンスを行うのは、今回が初めてなんだ。
パイモン:
あれ…でもそういや、歌劇場ってフォンテーヌの法廷なんじゃなかったか?
リネ:
事件の審理がない時は、様々な公演が行われるんだ。フォンテーヌじゃ元々、審判と公演の境界が曖昧だからね…
リネ:
そうだ、これも何かの縁だし…旅人、パイモン、君たち二人を公演のお客さんとして招待したいんだけど、どうだい?
リネット:
お兄ちゃんは知り合いが多ければ多いほどテンションが上がるタイプ。
パイモン:
へへっ、いいな!どうせしばらくやることはなさそうだし、それに元々歌劇場に行くつもりだったからな。
旅人:
うん、是非。
リネ:
それはよかった。だったら暫く一緒に行動しようよ?道案内もしてあげるからさ。あっ、でもまだやることがあるから、とりあえずそっちを…
旅人:
役に立てることがあるなら手伝うよ。
リネ:
本当かい?じゃあ遠慮なく。
リネ:
これ、「マジックポケット」っていうマジック道具なんだけど…これをここにいる人たちに配ってきてくれないかな?
パイモン:
えっ?こんなマジック道具でなにするんだよ?
リネ:
うーん…前に「予言」について聞いてきたでしょ。まずはそれについて詳しく説明しようか…
リネ:
いつからか、フォンテーヌにこんな予言が囁かれるようになった…
リネ:
——フォンテーヌ人はみな、生まれた時から「罪」を抱えている。正義の国フォンテーヌがどれほど審判を行おうと、それが消えることはない。
リネ:
フォンテーヌの海面が上昇し、罪を背負いし人々が海水に飲み込まれるまで…
リネ:
…人々はみな海の中に溶け、水神は自らの神座で涙を流す…そうして初めて…フォンテーヌ人の罪は洗い流される——
パイモン:
めちゃくちゃネガティブな予言だな…なんでフォンテーヌ人は生まれながらにして「罪」を抱えてるなんて言うんだ?罪って一体なんの罪なんだよ?
リネ:
人々も色々と想像を巡らせててね。一説には、フォンテーヌ人の先祖が海の力を盗んだせいで、海が怒り狂ってるとか…
リネ:
別の説では、フォンテーヌ人が初代水神の忠告を無視したせいで、天空の島の神の怒りを買ったとか…
リネ:
けど、フォンテーヌでは何事にも証拠が必要だ。こういった説にも証拠がないから、すべては想像に過ぎない。
パイモン:
フォンテーヌ人ですら自分がなんの罪を犯したのか知らないんなら、予言なんて無視すればいいじゃないか?別にやましいことなんてないんだろ。
リネ:
始めはみんなそう考えてたよ。でも…ここ数年、フォンテーヌの海面が実際に上昇し始めたんだ。
リネット:
すでに多くの場所が「海の底」へと変わり果てたわ。
リネ:
それらの説を信じず、ただの「自然現象」だって考えてる人も多い。だけど僕や僕の家族からすれば、フォンテーヌの人々はこんな可能性を無視して、ただじっと死を待つだけでいちゃいけないと思うんだ。
リネ:
少なくとも、海の近くに住んでる人は沈む前に引っ越すべきだ。だからこうして、みんなに「マジックポケット」を配ってるのさ。
リネ:
これはマジック道具で、高い収納機能がある。引っ越しの時、絶対に役立つはずだよ。
パイモン:
なるほど、「転ばぬ先の杖」ってやつだな。
リネ:
ああ…或いは絶対的な力のみが、災害に抗うことができるのかな。ははっ…どうだろうね、僕たちはあまりにも小さな存在だから。
リネ:
さて、手伝ってくれるなら、近くの人にマジックポケットを配ってくれないかな。何と言われようと、無理矢理押し付けてきてくれればいいからさ。はははっ。
近くの住民たちにマジックポケットを配る
アントワーヌ:
君はかの有名な金髪の旅人だったのか。気付かなくて、失礼したよ。
アントワーヌ:
マジックポケットか…用意周到なんだな。確かに、信じないよりは信じたほうがいい。
アントワーヌ:
それじゃ、受け取っておくよ。大魔術師にお礼を言っておいてくれ。
近くの住民たちにマジックポケットを配る
ガラテア:
ん?これ…別にいらないよ。たとえ予言が本物だとしても、みんなを飲み込むほどになるのなんか、もっと先でしょ?
ガラテア:
人は今を生きないと。この先もし何かが起こるなら、起こった時にまた考えればいいよ。
パイモン:
それでもやっぱり受け取ってくれよ。万が一って時に、役立つかもしれないだろ?
ガラテア:
んー…分かったよ、ありがとう。私はただ…引っ越すことは今の生活を捨てるのと同じだと思って。それがヤなんだよね。
近くの住民たちにマジックポケットを配る
オージュロー:
それ…君たちも「予言」を信じてるのかい?ははっ、俺はいらないよ。
パイモン:
おまえは予言を信じない派なのか?
オージュロー:
いいや、信じてるよ。でもそっちじゃなくて、もう一つの寓話のほうを信じてるのさ。
オージュロー:
物語によれば、人々はかつて海の中に暮らしてて、海を離れられない存在だった。
オージュロー:
人々は、陸上で暮らしたいと思った。やがて血管が発達し、海を体内に包み込んで、陸に上がった…ってね。
オージュロー:
だから、たとえ海面が上昇して、海に飲み込まれたとしても、ただ帰るべきところに帰ったってのと同じなんじゃないかな。
パイモン:
うーん…そんな説もあったのか。でも、海に飲み込まれたら、人は死んじゃうんだぞ…や、やっぱり貰っとけって…
オージュロー:
ああ、わかった、受け取ろう。俺はただ、予言にある「人は海に溶ける」が、死とは限らないと思っているだけさ。
リネと会話する
リネ:
もう全部配り終えたのかい?どうだった?みんな…その…自分なりの考えを持ってたでしょ?
リネ:
ああ。でも災害が本当に起こった時には、きっと今の考えを変える人も多いんじゃないかな。だから、準備をしておいて損はない。
パイモン:
それで、まだ他にやることはあるか?
リネ:
あとはもう、最後の一つ。実はマジックポケットは、フォンテーヌ廷にある工房のオーナーが作ってくれてるんだ。せっかく行くわけだから、ついでに材料を持っていこうと思ってね。
パイモン:
材料集めだな?どんなものか教えてくれよ。人手が多ければ早く終わるぜ。
リネ:
うん、君たちがいてくれて助かったよ。材料はロマリタイムフラワーって言う植物で、港の東側の海辺にいっぱい生えてるよ。
リネと会話する
リネ:
さすがはプロの旅人、仕事が速いね。こっちもいくつか摘んで来れたよ。
リネ:
ほら、リネットもちょっとは手伝ってよ。
リネット:
無理、今日は省エネモードだから。じゃないと歌劇場での公演で、元気出ないかも。
リネ:
はぁ…わかったよ。まだ公演まで時間はたっぷりあるんだけどね…とりあえず、事は全部済ませたから、フォンテーヌ廷に戻らない?
パイモン:
歌劇場に行く前にフォンテーヌ廷に行くのか?フォンテーヌの大都市フォンテーヌ廷…ちゃんと見ておかないとな…
リネ:
シーッ、待った。…見て、あの子。あっちの女の子…
パイモン:
ん?あの女の子がどうかしたのか?オイラは別になんとも思わなかったけど…
リネ:
いや…明らかにスリだよ。
リネ:
実はマジシャンの手法は、泥棒と似たところがあってね。どっちも人に見つからない前提で、小細工を行うものなんだ。
リネ:
彼女の動きをよく見てごらん…
ある泥棒が通行人に近づき、所持品をこっそり盗んだのを見た。
パイモン:
あっ、ホントだ!
リネ:
シーッ…静かに。彼女を捕まえる方法を考えよう。かなり警戒してるみたいだから、二手に分かれて行動したほうがいい…
リネ:
君たちはあっちのリフトから上に先回りして。もし逃げるとしたら、必ずあの方向を通るはずだから。
リネ:
よし、それじゃ行くよ。
先回りして泥棒を止める
パイモン:
リネが言ってたのってここだよな…
パイモン:
あっ、見ろ!あいつじゃないか?
パイモン:
…まずい、気づかれたか。違う方向に走ってったぞ!
パイモン:
どうしよう…追いかけるか?
パイモン:
うぅ、そうだな。もしかしたら、オイラたちを誘い出そうとしてるだけってこともあるし…
しばらく待ったが、泥棒が再び姿を現すことはなかった…
パイモン:
なんか、なーんにも進展がないけど…リネのやつ、泥棒を捕まえられたかな…
パイモン:
おう、行こうぜ。
リネと会話する
リネ:
…他になくなった物はないかい?
レクトゥール:
いや、大丈夫だ。助かった、全然気付かなかったぜ。
レクトゥール:
それじゃ、俺はこれで。本当にありがとな。
パイモン:
あっ、盗られた物はリネが取り戻したのか?
リネ:
ああ。でも残念ながら、泥棒は捕まえられなかった。あの子、物を捨てて僕の注意を引いてね。その隙に一瞬で消えたんだ。
リネット:
その子が消えた大体の方向は見てたよ。でもあの時お兄ちゃんが足を挫いて…私もそれに気を取られちゃった。
パイモン:
えっ?ケガしたのか、リネ?
リネ:
大したことじゃない、ちょっと挫いただけさ。もう大丈夫。
リネット:
お兄ちゃん、善良でいるのはいいけど、もっと自分のことも気にかけて。公演に影響したらまずいわ。
リネ:
はははっ…ごめんごめん。許してよ、リネット。
リネ:
はぁ…それにしてもあの泥棒、身のこなしが凄かったな。ちょっと予想外だったよ。
リネ:
まあ、少なくとも物は取り戻せたし、完全敗北ってわけじゃない。
パイモン:
そんなに凄かったのか…まあでも、結果は悪くなかったんじゃないか?リネの親切が無駄にならなくてよかったぜ。
リネ:
ははっ。さて、ハプニングもこれでおしまい。さっさとフォンテーヌ廷に行こうか。
巡水船に乗ってフォンテーヌ廷に行く
パイモン:
これに乗ってフォンテーヌ廷に行くのか?なんか、先進的な乗り物だな…フォンテーヌ人って本当に水を利用するのが得意なんだな。
リネ:
これは「巡水船」だよ。フォンテーヌのすべての要地を繋いでるんだ。
リネ:
これが結構便利でさ。まあ、道中の景色はほとんど変わらないから、ずっと乗ってるとちょっと退屈かも。だからこそ、君たちみたいな友達と一緒に乗らないとね。
リネット:
つまりお兄ちゃんは、私と一緒にいても退屈って言いたいの?
リネ:
えっと…いやいや、そんなことないよ。ほら…リネットは普段…口数が少ないでしょ…
リネ:
それにリネットと一緒にいる時は、なんだか旅っていうより…家にいる感じがして…あ、あはは…
リネット:
そう。
パイモン:
どこの兄ちゃんも、妹にはかなわないみたいだな…
リネ:
ははっ。そろそろ時間だ、はやく船に乗ろう。
???:
あらあら、まさかあの有名な魔術師リネさんに、その妹で助手のリネットさん?
リネ:
こんにちは、君は…
シャルロット:
あっ、私はスチームバード新聞社の記者、シャルロットよ。
リネ:
初めまして、スチームバード新聞社の記者だったんだね。君たちの新聞社には以前、僕たちの公演の宣伝で色々と世話になったよ。
リネット:
お会いできて光栄です。
シャルロット:
待って、そっちの二人はもしかして…テイワット中を旅しながらビッグニュースを作りまくってる旅人?
旅人:
えっと…そうとも言えるかも。
パイモン:
すごいな、一瞬でオイラたちが誰なのか当てるなんて。
シャルロット:
ふふっ、君たちのことすら知らなかったら、記者なんてとっくにやめてるわよ。
シャルロット:
はぁ…今日はなんて日なの?こんな大物たちとご一緒できるなんて…記者の神からの恵みかしら?
パイモン:
その、シャルロットは…普段どんなことを報道してるんだ?
シャルロット:
うーん…ニュースの素材がない時は、歌劇場で最近審理された事件とかを報道してるわ…
シャルロット:
同じ内容でも、報道の仕方さえ工夫すれば、読者の目を引くものになる。
シャルロット:
例えば、詐欺師がいかに女の子の気持ちを弄んだか、とか…金融犯罪の犯人が過去にパン一枚で五日間も食いつないだ経験とかね…
シャルロット:
とは言っても…私が追い求めてるのは、独占的かつビッグな超仰天ニュースだから。最近のこういう内容は、私の才能を無駄遣いしてるとしか言いようがないわ。
シャルロット:
あっ、そうそう。実はある事件をずっと追ってるの…いえ、一連の事件、と言ったほうが正しいわね…
リネット:
「連続少女失踪事件」のこと?
シャルロット:
ええ。これはフォンテーヌで最も謎に包まれていて、最も話題性のある事件よ。
シャルロット:
もし「連続少女失踪事件」が解決した時、一番に記事を完成させて、『スチームバード新聞社』の一面を飾ることができれば…
シャルロット:
同業者はみんな涙を流して嫉妬するでしょうね?その時のために、もう素材は山ほど集めたわ。あとは真実が明かされるのを待つだけよ。
パイモン:
「連続少女失踪事件」…一体どんな事件なんだ?犯人はまだ捕まってないのか?
シャルロット:
そうよ。一件目に起きた少女失踪事件は、なんと二十年前まで遡るわ…
シャルロット:
あの年代から現在まで、ある一定の間隔をあけて少女が失踪してきた。みんな似たような年齢で、どれも痕跡はなかったわ。
シャルロット:
さらに恐ろしいことに、失踪した少女は誰一人として見つかっていないの。
シャルロット:
その間に容疑者として逮捕された人も結構いるけど、逮捕から程なくして、事件は繰り返し発生した。
シャルロット:
ええ、その可能性も十分あるわ。何にせよ、すべての事柄には確かな「真実」があると私は信じてる。そして、「真実」はいつか必ず明かされる。
リネ:
僕もそう思うよ。少なくとも、失踪した少女の家族には真実を知る権利がある。
リネ:
想像したことがあるよ…もしリネットが行方不明になったらってね。そんなことがあれば僕はどんなことをしてでもリネットを連れ戻すし、絶対に犯人を突き止める。
リネット:
想像だけであってほしいものね。
パイモン:
えっ!
シャルロット:
えぇええええ!?
シャルロット:
旅人、パイモン!?
パイモン:
シャルロット!!
旅人:
シャルロット!
シャルロット:
まさか巡水船で君たちに会えるなんて…これは私の人生の中でも、とんでもないビッグニュースよ!
シャルロット:
どうしてフォンテーヌに?君たちがフォンテーヌに来るなんて聞いてなかったわ。
パイモン:
えへへ、すごい偶然だな。オイラたちみたいに旅するやつは色んな場所に行くから、オイラたちがフォンテーヌに来るのを誰も知らなくてもしょうがないぜ…
パイモン:
まぁ…水神がどうやって知ったのかは分からないけど…そうだ、この二人はさっき知り合った友達なんだ。
シャルロット:
あっ、紹介は結構よ。かの有名な魔術師のリネさんに、その妹兼助手のリネットさん…
シャルロット:
このお二人のことすら知らなかったら、記者なんてとっくにやめてるわよ。初めましてね、私はスチームバード新聞社の記者、シャルロット。
リネ:
初めまして、スチームバード新聞社の記者だったんだね。君たちの新聞社には以前、僕たちの公演の宣伝で色々と世話になったよ。
リネット:
お会いできて光栄です。
パイモン:
みんな顔見知りだし、なんだか一気にフォンテーヌになじめた気がするぜ!
パイモン:
そうだ、シャルロットは最近なにしてたんだ?またなにかビッグニュースでもあったのか?
シャルロット:
最近は…まあまあかな。ニュースの素材がない時は、歌劇場で最近審理された事件とかを報道してるわ…
シャルロット:
同じ内容でも、報道の仕方さえ工夫すれば、読者の目を引くものになる。
シャルロット:
例えば、詐欺師がいかに女の子の気持ちを弄んだか、とか…金融犯罪の犯人が過去にパン一枚で五日間も食いつないだ経験とかね…
シャルロット:
はぁ…そうなのよ。流石、分かってるわね。私が追い求めてるのは、独占的かつビッグな超仰天ニュースだから。最近のこういう内容は、私の才能を無駄遣いしているとしか言いようがないわ。
シャルロット:
あっ、そうそう。実はある事件をずっと追ってるの…いえ、一連の事件、と言ったほうが正しいわね…
リネット:
「連続少女失踪事件」のこと?
シャルロット:
ええ。これはフォンテーヌで最も謎に包まれていて、最も話題性のある事件よ。
シャルロット:
もし「連続少女失踪事件」が解決した時、一番に記事を完成させて、『スチームバード新聞社』の一面を飾ることができれば…
シャルロット:
同業者はみんな涙を流して嫉妬するでしょうね?その時のために、もう素材は山ほど集めたわ。あとは真実が明かされるのを待つだけよ。
パイモン:
「連続少女失踪事件」…一体どんな事件なんだ?犯人はまだ捕まってないのか?
シャルロット:
そうよ。一件目に起きた少女失踪事件は、なんと二十年前まで遡るわ…
シャルロット:
あの年代から現在まで、ある一定の間隔をあけて少女が失踪してきた。みんな似たような年齢で、どれも痕跡はなかったわ。
シャルロット:
さらに恐ろしいことに、失踪した少女は誰一人として見つかっていないの。
シャルロット:
その間に容疑者として逮捕された人も結構いるけど、逮捕から程なくして、事件は繰り返し発生した。
シャルロット:
ええ、その可能性も十分あるわ。何にせよ、すべての事柄には確かな「真実」があると私は信じてる。そして、「真実」はいつか必ず明かされる。
リネ:
僕もそう思うよ。少なくとも、失踪した少女の家族には真実を知る権利がある。
リネ:
想像したことがあるよ…もしリネットが行方不明になったらってね。そんなことがあれば僕はどんなことをしてでもリネットを連れ戻すし、絶対に犯人を突き止める。
リネット:
想像だけであってほしいものね。
巡水船に乗ってフォンテーヌ廷に行く
巡水船で雑談をしている間に、いつのまにか目的地に着こうとしていた…
パイモン:
あっ、そろそろ着くんじゃないか?見ろよ!
シャルロット:
ふぅ…とても楽しかったわ。やっぱりこういった小さなサプライズこそ、生活に欠かせないものね。
パイモン:
オイラたちも楽しかったぜ。気づかないうちに着いちゃったな。
シャルロット:
あっ、この後まだ取材があるの。そろそろ時間だから、失礼するわね。
パイモン:
おう、またな!シャルロット。
シャルロット:
ふふっ、ええ。機会があったら是非スチームバード新聞社まで遊びに来て!
パイモン:
記者の仕事って大変そうだな。ところで、これからどこに行くんだ?
リネ:
その…もしよかったら、先に僕たちの家に戻ってもいいかな?集めた材料を持って帰らないと。
パイモン:
おう、もちろんいいぜ。フォンテーヌ廷は広すぎて、オイラたちもどこから回ればいいか分からないしな。
水神と少し会話した後、あなたはリネの誘いに乗って、彼とリネットが手掛けるマジックショーの初演を観るため歌劇場に向かった。
リネがいる拠点に行く
リネ:
ここが僕たちの仮住まいさ…
リネ:
あっ、フレミネ!いたのか。みんなはどこ?この二人をみんなに紹介したいんだけど…
フレミネ:
リネ、リネット…みんなはさっき出かけたよ…
リネ:
そうか、まあ…「お父様」がそろそろ帰ってくる時期だから、みんな忙しいんだろうね。仕方ない…
リネ:
ああ、二人とも——この子は僕の弟でフレミネだ。凄く腕のいい潜水士なんだよ。
フレミネ:
こ、こんにちは…
パイモン:
こんにちは!オイラはパイモンで、こいつは旅人だ。潜水士の弟がいるなんて、すごいな。
リネ:
ははっ…
フレミネ:
その…リネ、ちょっとこっちに…
リネ:
ん?どうしたの?何か話でもあるのかい…?
旅人:
大丈夫、こっちのことは気にしないで。
あなたは少し離れたところで待つようにした。しばらくして、リネとフレミネは話し終えた…
リネ:
…そうか、分かったよ。
パイモン:
なにかあったのか?
リネ:
いいや、何でもないよ。家事とか、そういう話。
リネ:
そうだフレミネ、旅人と一緒にマジックポケットの材料を集めたんだけど、そっちはどうだった?
フレミネ:
うん、ぼくも水中でいっぱい採ってきた。ちょうど渡そうと思ってたところ。
リネ:
さすがだね。やっぱり水中のほうが効率がいいか。じゃあ、急いで工房に送り届けよう…
リネット:
雨が…降ってきたみたい。
パイモン:
ホントだな、今の今まで晴れてたのに…フォンテーヌの天気って変なの。
リネ:
ははっ、仕方ない仕方ない。歌劇場で審判がある日はいつも、こんなにわか雨が降るんだ。安心して、すぐに止むから。
フレミネ:
……
パイモン:
ん?フレミネ、どうしたんだ?
フレミネ:
ぼくはあの伝説を信じてる…
フレミネ:
フォンテーヌにはかつて水の龍王がいた。今はどこにいるか分からないけど…その水龍が涙を流すと、空から雨が降るって。
フレミネ:
小さい頃、母さんに言われたことがある。雨が止んでほしかったら、空に向かってこう叫べばいい…
フレミネ:
「水龍——水龍——泣かないで——」
パイモン:
もし本当に元素龍なら、そういった不思議な力があってもおかしくないけど…
パイモン:
うーん、オイラも試してみるか…
パイモン:
「水龍——水龍——泣かないで——」
パイモン:
……
リネ:
ふむ…何も起きないね。やっぱり、伝説は伝説か。
リネット:
お兄ちゃん、ロマンの分かる魔術師になれば、もっと人気になれるかもよ?
リネ:
あはは…そうだね。もしかしたら、知り合いでもない僕たちから慰めを受けても、別に気分はよくならないってだけかも。
少しすると、雨が止んだ。
リネ:
今日の雨は結構降ったね…もうこんな時間か、まずいな。
パイモン:
なにかやることがあるのか?
リネ:
ああ、歌劇場でやる公演の準備だよ。どうにか今日の巡水船の最終便までには間に合わせないと。
リネ:
公演当日は、巡水船でエリニュス島に来て。歌劇場はその島にある。リネットが歌劇場前の噴水広場まで迎えに行くから。
フレミネ:
その…も、もう行く?
リネ:
どうしたんだい、フレミネ。今ちょっと急いでて…あっ、そうか、マジックポケットの材料を届けに行くのが恥ずかしいんだね。
リネ:
旅人、悪いけど頼まれてくれないかな。これらの材料をボーモント工房のオーナーまで届けてほしいんだ。
リネ:
フレミネは…ちょっとシャイなところがあってね。あそこのオーナーはお喋り好きだから、フレミネも昔から苦手みたいで。
パイモン:
おう、いいぜ。オイラたちが行ってやるから安心しろ。
フレミネ:
本当にごめんなさい。ぼくのせいで…この恩は必ず二人に返すね。
パイモン:
えっと…恩だなんて、そんなガチガチに考えなくていいぞ。オイラたちもどうせ、ついでだからな。
ボーモント工房に行く
パイモン:
…オーナー、いるか~?オーナー!
エスタブレ:
おや、見慣れない顔だね。何がお望みだい?買い物、製造依頼——それとも雑談?
パイモン:
えっと…材料を届けに来たんだ。ほら、なんとかってやつを作るのに使う…
エスタブレ:
ああ、マジックポケットだね。もういくつも注文が入ってるから、一目で分かったよ。
旅人:
お金はここで払うの?
エスタブレ:
いいや、もうすでに十分な数の資金を貰ってるから。あの子たちが何に使うのかを聞いて、アタシも値下げしてあげたかったんだけど…
エスタブレ:
アタシも商売で苦労してるだろうから、そのままの金額でいいって聞かなくてね…まったく、お金持ちなだけじゃない、ホントに優しい子たちだよ。
パイモン:
リネたちってお金持ちだったのか…
エスタブレ:
よくは知らないけど、フォンテーヌの魔術師なんてのは結構稼げるもんなんじゃないのかい?
パイモン:
そういえばオーナー、ここの工房っていつも、こういう機械で物を作ってるのか?なんか凄そうな感じがするな…
エスタブレ:
機械でやれるなら、手を使うやつなんていないだろ?最新の技術を使わないのだってある意味じゃ「浪費」さ。そして浪費は罪の一つでもある。
パイモン:
じゃ、じゃあ…こんなデッカい機械、一体なにで動かしてるんだ?
エスタブレ:
そうだね…あんたたちみたいな素人にエネルギーシステムのことを説明するのは、なかなか骨が折れそうだね…
エスタブレ:
簡単に言や、フォンテーヌ人が普段使ってるエネルギーは基本的に「律償混合エネルギー」——つまり「審判」で生まれたエネルギーから来てるのさ。
パイモン:
えっ?審判からエネルギーが生まれるのか?どういう原理だよ…
エスタブレ:
うーん…アタシも具体的には説明できないけど、大雑把に言うと…
エスタブレ:
…法廷で審判が行われる時、「諭示裁定カーディナル」が人々の正義に対する信仰を集め、それをエネルギーに転換して全フォンテーヌのために使うってなもんかね。
パイモン:
「諭示裁定カーディナル」…たしか神が創った審判マシナリー、だっけか?そんな機能もあったのかよ。
パイモン:
でも、まだよくわかんないぞ…信仰みたいにふわっとしたものを、どうやって機械のエネルギーに変えるんだよ…
パイモン:
あっ!つまり、水神はこういう機械を使って、信仰から生まれる力をエネルギーに変えて、全フォンテーヌのために使ってるってことか?
エスタブレ:
あんたらの言う概念とか考えは、アタシからすると目新しく感じるけど…案外理にかなってるかもしれないね。
エスタブレ:
それから…「律償混合エネルギー」以外にも、「プネウムシア」って呼ばれるエネルギーもある。
エスタブレ:
生産過程では神の力に頼らなくていいんだけど、不安定なエネルギーでね、未だに広い範囲で一般に向けて実用化ってところまでは行ってないのさ…
トルヨン:
仕事ほったらかしてまた雑談か、オーナー。俺も混ぜてくれよ?
エスタブレ:
…何だってまたここに?あんたらカブリエール商会から借りた金は、来月必ず返すと言ったはずだよ。とやかく言われる筋合いは…
トルヨン:
来月を待たずして逃げられるってこともあるだろ?今日は少なくとも五割…いや、七割を回収させてもらう。
エスタブレ:
あんたら…
パイモン:
どうやらこの工房、経営状況がよくないみたいだな…もう材料も渡したし、オイラたちはそろそろおいとましようぜ…
ピリピリとした空気の中、よく知っている顔が現れた。
「公子」:
ちょっとちょっと、借金の取り立てをする前に、まずは自分たちのほうを清算したらどうだい?
「公子」:
君たちカブリエール商会が、俺たち北国銀行のビジネスを奪うのは別に構わない。でもまさか、北国銀行に不良債権を残していくなんてね…おっと失礼、俺が先に話をしてもいいかな?
トルヨン:
北国銀行のもんか?来月必ず返すと言ったはずだ。とやかく言われる筋合いは…
「公子」:
ん?旅人!おチビちゃん!まさかフォンテーヌで会えるなんて、思ってもなかったよ!
パイモン:
オイラたちもまさかおまえがここにいるなんて思わなかったぞ!なんでスネージナヤを離れて、フォンテーヌにまで来てるんだ?
「公子」:
ハハッ、話すと長くなるけど、実はもう長いことフォンテーヌにいるんだ。それはそれは退屈してたところさ。
「公子」:
君たちに会えたのはある意味、運命だ。旧友だからってだけじゃなく、どこに行っても争いが生まれる君たちだからね。
「公子」:
どう考えたって、この先の日々がぐんと面白くなるに決まってる。
パイモン:
オイラたち、おまえの言う面白さは別に好きじゃないんだぞ。旅はやっぱり順調じゃないとな。そうだろ、旅人。
トルヨン:
コホンッ…おい、北国銀行の男、こっちを無視するな。
「公子」:
邪魔しないでくれるかな?旅人と会える機会なんて滅多にないんだ、君たちはそこで待つといい。
トルヨン:
貴様…借金の取り立てに来たのはそっちのほうだろうが?なのに雑談が終わるまで待てってか?
トルヨン:
小僧、お望み通り今すぐ金を返してやる!おら、こっちに来い!
「公子」:
邪魔するなって言ってるのに…あ、そうだ旅人!前にトーニャとテウセルを氷釣りに連れて行ったんだけど、テウセルが——
トルヨン:
おい——!ず、図に乗るなよ…!野郎共、そいつを始末しろ!
「公子」:
…はぁ、話をする暇もくれないとはね。まあいい、北国銀行からは客に手出しをするなって言われてるけど…
「公子」:
君たちからかかって来るなら、「正当防衛」だ。二人とも、俺のために証人になってくれよ。
パイモン:
まあ、おまえなら一瞬で片づくだろうな。
タルタリヤと会話する
トルヨン:
なんなんだお前は…強すぎるにもほどがある…スネージナヤの北国銀行…まさかお前は——!
「公子」:
今さら気付いても意味ないよ。北国銀行が君たちの手に負えない相手だってことだけ、分かってくれればいい…
タルタリヤは水の元素力を使おうとしたが、なぜか神の目に反応はなかった…
「公子」:
…ん?
トルヨン:
…隙あり!
タルタリヤは一瞬にして、襲い掛かる商会の用心棒を倒した。
「公子」:
ふぅ。妙だな…
「公子」:
分からない…手を出そうとした瞬間、水元素力が急に言うことを聞いてくれなくなったんだ。まさか、神の目に何か…?
パイモン:
そんなことってあるのか?神の目の制御を失ってしまうなんて…オイラ、初めて聞いたぞ。
「公子」:
…まあいいや。過度に神の目の元素力に頼れば、鋭さを失ってしまう。それに俺には、邪眼もあるしね。
パイモン:
それで、タルタリヤはなんでフォンテーヌに来たんだ?北国銀行のお使いってわけじゃないんだろ?
「公子」:
ああ、それは…最近、気分が下がってたからかな。
パイモン:
え?なんだよその理由…おまえにも悲しい時があるのか?
「公子」:
ハハッ…もしかしたら俺も、自分のことをあんまり分かってないのかも。
「公子」:
近頃、体の内に何かの力がうずくような気がしてね。それになぜか時折、気が沈むんだ。
パイモン:
もしかして、さっきの神の目の不具合も、その力と関係してるんじゃないか?
「公子」:
確かにそうかもしれない…
「公子」:
そうだな…君たちに言ったかどうか覚えてないけど、俺は十四歳の頃、謎の深淵に落ちたことがあるんだ…
「公子」:
今の力はほとんど、その時に習得したものさ。そういうことを俺に教えてくれた師匠がいて、名を「スカーク」と言った。
「公子」:
彼女は口数が少なくて、とても不思議な人だった。どこから来たのか、何を経験したのか、まったく分からない人でね。戦闘の技術を教えてくれる時も、すごく厳しかったよ。
「公子」:
どうして俺を弟子にしてくれる気になったのか、一度聞いてみたことがあるんだ。確か…
「公子」:
…俺が「やつ」を呼び覚まし、俺の身に「やつ」の痕跡が残されたから。そして将来、これらの戦闘技術はきっと役に立つ、って言われたよ。
パイモン:
「やつ」ってなんだ?おまえはなにを呼び覚ましたんだよ?
「公子」:
それが、師匠はそれについてはハッキリ言わなかったんだ。けど俺は、深淵に落ちる際に見た夢と関係があると踏んでる…
「公子」:
夢の中で俺は、果てない海の底にいて…目の前には、息が詰まるような迫力の「鯨」がいた。
パイモン:
鯨?そういえば、なんかそういうイメージあるぞ…オイラたちとやり合った時、「デカ鯨の大ジャンプ!」みたいな技を使ってたよな!もしかしてあれか?
「公子」:
ハハハッ…あれはただの、元素力で創った「概念」の鯨さ。
「公子」:
あの夢を見た時から、夢の中のあのシーンがずっと心に焼き付いていて、振り払えないんだ…
パイモン:
だからってそれを自分の技に入れたのかよ…悪趣味だな…
パイモン:
なんで師匠に直接聞かないんだ?もしかしたら答えを知ってるかもしれないだろ?
「公子」:
そんな簡単に言わないでくれ。あの件以来、俺がスカーク師匠とあの深淵の捜索をやめたことはない。
「公子」:
捜し続けてもう何年も経つのに、何も進展がないんだ。記憶の中で、謎の深淵に落ちた場所も…今ではその痕跡すらない。
パイモン:
うわぁ…なんか怪談みたいだな。
「公子」:
ああ、手がかりはすべて途絶えてしまった。ま、仕方ないさ。この世の奇遇っていうのは、こういう風に掴みどころがないものなんだろうね。
「公子」:
おっと、いつの間にか話し込んじゃった。そういえば、まだ用事が残ってたんだ。今日のところはこの辺で…
パイモン:
また北国銀行の仕事か?
「公子」:
いや、個人的な用事さ。最近、暇な時にフォンテーヌの「決闘代理人」たちと手合わせをしててね。
パイモン:
決闘…代理人?そういう職業があるのか?
「公子」:
ああ。フォンテーヌじゃ、容疑者が法廷に出向く前、「名誉を守る」ためのチャンスとして、公式の決闘代理人に決闘を申し込めるんだ。
「公子」:
でも、決闘代理人は国中の精鋭たちから選びぬかれた強いやつらばかり。そのうえ決闘に「寸止め」なんて概念はない。
「公子」:
だからこの行為は、命を懸けて名誉を守ることの象徴とされてるんだ。勝てば審判を免れ、負ければ大人しく法廷行き…
「公子」:
…そして最悪の場合、決闘によって命を落とす。
「公子」:
フォンテーヌには死刑が存在するという噂だけど、本当に死刑に処された人はまだいないらしい。
「公子」:
だから、どうしても受け入れられない冤罪とか、名誉が第一とか、そういった人だけが決闘を申し込むんだ。そうでもなければ、自分の命を賭ける必要なんてないからね。
パイモン:
じゃあ、本当にその方法で審判を免れたやつはいるのか?
「公子」:
うーん、それはごく僅かだそうだよ。フォンテーヌの管理者がこんな規則を作ったのは、個人の名誉への尊重を示してのことに過ぎないだろう。
「公子」:
それに、決闘代理人も伊達にその任に就いてるわけじゃない。これこそ、俺がフォンテーヌに来てすぐにそいつらと手合わせした理由さ。
「公子」:
今日のクロリンデは、噂じゃ決闘代理人の中でも最強らしい。ずっと挑発し続けて、やっと手合わせしてくれることになったんだ。
パイモン:
おまえな…それにしてもクロリンデって名前、どっかで聞いたような…どこだったっけ?
「公子」:
そうだ、これは君たちが持っててくれ。
パイモン:
ええ、おまえの神の目じゃないか!適当すぎるだろ…こんなもの、他のやつに持たせていいのか?
「公子」:
この神の目がさっきみたいな状況になって、決闘に影響したらつまらないだろ?だからいっそ、持たないことにした。
「公子」:
それに、旅人に預かってもらいたいだけさ。あとで取りに来るよ。
パイモン:
あ、オイラわかったぞ。次にオイラたちに会うための口実がほしいだけなんだろ?
「公子」:
ハハハッ…そんなことないよ。それじゃ、また後で連絡するから。
パイモン:
タルタリヤのやつ、気が沈むとか言っておきながら、結局は相変わらずだったな。
パイモン:
これでしばらくやることがなくなったよな?リネたちの公演までに、この街をぶらぶらしてみようぜ!
ノリノリのパイモンに連れられ、フォンテーヌ廷の街を隅々まで歩いて回った…
新聞屋に行く
パイモン:
…わぁ、そうだったのか…!まさかずっと存在感のなかった記者が犯人だったなんて!
パイモン:
あっ…ごめん…びっくりしすぎて、うっかり…でもここの推理小説って、本当に面白いな!
パイモン:
フォンテーヌの推理小説って、八重堂の娯楽小説とは全然スタイルが違うんだな。どっちも良いところがあるけど、オイラからすると、こっちのほうが新鮮に思えるっていうか…
パイモン:
謎が明かされる瞬間とか、すっごく興奮するぞ!特に今読んでたやつ、おまえも買って読んでみろって!
パイモン:
ご、ごめんって…これからは気をつけるぞ…
パイモン:
あ…それはそうと…そろそろ歌劇場でリネたちの公演を観に行く時間だよな?出発しようぜ!
歌劇場の噴水広場に行く
パイモン:
エピクレシス歌劇場…すっごい貫禄だぜ…こんなところで公演ができるなんてすごいことだよな。どうりでリネのやつ、あんなに楽しみにしてたわけだ…
パイモン:
あれ?あそこの噴水に人が群がってるぞ。
ジョリオ:
…神よ、どうか賢く健康な子供を授けてください…
イリミア:
そんなことどうだっていいわよ。健康でいてくれればそれで十分。平安な一生を送れることこそ、一番の幸せでしょ。
ジョリオ:
ハハッ、そうだな。でも僕たち二人の子なら、きっとお利口さんだぞ…
パイモン:
これ…フォンテーヌのしきたりなのか?夫婦がたくさん集まってるぞ。
???:
「…ヴァシェ…」
旅人:
ん?
パイモン:
どうしたんだ?
???:
「…ヴァシェ…ヴァシェ…」
旅人:
今…何か言った?
パイモン:
いや?なにか聞こえたのか?
リネット:
この噴水は「ルキナの泉」といって、フォンテーヌのすべての水が交わるところなの。フォンテーヌの新婚夫婦はみんな、ここで子宝祈願をするのが習わしよ。
パイモン:
リネット!びっくりしたぞ、いつの間に来てたんだ…
リネット:
お兄ちゃんが噴水広場で待てって言ってたの、忘れたの?
パイモン:
それは覚えてるけど…
リネット:
ここは人が多いから当然でしょ。何が言いたいの?
パイモン:
ええ!お、おどかすなよ…真っ昼間から、そんなおかしなことあるわけ…
リネット:
そう…確かに、あなたに教えてあげられる情報を持ってるわ。もしかしたら、その疑問に答えられるかも。
リネット:
それは幻聴なんかじゃない。あなたの水元素の感知力が強すぎるせいで起こったこと…うちにも、あなたのような体験をした人がいるわ。
パイモン:
水元素の感知力?でも、こいつが聞いたのは人の声だろ?元素力となんの関係があるんだよ?
リネット:
あなたはいつ涙を流す?
パイモン:
え…ん?なんで急にそんなこと聞くんだ?
リネット:
答えて。
パイモン:
えっと、悲しい時とかか?うーん…それか、すっごく嬉しい時とか、すっごく怖い時とかか?
リネット:
なら、あなたにも理解できるはず。涙には…強烈な感情が含まれている。
リネット:
さっき、ルキナの泉はフォンテーヌのすべての水が交わる場所だと言ったでしょ。つまり大地に落ちた涙も、やがてはここに集まる。
リネット:
あなたが聞いた声も、もしかしたら誰かの涙の強烈な感情かもね。
パイモン:
それで、そいつはなんて言ってたんだ?
旅人:
誰かの名前を呼んでた気がする。
パイモン:
うーん…本当にそうだとしたら、一体なにがあったんだろう…
リネット:
その人よりも、今はお兄ちゃんのことを気にかけてあげて。
リネット:
普段は余裕そうに構えてるけど、本番前はいつもすごく緊張するの。あなたたちと話せば、緊張もほぐれるかも。
パイモン:
おっ、そうなのか?じゃあ、リネに会いに行こうぜ!
エピクレシス歌劇場に入る
リネ:
やっぱり約束を守ってくれたね。旅人にパイモン、君たちに出会えて本当によかったよ。
パイモン:
からかうなよな。ずっと楽しみにしてたんだから、おまえの公演を見逃すわけないだろ。
リネ:
ははっ、そうみたいだね。こんなに早く着いてくれるくらいだから。
リネ:
ちょうどよかった。まだ観客も入ってないし、せっかくだから君たちに最高の席を用意しよう…チケットを取ってくるから待ってて。
リネはあなたたちのためにチケットを取ってきてくれた。
リネ:
歌劇場は昔から指定席制でね、事前登録が必要なんだ。はい、これはもう登録済みだよ。君たちのチケットだ。
パイモン:
わぁ!一番前の席じゃないか。ありがとな、リネ!
リネ:
なんてことないさ、遠慮なく楽しんで…
コーウェル:
おーい——リネさん、ちょっとこっちに来てくれないか…
リネ:
ああ——舞台道具の配置にちょっと問題があるみたいだ。アシスタントのコーウェルが呼んでるから、ちょっと見てくるよ…
パイモン:
おう!オイラたち、先に席に座ってるぜ。おまえは自分のことに専念していいぞ。
リネが用意した席に着く
パイモン:
座席番号は…あ、この辺だよな。座ろうぜ。
???:
……
パイモン:
う…
旅人:
……
パイモン:
うぅ…
???:
……
パイモン:
おい、旅人…隣の人にちょっと話しかけたほうがいいんじゃないか?誰もいない状況で隣同士なのってちょっと気まずいぞ…
パイモン:
おまえ…まあ、わかってたけどな…
???:
すまない、この雰囲気に気付かなかった私の落ち度だ。
???:
必要な時は、気兼ねなく話しかけてくれればいい。
パイモン:
あっ…き、聞こえてたのか。耳がいいんだな…さっきあんなに小声だったのに…
パイモン:
えっと、コソコソしちゃって、失礼なことしちゃったぜ…その、話をしよう。えっと…なにを話せば…
旅人:
(もっと気まずくなっちゃった…)
パイモン:
あ、そうだ!おまえもこんなに早くに来て、一番前の席に座ってるってことは…もしかしてオイラたちと一緒で、リネの友達なのか?
???:
友達か…もしリネ君が希望するなら、喜んで友達になろう。
パイモン:
じゃあ、違うってことか…ま、まずいな、雰囲気がますます…あ、そうだ、自己紹介を忘れてたぜ…
パイモン:
改めてこんにちは、オイラはパイモンで、こいつは旅人だ。オイラたち、フォンテーヌに来たばかりなんだ。
???:
ごきげんよう、会えて光栄だ。二人の噂はかねがね伺っている。
???:
マナーに則り、私も自己紹介をしよう。私は…
リネ:
…ヌヴィレットさん!公演に来てくれるなんて、本当に光栄です!
ヌヴィレット:
なに、リネ君。この目で直に君の公演を見られるなんて、私のほうこそ光栄だ。
パイモン:
ヌヴィレット?もしかして…
リネ:
ん?今、話をしてたみたいだけど…もしかしてヌヴィレットさんの身分を知らなかったのかい?
リネ:
この方はフォンテーヌの最高審判官なんだ。ほら、あそこ——あのポジションは昔からヌヴィレットさんのものなんだよ。フォンテーヌの「公正」の象徴と言っても過言じゃない。
パイモン:
そ、そうだったのか。さっきは失礼なことを…そんなに大物だったなんて…
ヌヴィレット:
気にするな。「最高審判官」など、ただの仕事に過ぎない。一人一人に自分の「ポジション」があるように、私も特別なわけではない。
ヌヴィレット:
それから、多少不本意ではあるが…はぁ…一応言っておこう…
ヌヴィレット:
さっきからずっと、高所の貴賓席からポーズを決めているやつがいる…
ヌヴィレット:
君たちの目に初めて映った時に、最もかっこいいと思い込んでいる姿を見せたいがためにな。
ヌヴィレット:
気付いてやってくれ。でないと、落ち込んでしまうだろうから。
フリーナ:
フフフッ…
パイモン:
うわぁ…水神フリーナ…なんかすっごく得意気な表情だな。おまえに見破られたことになんか全然気づいてないみたいだぞ…
ヌヴィレット:
それは良かった。彼女のことは気にするな、私たちは公演に集中しよう。
パイモン:
…フォンテーヌの水神と最高審判官ってこんな関係なのか…
リネ:
さて、もう少し待っててくれるかい。もう準備はほとんど終わったよ。観客が入り終わったら、公演開始だ。
パイモン:
やっとか!オイラ、生でマジックショーを観るのなんか初めてだ。すっごく楽しみだぜ!
暫くすると観客が続々と入場し、やがて公演の幕が上がった。
パイモン:
おお!暗くなったぞ。もうすぐ始まるのか!
ヌヴィレット:
……
パイモン:
ご、ごめん…気をつけるぜ。
リネ:
本日はお忙しい中、「エピクレシス歌劇場」へお越しいただきありがとうございます。本日のパフォーマー、リネです。
リネ:
こちらは僕の妹で、最も重要なアシスタントのリネットです。さあ、皆に挨拶して。
リネット:
こんにちは。
リネ:
はははっ、眠そうに見えますが、こう見えて緊張してるんですよ。
リネット:
好きに言うといいわ。
リネ:
皆さん、こう思っていませんか——自由に元素力を使える「神の目」を持つ我々にとっては、マジックなんて簡単だろうと。
リネ:
ならば、ここに約束いたしましょう——今日この舞台上で起こることはすべて、元素力とは無関係です。
リネ:
私もリネットも、すでに「神の目」を外しました。ふふっ、これで神ですら手を差し伸べることはできませんね?
パイモン:
なるほどな、いわゆるマジックと魔法の違いってやつだな。
リネ:
もう待ちきれない皆さんのために、さっそく幕開けとしましょう。リネットはこれから、少々準備に取り掛かります。
リネ:
どうか寂しがらないで、少しの我慢ですから。すぐに思いもつかないような形で再び登場し、注目の的となってくれるでしょう。
リネ:
あ、それから…最後に一つ注意事項を——
リネ:
瞬きのタイミングは、慎重に選ぶこと。
マジックショーを観る
movie
帽子が空中に浮かび、トランプ、ハト、様々な不思議なマジック道具がリネの手と帽子から湧いて出てくる…でもこれだけでは、観客を驚かせるには物足りない。次こそ、リネが本当に観客たちに見せたいもの——
観客たちが注目する中、リネットは舞台上に吊るされた水槽に入った。蓋がすぐ閉じられ、密閉状態となった水槽。何かの事故かと観客たちが思った瞬間、リネは指を鳴らした。水の中にいるリネットは泡となって姿を消し、水槽の中にはリネットの服しか残っていない。舞台上のリネは余裕な顔で数回呼びかけた後、水槽に溶けたはずのリネットがリネの後ろから出てきた。そして、二人は一緒に観客たちの歓声を浴びた。
パイモン:
な、なあっ!?なにが起きたんだ?オイラ、なんにもわからなかったぞ!
パイモン:
リネットは飛び込んだよな?でも急に消えて…一体どうやって出てきたんだ?
ヌヴィレット:
私たちに簡単に見破られてしまうくらいなら、彼の技術もまだまだ鍛錬が必要ということになってしまう。
ヌヴィレット:
マジックを鑑賞する時は、故意に隠された手法よりも、舞台が織り成す過程に目を向けるべきだろう。
パイモン:
たしかにな…リネットが出てきた時はびっくりしたぞ。本当にすごいぜ。
リネ:
ありがとうございます。こちらのパフォーマンスにはご満足いただけましたか?
リネ:
しかし、この不思議な旅はまだ終わりません。これよりもさらに驚くような瞬間を用意していますよ。
リネ:
転移と消失のマジックは、まだまだ進化するんです。
リネ:
皆さん…水槽脱出のマジックは一切の隙もないように見えたけど、結局リネットが相手だったから成功したんだ——なんて思っていませんか?
リネ:
リネットが助手であれば、事前に準備する時間は十分にある、と。
リネ:
ならば次のマジックは、ここにいる幸運なお客さんに手伝ってもらいましょう。
リネ:
さあ、魔力に満ちた箱を舞台へ持ってきて。
リネ:
さて、箱は全部で二つあります。一つはここに、もう一つは観客席中央の通路に。
リネ:
勘の鋭いお客さんはすでにお気付きでしょう——そう、次のマジックは、入れ替わりです!
リネ:
選ばれたラッキーなお客さんには僕がこちらの箱に入るのと同時に、あちらの箱に入ってもらいます。そして一分後、お互いの箱から姿を現してみせましょう。
リネ:
皆さん、僕が細工できないよう、視界の箱から絶対に目を逸らさないでくださいね。
パイモン:
わぁ、ど、どうやってやるんだ…
パイモン:
なあ、リネって本当に「魔術」が使えるんじゃないのか?
リネ:
ラッキーなお客さんが誰になるかは、このナンバー抽選機で決めましょう。
リネ:
この機械は完全にランダム。この幸運が誰に訪れるのか、僕にだって分かりません。
リネ:
では、始めますよ。
リネ:
どれどれ…ああ、第七列三番目のお客さん、おめでとう!直々にこの不思議な一分間を体験できますよ!
リネ:
さあ、彼女をマジック箱のそばへ連れてきてくれるかい。
リネ:
箱の中の空間が狭くてごめんね。でもその代わり、緊張がほぐれるよう、中は手の込んだ装飾でいっぱいにしてありますから。
リネ:
あなたは何もしなくて大丈夫です。途中で何か不思議な感覚になったとしても、絶対に出てこないで。
リネ:
マジックが中断されてしまえば、あなたがどこに現れるか僕にも分かりません。気がついたらメロピデ要塞にいた、なんてこともある。
観客:
え、ええ…
リネ:
さて、箱に入る前に、皆さんに一つお願いしたいことがあります——どうか、カウントダウンをしていただけませんか?
リネ:
60、59、58…という風に、一つずつ数えてください。少し速くなったり遅くなったりしても構いませんよ。
リネ:
暗い箱の中では何も見えませんから、皆さんの声だけが頼りです。
リネ:
あ、イジワルはなしですよ?三十秒で六十回を数えきってしまわれては、僕も困っちゃいますから。
パイモン:
そんなこと言われたら、逆に速めに数えたくなるぜ、えへへ…
リネ:
おっと皆さん、だいぶイジワルな表情ですね?やっぱり事前に練習しておきましょうか。
リネ:
60、59、58…行きますよ、せーの。
一同:
60、59、58——
リネ:
そうそう、そのスピードです。それを保ってくださいね。それでは、カウントダウンが終わった後、もう一つの箱でまたお会いしましょう!
パイモン:
54、53、52!
パイモン:
ヌヴィレットは数えないのか?
ヌヴィレット:
私は心の中で数えよう。観客の音量はすでに十分だからな。
ヌヴィレット:
これは身分と性格によるところだ。気にせずパフォーマンスに集中するといい。
パイモン:
そっか。真面目な表情だったから、こういうのに慣れないのかと思ったぜ。
一同:
40、39、38!
ギャリック:
リネさん、いるか?準備はいいか?
リネ:
慌てないで、いま魔力の方向を確認してるから。
リネ:
どこか変な場所、例えば観客席の上に出て、落ちちゃったりしたら…それこそ事故になっちゃうからね。
パイモン:
なんかリネのやつ、全然急いでる感じがないよな。
???:
ドゴッ——
パイモン:
ん?なんの音だ?なあ、聞こえたか?
パイモン:
うーん…まっいいか、みんな気にしてないみたいだし。
一同:
25、24、23!
ギャリック:
どういうことだ?リネさん、まだ箱の中にいるのか?
リネ:
うっかり装飾を落としちゃってね。直そうとしたんだけど、中が真っ暗で、右も左も分からないや。
ギャリック:
もう時間がない、装飾なんて気にするな、パフォーマンスのほうが大事だ。
リネ:
それはダメだよ。パフォーマンスに欠陥があってはならないんだ。安心して、まだ二十秒もあるから。
一同:
19、18、17!
リネ:
やれやれ、予想外の状況が多くて、すみません。
リネ:
なんだかカウントダウンがどんどん速くなってきてる気がしますが…いいでしょう。一つひとつ数えるのは、確かに疲れますからね。
リネ:
あと十数秒?——充分です。
マジックショーを観る
movie
マジックボックスからリネの声がたまに聞こえてくる。時にはショーのやりづらさに文句を言ったり、時には舞台側のマジックボックスから出てきて、「しまった、今のはナシ」とまた扉を閉めたり…観客の笑い声の中でカウントダウンは終わり、リネは観客側のマジックボックスから姿を現した。しかし、選ばれた少女は舞台側のマジックボックスを開けて出てこない。そして、吊るされていた水槽が急に落下し、マジックボックスを破壊した…
フリーナ:
……!
興奮する観客:
こ、これもマジックの一環?
興奮する観客:
リネさん、ここから舞台が元に戻るんですよね?
リネ:
なんてことだ…
パイモン:
まさか、これ…本当に事故なのか?箱の中にはまだ人がいる…よな?
ヌヴィレット:
公演中止だ!医療スタッフは私についてこい。警察隊は現場を保護し、すべての出演者を押さえろ。歌劇場の出入口も一時的に封鎖する!
フリーナ:
そ、その通りだ!事故なら、原因を特定しなければ。事故じゃなかったら、その時は…正義の神の審判は免れない!
ヌヴィレット:
君たちも慌てなくていい。何が起こったのかはすぐ把握できるだろう。
しばらくして、警察隊の調査結果が出た。
ヌヴィレット:
不幸なことに、マジックボックスにいた人はすでに息を引き取っていた。死者の名はコーウェル…リネ魔術団のアシスタントの一人だ。
ヌヴィレット:
舞台上の花火が水槽上部のロープに引火したことが、水槽墜落の直接の原因となった。
ヌヴィレット:
なぜ箱の中にいたのが、選ばれた観客でなくコーウェルだったのかについては、まだ原因を突き止められていない。
ヌヴィレット:
だが警察隊が捜索したところ、あの少女は蒸発したかのように行方知れずになった。
ヌヴィレット:
——こうなれば、もう単なる舞台の事故とは言えない…
ヌヴィレット:
…「連続少女失踪事件」に属する一連の事件とも多くの特徴が一致している。
驚く観客:
れ、連続少女失踪事件!?
パイモン:
「連続少女失踪事件」って…シャルロットが言ってたあの事件のことだよな!
フリーナ:
フフフ…分かった、分かったよ。一目で見通せる謎を「目玉」にしてくれるとは…僕たちも見くびられたものだね?
フリーナ:
腕の立つ全能の魔術師——リネ君こそが、「連続少女失踪事件」の首謀者じゃないのか?
リネ:
どうして僕が?これは完全なアクシデントだ!
フリーナ:
すべてはマジックショーの最中に起こったことだ。少女が選ばれて消えたことも、キミのアシスタントが帰らぬ人になったことも…
フリーナ:
今にして思えば、前置きの「有から無へ、無から有へ」は一種の挑発だったわけか。
パイモン:
嘘だろ?本当にリネなのか?
パイモン:
で、でも、こいつはずっと舞台上の箱の中から、オイラたちに話しかけ続けてたんだぞ。
パイモン:
それに、こいつは出会った時から、「連続少女失踪事件」の犯人を捕まえたいって言ってたんだ。自分を捕まえたいだなんておかしいだろ?
ヌヴィレット:
言い争いはそこまでだ。フリーナ殿、今の発言はリネ君やその仲間に対する「告発」と受け取ってよろしいか?
フリーナ:
え?僕はただ彼のことを…「告発」について話すには時期尚早じゃ——
興奮する観客:
フリーナ様の推理…たしかに理にかなっています。自ら正義の主宰をされるんですね!
感服する観客:
トリックの裏に隠された誘拐と殺害の事実を、一言でズバリと言ってのけるとは、さすがフリーナ様…
フリーナ:
コホンッ、その…当たり前だろう。見えすいた真相より、目の前の相手のほうが僕を興奮させてくれるんだ。
フリーナ:
さて、そこの異郷の旅人よ。キミは手を差し伸べるんだろう?この前はリネ君に大いに助けられたはずだからね。
旅人:
リネを信じる。
フリーナ:
ハハハッ、なら問題ないね。諸君——実は、この旅人と初めて対面した時に、僕らはすでに一度対決を行っているんだ。
フリーナ:
それがまさか、リネ君の助けで引き分けになってしまうとはね。フン、引き分けというのは一番つまらない。
フリーナ:
いずれ必ずキミとの決着はつく。そのクライマックスが遅かれ早かれ訪れるとするなら…歌劇のフィナーレにこそふさわしい!
パイモン:
あいつ、あの時負けたよな?
ヌヴィレット:
よかろう、「告発」成立だ。「告発」があれば、「審判」するのみ。
ヌヴィレット:
旅人、フリーナ殿は君を「相手」として見ている。彼女の大袈裟な言い方は置いておくとして、君自身の意見を聞こう…
ヌヴィレット:
…君は、リネ君の味方となって彼を擁護し、彼の「代理人」になる気はあるか?
旅人:
喜んで。
ヌヴィレット:
分かった。「審判」は明日、歌劇場で執り行う予定だ。双方、自由に事件を調査し、真相を究明するがいい。
ヌヴィレット:
リネ君と彼の魔術団には、当事者として全員歌劇場で待機してもらう必要がある。
ヌヴィレット:
残りの観客は警察隊の確認がとれ次第、順番に退出してくれ。
フリーナ:
一日はあっという間に過ぎゆくものだ。名高き大物のキミが、一体どんな波を巻き起こせるか…フフフッ、心から楽しませてもらうよ。
休廷を宣言した後、観衆は次第に去り、フリーナとヌヴィレットも去った。
パイモン:
リネ!
リネ:
君たち…驚かせたよね?
パイモン:
当然だろ?目の前で事故が起きて、びっくりしないやつなんかいないぞ。
リネ:
…そっか、僕もだ。…コーウェルが…なんでこんなことに…
リネ:
さっきは皆の前だったが、今は僕たちだけだ。正直に言ってくれていい——君は、僕が犯人だと思うかい?
リネ:
ありがとう…信じてくれて。本当に感謝するよ。
リネ:
周りから見れば、僕は第一容疑者なんだろうけど、僕からすればこの一件は謎だらけだ。解せないことばかり残ってる…
リネ:
舞台上の不測の事態が単なる事故だったのかどうかも分からないし、コーウェルがどうしてあそこにいたのかも分からない。
リネ:
それと、選ばれた少女がなぜ突然行方不明になったのかも。誰かが細工をしたとしたら、一体どんな手段を使ったんだろう。
リネ:
このトリックをよく理解している人でも、一分以内にそんな細工をするのはどうしたって不可能なはず。
パイモン:
ふふん、それこそ調査の価値があるぜ。本にも書いてあったぞ、「不可能なことは起こりえない、起こったなら必ず可能性はある」ってな。
旅人:
そのメガネはどこから出て来たの?
パイモン:
街で本を読んでた時、カッコイイなと思ってついでに買ったんだ!
パイモン:
あ、モラはオイラがコツコツ節約してた分で、旅費をこっそり使ったりはしてないぜ。
リネット:
可愛い。
パイモン:
へへっ、よくわかってるじゃないか。
リネ:
ははっ…君の言うことも一理あるな。こうして落ち込んでないで、早くいつもの調子に戻らないとね。
リネ:
とは言っても、今は僕とリネットの一挙一動に警察隊が目を光らせていて、自分たちで容疑を晴らそうとするのは至難の業だ…
リネ:
君が僕の「代理人」になってくれて本当によかったよ、重ね重ねありがとう。今頼れるのは、君たちだけだ。
リネット:
よろしく。
パイモン:
おう、安心しろ!
パイモン:
あ、そうだ。調査の前に、一つ聞いていいか——リネがマジックをやってた間、リネットはどこに行ってたんだ?
リネ:
あれか。トリックの核心となる秘密に触れてしまうんだけど…
リネット:
秘密はもう守れないと思うよ、リネ。
リネ:
そうだな…これほどの大事件になってしまえば、マジックのタネもきっと証拠として審判に関わってくる。
リネ:
はぁ、残念だ…マジシャンにとって、マジックショーは一種の創作物だとも言える。僕たちは本当に多くの心血を注いできたんだ。
リネ:
でもこの秘密が事件の真相を見つけるのに役立つのなら…それもまた、相応の価値を発揮できたって言えるはずだ。
リネ:
トリックを解説するなら、ここを出ないと。僕たちは警察隊に話してくるから、君たちは舞台と客席のほうを先に調べててくれるかい?
パイモン:
おう、それじゃ行こう。ここにいる観客がみんな行ってしまう前にな——名探偵がついに動き出すぜ!
マジックショーの舞台で事件が起こり、選ばれた観客が行方不明になった。すべての疑いは、リネとリネットへと向けられた。だが、あなたはそれについて疑問をまだ抱いている…
警察隊員と会話する
パイモン:
えっと、おまわりさん、こんにちは。調査になにか進展はあったか?
旅人:
俺たちはリネとリネットの代理人。
エズモンド:
なるほど、あんたがフリーナ様の言ってた異郷の旅人だな。先に言っておくが、このトラブルに首を突っ込まないほうがいいぜ。
パイモン:
え?どういう意味だ?
エズモンド:
ついて来れば分かる。
エズモンド:
死者はコーウェル…リネのアシスタントの一人で、入団して間もなかったが、コツコツ頑張ってるってんで、みんな彼に対しては好印象を持っていた。
エズモンド:
アシスタントの仕事は、主に道具の設置や点検。それから舞台上でショーに協力したり、雰囲気を作ったりもする。
エズモンド:
水槽が突然墜落して、箱の中にいるコーウェルに当たってしまったとこは、客席にいたあんたらも見てたはずだ。
エズモンド:
そこが解せないところなんだ。調査は行われているものの、残念ながらあの少女の行方は未だに特定できていない。
エズモンド:
だがこれを見ろ。マジックボックスはちょうど水槽の真下にあり、ロープは花火に燃やされて切れちまってる。
エズモンド:
事故として見るには、あまりにも出来すぎている…
エズモンド:
だが、これが入念に計画された事件なら、この配置にも納得がいく。そしてリネこそが、このすべてを実現できる可能性の一番高い人物だ。
パイモン:
でも、あいつに動機なんかないぞ…
エズモンド:
あんたらはリネの親友か?
パイモン:
えっと、そこまでじゃないし…短い付き合いだけど。
エズモンド:
短い付き合いだけで、そこまでの信頼を得られ、さらに代理人まで喜んでやらせるとはな。
エズモンド:
この世に「魔術」なんてものが存在しないことは知っている。そして魔術師が一番得意なのは、人々を意のままに操ることだ。
エズモンド:
俺はおびただしい数の事件を見てきた。人というのは、すべての証拠の中で一番信頼に値しないものさ。
エズモンド:
すまない、俺はストレートに話しちまうタイプなんだ。善意で忠告していることだけ分かってくれりゃいい。
エズモンド:
もし気になるなら、事件現場を調べてみてもいいだろう。何か予想外の収穫を得られるかもしれんしな。
歌劇場内で事件の手がかりを探す
パイモン:
これが焼き切れちゃったせいで、水槽が落ちたんだろうな。
パイモン:
このロープ、見た目は丈夫そうなのに、花火で引火するなんて…
パイモン:
どうした?急に思い詰めたような顔して…
旅人:
ロープの切れたところを見てみよう。
パイモン:
あっ、ここの材質だけ…ちょっと違ってないか?
パイモン:
ほとんど燃え尽きてるけど、まだちょっとだけ残ってるぞ。
パイモン:
耐荷重ロープのはずなのに、こんなものがあるなんて…ってことは…
パイモン:
はいはい、オイラ!オイラがメモするぞ!
歌劇場内で事件の手がかりを探す
ケント:
調査チームのほうから新しい情報が入った。あの抽選機、やっぱり問題があった。
ボーン:
ほら、だから言ったでしょ?もし選ばれたのが男だったら、果たして犯人は予定通り動いてたか?って話ですよ。
パイモン:
邪魔して悪いけど、オイラたち、リネとリネットを手伝って事件の調査をしてるんだ。今の話、どういうことなんだ?
ケント:
彼らを手伝う?ふむ…それは難しいだろう。
ボーン:
公演の時、リネはランダムで幸運な観客を選び——その後、その少女が行方不明になったってことになるでしょう?
ボーン:
その時からすでに私たちはあの抽選機に問題があるんじゃないかと疑ってて、そのまま調べてみてたんです。
ケント:
ああ。そして結果、あれはランダムなんかではなく——どう押しても決まったものしか出ないと分かった。
ケント:
知っていると思うが、歌劇にしても審判にしても、事前に登録しなくちゃ席が取れないんだ。
ケント:
言い換えれば、誰がどこに座るかということを、リネは最初から把握していたはずだ。
パイモン:
確かに、オイラたちの席もリネが手配してくれたんだよな…
ケント:
私がなぜ難しいと言ったか、わけが分かっただろう。
旅人:
ありがとう、邪魔してごめん。
パイモン:
リネに不利なことだけど、一応メモしとこう。
歌劇場内で事件の手がかりを探す
パイモン:
こんにちは、なにについて調べてるんだ?
マーヴィス:
ああ、魔術団のメンバーはみんな重要な容疑者とされているから、ここも封鎖されて、警察隊が取調べを行っている最中なんだ。
マーヴィス:
ここの席は予約制だからね、予約リストから失踪した少女の身元を突き止められた。
マーヴィス:
機密情報じゃないから、別に構わないよ。これから、住民たちにも捜索に協力してもらえるよう、情報公開する予定だしね。
マーヴィス:
彼女の名はホールジー。フォンテーヌ人で、そこそこ有名な画家だ。
マーヴィス:
調べによると、彼女は創作のプレッシャーが溜まっていて、それでここにマジックショーを見に来たらしい。それと、ここの常連じゃない。
マーヴィス:
魔術団の人間はみんな彼女を知らないと言っている。彼女の人間関係についても調査済みで、容疑者との間に恨みや利害なんかのもつれはない。
マーヴィス:
まあ要するに、完全に無関係ってことさ。今までの「連続少女失踪事件」とまったく同じだよ。
パイモン:
これまでの事件も、ターゲットはランダムに選ばれてたのか?
マーヴィス:
少なくとも俺たちから見ればそうだね。年齢の近い若い女性っていう身元の情報を除けば、何の関連もなかった。
パイモン:
うぅ、なるほどな。
旅人:
教えてくれてありがとう。
マーヴィス:
気にしないでくれ。もしこの後、あの女性を見つけることがあれば、必ず俺たちに連絡を入れてくれよ。
マーヴィス:
「連続少女失踪事件」の解決は、かなりの重要事項だからな。
歌劇場内で事件の手がかりを探す
エゼルレッド:
あなたたち、この近くを調べてるだろ?私もちょうど興味があってね。
エゼルレッド:
もし何か目新しい情報があれば、お互い情報交換できる。そう思わないかい?
パイモン:
うーん、こっちは今のところまだ目処が立ってないんだけど…
エゼルレッド:
へへっ、だったらまずは私の推論を聞いてみないか。私が思うに、すべての起因はあの鈍い音だと思う。
パイモン:
鈍い音?あ!カウントダウンの時に聞こえてきた物音のことだよな?
エゼルレッド:
そう。大きな音じゃなかったけど、多くの人に聞こえてたはずだ。
エゼルレッド:
ただ、みんなリネのマジックを心待ちにしていたから、気にも留めなかっただろう。しかし、事件となると…あれも重要な手がかりになるというわけだ。
パイモン:
一理あるな。で、おまえはどう考えてるんだ?
エゼルレッド:
そうだな、リネの共犯者によるものかもしれないと考えているよ。例えば、リネットが水槽の上にジャンプした音、とかね。
エゼルレッド:
そして花火が爆発した瞬間を利用してナイフでロープを切り、水槽を落としたんだ!
パイモン:
ジャンプした音にしちゃ、大きすぎなかったか?
エゼルレッド:
さあな、バランスを崩して、激しく転んでしまったんじゃないか?
旅人:
だったら、水槽が揺れたはず。
エゼルレッド:
う…確かにな。他の可能性も考えてみるよ…
パイモン:
でも、おかげでオイラたちも思い出したぜ。あの物音は一体なんだったんだろうな。
歌劇場内で事件の手がかりを探す
辺りを調査していたところ、急に見知らぬ人に呼び止められた…
???:
そこの!そう、あんた!正しくは「あんたたち」か。ちょっと来て。ずっとあんたたちのことを観察してたの!
パイモン:
え?お、オイラたちか?
???:
そうよ、あんたたちも茨の道を越えて真実を追求したいんでしょ?しかもその格好、フォンテーヌの人間じゃないね。
パイモン:
それはそうだけど、おまえらは誰だ?
???:
ふふふっ、「棘薔薇の会」の名は知ってるでしょ。
???:
紛争の仲裁、保護の提供、難題の解決…どんなこともそつなくこなす、何でもござれの民間組織——「棘薔薇の会」!
ナヴィア:
そしてあたしこそ、名高き「棘薔薇の会」の現会長、ナヴィア。
ナヴィア:
でもまあ、うちのルールじゃ、あたしのことはボスって呼んでもらってるけど。
シルヴァ:
侍従のシルヴァだ、よろしく頼む。
マルシラック:
私はマルシラック、お会いできて光栄です。普段はお嬢様の身の回りを、責任を持ってお世話いたしております。
パイモン:
あれ?ボスだったり、お嬢様だったり、どういうことだ?
ナヴィア:
コホンッ、実はあたし、二代目の会長なんだよね。マルシラックたちはまだ昔の呼び方が抜けないみたいだけど。
マルシラック:
申し訳ありません。もしお嬢様がボスという呼び方を好まれるようでしたら、今後はそう呼ばせていただきます。
ナヴィア:
いいのいいの。あんたたちも、あたしのことはボスじゃなくてナヴィアって呼んでいいよ。
パイモン:
おお、わかったぜ…って、違う!オイラたちは元々「棘薔薇の会」の人間じゃないだろ!
ナヴィア:
はははっ、細かいところは気にしないで。それより、この事件について話しましょ?
旅人:
君も調査したいの?
ナヴィア:
まあね。パパの昔のことで、ずっと「連続少女失踪事件」には注目してるの。
ナヴィア:
現状からみれば、リネは黒幕なんかじゃないと思う。
パイモン:
え?ホントか!オイラたちも同じ考えで、今は必死に手がかりを探してるところだぞ!
パイモン:
ちなみに、おまえはどうしてそう思ったんだ?
ナヴィア:
もちろん、あたしの鋭くてよく当たる勘よ!
旅人:
えっと…
ナヴィア:
フリーナ様ってば、いきなりリネに矛先を向けたけど、決定的な証拠なんてまったくなかったじゃない。
ナヴィア:
彼女はいつもあんな感じ。大審判官が彼女の話を遮って、「告発」するかどうかを聞いたでしょ?あれ以上調子に乗って不謹慎な発言をしないようにってことなの。
ナヴィア:
「告発」したら、「審判」のプロセスが始まることになる。その雰囲気の中じゃ、フリーナ様は絶対に退かないでしょ。
パイモン:
おまえが水神を信用してないだけのように聞こえるけどな。
ナヴィア:
じゃあ、あんたはどう思う?たしかにあの水神は面白い。でも、彼女が好きだからって盲目的に支持するわけにもいかないでしょ?
旅人:
そう言われたら、確かに…
ナヴィア:
さてと、あんたたちの質問には答えた。次はあたしの質問に答えてもらうよ。
パイモン:
なんでだよ、今のもカウントされるのかよ?
ナヴィア:
知ったこっちゃないね。まあご心配なく、きっとあんたたちにとっても価値ある質問だから。
ナヴィア:
あんたたちは、「審判」を「歌劇」として楽しむ行為は、正しいと思う?
パイモン:
え?その、えっと…
旅人:
完全に正しいとは言えないかも。
ナヴィア:
理由は?
ナヴィア:
ははははっ、言ったでしょ?マルシラック、シルヴァ。この二人はただ者じゃないってさ!
マルシラック:
お嬢様のご判断は実に的確でしたね。こちらの旅人の回答は非常に優れていると思いますよ。
マルシラック:
人々がどんなに素晴らしい脚本を期待していても、ここで上演される審判の公演は、事実に基づいていなければなりません。
マルシラック:
もしそれが両立できていたなら、ボスも…
ナヴィア:
はいはい、話はそこまで。とにかく、あんたの答えは気に入った。あんたたち、合格よ!
ナヴィア:
あたしは少し準備するから、後で一緒に調査しましょ。そうね…あんたたちはあたしの助手ってことで。
パイモン:
おい、なんでいきなりそんなことになるんだよ!
ナヴィア:
ん?それじゃ、あたしがあんたたちの助手をやろうか?ははははっ。相棒でもなんでもいいよ、あたしは気にしないから。
パイモン:
ふん、そうこなくっちゃな。
マルシラック:
自慢話のように聞こえるかもしれませんが——お嬢様の直感はもしかすると、真相へと導く大きな力になるかもしれませんよ。
マルシラック:
あなた方はご友人が濡れ衣を着せられることを望んでおらず、私たちも失踪事件の真相を突き止めたいと思っている。この点において、私たちの目標は一致しているはずです。
パイモン:
確かに一理あるぜ。おじちゃん、口上手だな。
パイモン:
そっちの兄ちゃんはどう思う?ずっと黙ってるけど、なにか心配事でもあるのか?
シルヴァ:
異論はない。
パイモン:
そ、そうかよ。
ナヴィア:
それじゃ少し準備するから、後でマジックのタネを解説する時には、あたしたちを呼んでね。んじゃ、サンキュ!
歌劇場内で事件の手がかりを探す
トリスタ:
すみませんが、現在歌劇場は自由に出入りできなくなっています。退場の際は、まず身分登録をお済ませください。
パイモン:
あ、いや、オイラたちはリネとリネットの代理人で、事件の調査をしてるんだ。
パイモン:
おまえはずっとここで見張ってたのか?
トリスタ:
ええ、最高審判官様からの命令が下されてから、ここに出入りするすべての人が厳しい検査を受けることになりました。
トリスタ:
少なくともそれ以降は、行方不明の少女がここから出ることはまず不可能だったでしょう。
旅人:
公演の時は?
トリスタ:
それもできなかったはずです。
パイモン:
なんでそう言い切れるんだ?
トリスタ:
あの時、私は入り口付近の警備をしていましたので。
トリスタ:
ここからではリネのマジックをなかなか見れなくて、実に残念です…運が悪いので仕方ありません…
トリスタ:
でも、私は勝手に持ち場を離れたりせず、歓声がどれほど大きくても、ずっとここにつっ立っていました。誰かがここを出るどころか、扉に近づいただけで、私はそれを感じられます。
トリスタ:
メリュジーヌはこういうことに長けていますから。
パイモン:
つまり、少女はここから離れてないってことか…
パイモン:
よし、わかった。ありがとな、すっごく価値のある手がかりだったぜ!
リネの進捗を聞く
モリー:
分かりました。私が同行しましょう。監視役のほか、諸々の記録もさせてもらいます。
リネ:
うん——ありがとう、話を聞いてくれて。できたらバラの一輪でも出して、君にあげたいくらいだよ。
モリー:
建前は結構。こちらも責務ですので。
リネット:
あなたたち、来たのね。ん?隣にいるのは?
ナヴィア:
「棘薔薇の会」のエンジェル、ピストルの弾丸よりも強力な助っ人——
ナヴィア:
はははっ、ごめんごめん。あたしはナヴィアで、この人たちの相棒よ。この件が気になって、ちょっと首を突っ込ませてもらおうと思ってね。
ナヴィア:
彼らはあたしの仲間だけど、参加させてもいいよね?
リネット:
私は構わないけど…
リネ:
へえ、新たな助っ人まで来てくれるなんて、本当に大感激だ。
ナヴィア:
興味本位って言ったほうがいいかもよ。何しろこれほど大規模なマジックのタネを直に見られるなんて滅多にあることじゃないし…
リネ:
ふふっ、僕を認めてくれてありがとう。じゃあ行こうか、下へ。
パイモン:
下?
リネ:
このマジックボックスの下には、交換マジックのために用意した秘密の世界が隠されている。
リネ:
ただ、僕から種明かしをする前に、まず自分で確認してみてよ——怪しいことに気付けるかな?
リネ:
別にもったいぶってるわけじゃないよ。マジックの詳細を思い出してくれれば、トリックは簡単に理解できるはずさ。
リネはマジックボックスの扉を開けた…
ナヴィア:
あれ?ここって風船と飾りがあったはずよね?なんで消えたんだろう?
リネ:
その調子。まあ、真相まではまだ遠いけど。
旅人:
扉の向こう…何か違った。
パイモン:
ん?扉の向こうって、内側のことか?うぅ、どこが違うんだ?オイラ、全然思い出せないぞ…
リネ:
ふふっ、すごいね。最前列に座ってたから、よく見えなかったんじゃないかと思ったけど。
リネ:
ショーの時、ここの内側には模様が入ってたけど、今はその模様が消えて、なめらかな板になってる。
リネ:
この二つのことから考えて…何か思いつくことはある?
リネ:
はははっ、大正解だ。さあ行こう、降りてから詳しく説明するよ。
パイモン:
へぇ、マジックボックスの下に地下道があったのか!
旅人:
二つの箱はこの地下道で繋がってた。
リネ:
ははっ、この空間を見れば、答えはもう半分以上分かったと思うけど。
リネ:
二つのマジックボックスは、ちょうど地下道の両端の入り口の上にあったのさ。
リネ:
このトロッコに気づいたかい?
リネ:
幸運な観客の入った箱は、このトロッコに乗せられて向こうに送られる。
リネット:
トロッコには昇降機能もあるし、プレートを回転させて、箱の向きを正すために調整することもできる。
ナヴィア:
分かった、それが二重箱の役割でしょ!
リネ:
その通り、内側の箱は観客が入ってから下に降り、トロッコに乗せて移動する。外側の箱は舞台の上に残っていて、何の変わりもない。
パイモン:
なるほど、そういうことだったのか!
リネ:
箱を降ろしたら、トロッコはここの装置からエネルギーを補給するんだ。残りのステップを完成させるためにね。
リネ:
観客にとっては、暗闇の中をゆっくりと移動しているようにしか感じられず、外に出た時には、すでに舞台の上に立っているというわけさ。
旅人:
君のほうはどうなってたの?
パイモン:
そうだぞ、おまえはずっと喋ってたし、最後は一回外に出たよな?
リネ:
それはもちろん、蓄音装置を使ったのさ。リネットが操作してくれるんだ。
リネ:
僕とアシスタントは先に会話の内容を決めて、カウントダウンが始まる頃には、僕はもう地下道に跳び下りて向こうの箱に移動し始めてたんだよ。あの梯子を使ってね。
ナヴィア:
リネットは?あの時どこにいた?
リネット:
私は箱の後ろの仕切りにいた。
パイモン:
あ、なるほど!
リネット:
それでアシスタントの台詞に合わせられた。ちなみに、最後に箱から出てきたのも私。
リネ:
双子だからね、服を変えれば気付かれないよ、へへっ。
リネ:
僕の一番誇れるところさ。これは僕とリネットにしかできないマジックなんだ。
パイモン:
へ~、そっかそっか…なるほどな。あ…驚いてばっかりだな、オイラ…
旅人:
すごく工夫されてるマジックだったんだね。
リネ:
リネットは一旦箱から出てきて、また中に戻る。で、トロッコに乗った箱が上がってくる前に地下道へと跳び下りて、無事に脱出する。
リネ:
そして僕が観客席側の箱から出てきて、マジックが完成——…するはずだったんだけど。
リネ:
結局、箱の中にいたのはあの観客じゃなくてコーウェルで、さらに不可解なことに、観客も消えてしまった…
リネット:
まったく理解不能。
ナヴィア:
こんなことが起きなければ見事なマジックだったでしょうね。あたしにはこんなトリック、一生かけても思いつかないよ。
ナヴィア:
ましてや、このマジックを利用して罪を犯す人がいるなんてね…
ナヴィア:
少し見て回ってもいいかな?もっと手がかりが見つかると思うんだけど。
モリー:
ここは重要な事件現場ですので、リネとリネットがここに留まることは出来ません。二人は連れて行きますね。
リネ:
ああ、分かったよ。別にそんなにじっと見てなくたって、突然姿を消したりしないんだけどな。
リネット:
みんなありがとう、後はお願いね。
地下道で事件の手がかりを探す
ナヴィア:
これは何?
パイモン:
ロープにフックがついてるぞ。うぅ…ここって変なものがいっぱいあるよな。
旅人:
さっきリネはこのことに言及しなかった。
ナヴィア:
他のマジックに使う道具なのかもね…けど、どうしてここに落ちたのかしら?
パイモン:
さあな?とりあえずメモしとくぜ。
地下道で事件の手がかりを探す
マルシラック:
お足元が水で濡れておりますので、通る時には滑らないようお気をつけください。
ナヴィア:
たしかに。どうしてこんなところに水なんてあるのかしら?
旅人:
マジック用の道具かも。
パイモン:
おお、オイラ知ってるぞ!あれだろあれ、瓶に水を入れて…ひっくり返すと、水が消えてしまうってやつだ。
パイモン:
この瓶が割れてるのは…ひょっとして、トロッコが通った時にぶつかったのか?
ナヴィア:
でも変じゃない?トロッコはずっとレール上を走ってたはずだから、この距離じゃぶつからないはずだけど。
パイモン:
うーん、とりあえずメモしとこう。後でまとめて考えようぜ。
地下道で事件の手がかりを探す
ナヴィア:
これ、選ばれた娘が着てた服でしょ?
ナヴィア:
服だけ残されて、人が消えちゃったなんて…
旅人:
リネは着替えさせるなんて言ってなかった。
パイモン:
そうだよな。第一、誘拐するのに脱がせてから連れ出す必要なんてあるか?
パイモン:
うぅ、もう探偵なんかやめたい…まったくわからないぞ…
地下道で事件の手がかりを探す
パイモン:
ここはなんだ?
旅人:
通気口みたい。
シルヴァ:
人が通れる。
ナヴィア:
ふーん?まさか犯人はここから逃げ出したってこと?
マルシラック:
一人なら問題ないかもしれませんが、誰かを連れて行くとなると…狭すぎるでしょう。
パイモン:
でも、他の出入口なんてないだろ?
パイモン:
確かにな!うーん、とりあえずメモだ…
ナヴィアと会話する
ナヴィア:
これで、現場の状況はほぼ確認済みね。
ナヴィア:
マルシラックが戻ったら、場所を見つけて手がかりを整理しましょ。辻褄の合わないところが沢山あったから。
マルシラック:
お待たせしました、お嬢様。
ナヴィア:
警察隊の人は何て?犯人は通気口から逃げたの?
マルシラック:
その可能性はかなり低いと考えているようです。通気口は歌劇場の地下室と繋がっているそうですから。
マルシラック:
警察隊員が入念に確認したところ、公演中も事故の後も、地下室から出て行った人はおらず、そこに隠れている人もいなかったそうです。
パイモン:
ってことは、地下道はいわゆる「密室」だったってことか?おまえらも知ってるだろうけど、小説じゃよくあるパターンだぞ。
旅人:
確かにそうかも…
ナヴィア:
でも、それじゃ尚更おかしいね。ホールジーの失踪も、コーウェルの死も、どっちも訳が分からない。
ナヴィア:
道理でフリーナ様はあんなに自信に満ち溢れてたわけね。今のところ、手がかりはみんなリネとリネットを指してるみたい。
マルシラック:
はい。言い換えれば、このまま足踏みし続けていると、「告発」が成立してしまう可能性が非常に高い。
パイモン:
告発…審判…もし告発が成立したら、判決が出るのか?
ナヴィア:
それが歌劇場審判の流れよ。裁判期間中、最高審判官と「諭示機」は双方の発言に耳を傾ける。
旅人:
「諭示機」も?
ナヴィア:
うん、「律償混合エネルギー」はその過程で生まれるんだもん。
ナヴィア:
双方の発言、代理人の弁護、証人の証言、それと観衆たちの感情も含めて、すべてが「諭示機」に表現される。
ナヴィア:
えっと…「諭示機」は、分かりやすく言うと自意識を持った一人の審判官みたいなものってことよ。
マルシラック:
このおかげで、最高審判官様が私利私欲で不正を働く可能性も回避できます。無論、実際にそういったことは一度も起こっておりませんが。
旅人:
本当に不思議だね。
ナヴィア:
双方の発言が終われば、最高審判官が最終的な判決を下す。その意見も「諭示機」は参考にするの。
ナヴィア:
そして最後、役人が「諭示機」に尋ね、そこで導き出された結果こそが、「正義」の意志よ。
パイモン:
最終的に決めるのはあのデカブツだったのか?オイラ、てっきりヌヴィレットだと思ってたぞ。
マルシラック:
実際、大きな違いはありません。双方の判決はいつも完全に一致しておりますから、フォンテーヌの人々は最高審判官様のことをとても信頼しています。
マルシラック:
それから、警察隊からもう一つ。私たちは全員、審判が始まるまでここを離れられないとのことです。
パイモン:
え?なんでだよ!
マルシラック:
私たちはリネ様とリネット様の代理人として行動することを決めましたから、当然事件の関係者にもなったわけです。
ナヴィア:
あたしたちが外の者と通じて示し合わせたり、局面を打開する助っ人を呼びに行ったりするのが心配なんでしょ…
ナヴィア:
仮にそうでなかったとしても、あたしたちが事件の重要な手がかりを先に流してしまうのは、やつらにとって面倒なことだしね。
シルヴァ:
ドアを破壊して出るなら、もう準備はできている。
パイモン:
おいおい、そこまで深刻な状況じゃないだろ!警察隊の考えにも一理あると思うけど、本当にそうなんだったら…ご飯はちゃんと出るよな?
マルシラック:
もちろんです。ただし、選択肢は限られていて、一人一人の好みには合わせてくれませんし、栄養バランスも保証できません。
旅人:
わがままを言ってる場合じゃない。
ナヴィア:
だったら、このままここで手がかりを整理しましょ。ホントはフォンテーヌ廷で一番有名なスイーツショップに招待しようと思ってたんだけど。
ナヴィア:
糖分とお茶があってこそ、落ち着いて優雅に推理できるからね——そうでしょ?
パイモン:
オイラ今、ドアを破壊して出るのもいいかもって思った…
旅人:
パイモン。
パイモン:
うぅ、冗談だよ、冗談!スイーツがなくてもちゃんとやるって。サボったりしないぞ!
ナヴィア:
ん、何言ってるの?スイーツならあるから大丈夫。お店に食べに行けないなら、自分で作っちゃえばいいでしょ?
パイモン:
え?ここで?どうやるんだ?
マルシラック:
かしこまりました、お嬢様。それでは皆さん、私についてきてください。
パイモン:
なんで調理器具を持ち歩いてるんだよ!
マルシラック:
いつでもお嬢様にお菓子作りの趣味を楽しんでいただけるよう、常に準備は万全に整えております。
シルヴァ:
たまご、砂糖、アーモンド、全部あります。
ナヴィア:
はははっ、さすがあんたたちだね。それじゃ今作るから、ちょっと待ってて。あたし自慢のデザート作りの腕、ぜひ味わってちょうだい。
パイモン:
この三人、おかしいぞ…
旅人:
「棘薔薇の会」の特徴かも。
ナヴィアの手つきは慣れたもので…しばらくすると、食欲をそそる香ばしくてサクサクのマカロンが出来上がった。
パイモン:
わぁ、いい匂いだぞ!焼いてる時からいい香りがしてて、オイラ、一生懸命我慢してたんだ!
パイモン:
でも二人に沢山荷物を持たせたみたいに、お菓子を焼く時もこいつらをこき使うのかと思ったけど…
パイモン:
まさか、卵白を泡立てたりアーモンドパウダー作りをしたりするとこまで、全部おまえ一人で完成させるなんてな。
シルヴァ:
私は拍手していた。
マルシラック:
私も微笑みでお嬢様を励ましておりましたよ。
旅人:
そういうことを言ってるんじゃないと思う…
パイモン:
きれいな服を着てるお嬢様なのに、卵白を泡立てたりして…汚れるのが嫌じゃないのか?
ナヴィア:
はははっ、お嬢様が本を読んだりお茶を嗜んだり、馬に乗ったり琴を弾いたりすることしかできないなんて、誰が決めたの?あたしはただ、デザートを作るのが好きなだけ。
ナヴィア:
卵白の泡立てを舐めないでよ、結構腕力が鍛えられるんだから。それに焼きたてのマカロンが割れちゃわないように、泡立てるときは程よく力を抜くのも大事なの。
ナヴィア:
ほらほら食べてみて、焼きたてほかほかのマカロンよ。一人三個あるからね。
パイモン:
え?三個だけかよ?
ナヴィア:
うん、甘いものを食べ過ぎてもよくないからね。頭がクラクラして、事件のことに集中できなくなるでしょ。
マルシラック:
紅茶のご用意もできました——お嬢様の一番お好きなお茶ですよ。濃密な花の香りが気分をよくし、清々しい心持ちにさせてくれます。
マルシラック:
お構いなく、やるべきことをやったまでです。
ナヴィア:
さてと、本題に入りましょ。さっき話に出た通り、地下道は密室のような環境だった。
ナヴィア:
だけど、このほぼ閉ざされた環境の中に、リネとリネット以外の容疑者はまだ存在しない。
ナヴィア:
ただ、犯行の可能性はあっても、二人にはまったく動機がない。
パイモン:
そうだぞ、よりによって一番目立つタイミングを選ぶなんて、どう考えてもおかしいぜ。
ナヴィア:
地下道の花瓶、そして公演中に聞こえたあの鈍い物音…もしホールジーが地下道で犯人と揉めてたんだとしたら…?
ナヴィア:
その結果、花瓶は割れ、服は投げ捨てられ、彼女は攫われてしまった…
ナヴィア:
もしかして、少女が人前で選ばれたから、犯人は服を脱がせないとすぐ見つかってしまうって思ったのかしら?
パイモン:
筋は通ってるけど、一番肝心なのはやっぱり…
旅人:
「第三者」は存在しない。
ナヴィア:
だね…あたしたちが見つけた手がかりはどれも、「第三者」がいるって仮説の裏付けにはならなさそう。
ナヴィア:
でも、それじゃ残されたのは、行方不明のホールジーと死者のコーウェル。どっちも今のところ被害者なんだけど…
パイモン:
ま、まさか…ホールジーはコーウェルを殺そうとしてて、こっそり道具に細工して、一人で逃げたんじゃないか?
旅人:
マジックの秘密を彼女は知る由もない。
ナヴィア:
そうよ。仮に道具に細工できたとしても、マジックの全貌を知ってないと、何をすべきか分からなかったはず。
ナヴィア:
それに彼女には動機がない。警察隊の人も言ってたでしょ、ホールジーは魔術団の人と繫がりがないって。
パイモン:
うぅ、オイラたち、なにか見落としちゃったのかな…
パイモン:
今の流れだと、本当にあり得ない事件になっちゃったぞ。
パイモン:
はぁ…それにしてもナヴィアの焼いたマカロン、本当にうまいよな。香ばしくて、サクサクで、すっごく甘いぞ。
ナヴィア:
ふふふっ、当たり前でしょ?これはあたしの十八番だもん。でも、あんたったらもう五個も食べてるよ。
パイモン:
え?五個?いやいや、三個だぞ!オイラ、ちゃんと数えてたんだからな。
マルシラック:
お気になさらず、食べてしまったものは仕方ありません。私もいい年ですから、甘いものは控えたほうがいいでしょう。
パイモン:
いやいや、食いしん坊かどうかと、どれくらい食べたかは、まったく別の話だぞ!
パイモン:
多く食べちゃったら、他の人の分が減るってことくらい、オイラにもわかる。
パイモン:
おまえまで、オイラを信じてくれないのか!?くっ…そ、そんな!
パイモン:
誓ってやる、もしオイラがマカロンを二個多く食べてたら、今すぐオイラのお腹の中で石になるぞ!
ナヴィア:
はははっ、いいって、分かったから。会話に夢中になるあまり、誰かがうっかり食べ過ぎたのかもね。大したことじゃない。
ナヴィア:
マルシラック、鍋をセットして、オーブンの用意をして!
パイモン:
え?なにをする気だ?
ナヴィア:
みんなマカロン三個はぜったい食べなきゃだめ!
旅人:
いや、大丈夫だよ。
パイモン:
そうだぞ、面倒だし。
マルシラック:
かしこまりました、お嬢様。今すぐ用意いたします。
シルヴァ:
たまご、砂糖、アーモンド、全部あります。
パイモン:
えーっと…本当におまえの趣味なんだな…
ナヴィアは二個のマカロンのために、最初から作り直した。
しかし結局、その後の議論では、何の収穫も得られなかった…
ナヴィア:
よし、スイーツタイム終了。あたしはもう一回周りを回ってみるよ。
ナヴィア:
今のところ解決の糸口は見当たらないけど、時間はまだ残ってる。代理人なんだし、あんたたちもとりあえず事件を推理してみるといいと思うわ。
ナヴィア:
舞台に上がった時に何も言えなかったら、気まずいでしょ?
パイモン:
おお、わかった。手伝ってくれてありがとうな!それに美味しいものまでご馳走してくれて。
ナヴィア:
いいのいいの、「棘薔薇の会」にとっては、こんなのなんてことないよ。マルシラック、シルヴァ、行くよ。
ナヴィア:
新しい発見があったら、また戻ってくるから!
審判に参加する
パイモン:
どうしよう…やっぱり全然わからなかったぞ。
パイモン:
うん、それもそうだな。この世にあり得ない事件なんてないはずだ。
ナヴィア:
そう緊張しないで。たとえみんながリネとリネットを疑ってても、あたしたちは観客席で彼らを応援してるから。
ナヴィア:
あたしらでさえ理解できてないんだし、フリーナ様が完全に理解できたとは思えないもんね、ははっ。
パイモン:
ありがとな、ナヴィア。それじゃ、行ってくるぜ。
ナヴィア:
うん、幸運を祈ってるよ。
リネ:
あ、やっと君たちに会えた。どう?調査のほうは順調?
パイモン:
う…実を言うと、がっかりさせちゃうかも…
リネット:
いいえ…手伝ってくれたこと、すごく感謝してる。
フリーナ:
キミたちのその落ち込んだ様はなんだい!調査には何の収穫もなかった、そうだろう…?
フリーナ:
まあ、当たり前とも言える。罪ある者から無罪の証拠を見つけ出すことなど不可能だからな。
フリーナ:
だが、ここで止まってくれるなよ。キミは僕が一番相手に相応しいと見込んだ者だ。あっさり降参されてしまっては、がっかりだからね。
旅人:
あとで分かるさ。
ヌヴィレット:
双方が揃った。これより、マジックショーで起きた突発事件に関する「審判」を始める。
ヌヴィレット:
ではまず、この場にいる観客が事件の経緯を理解できるよう、被告人リネにマジックのタネについて解説してもらう。
リネ:
はい、僕が説明し、リネットは舞台で実演してくれます。道具も用意できました。
リネは簡潔にマジックのタネを明らかにした。観衆は驚くばかりだった。
ヌヴィレット:
では被告人、君の証言を整理してみよう…
ヌヴィレット:
マジックが始まった時、君は観客席側のマジックボックスに入って隠れていた——故に犯行を実行できるはずがない。この理解に間違いはないかね?
リネ:
はい、大審判官。
ヌヴィレット:
それではフリーナ殿、原告側としてこれに対する反論はあるか?
フリーナ:
ああ、当然だろう?最初の火は僕が付けてやろう——リネ君、キミは嘘をついている!
フリーナ:
キミはホールジーを攫い、コーウェルを殺害しようとしたのだから、長い間地下道や箱の中になんぞいられたわけがない。
リネ:
それはあなたが僕を有罪だと判断したことに基づいて推測したに過ぎません。
フリーナ:
そう?じゃあ、キミは箱の中にいた時、何か聞こえたか?
リネ:
もちろん、耳をつんざくようなカウントダウンの声です。それで時間を把握して、サプライズを生み出すわけですから。
フリーナ:
その他は?印象的な物音とか。
リネ:
ありません。
フリーナ:
しかし、カウントダウンが30秒台に入った頃、会場には鈍い物音が響き渡った。誰もが聞こえていたはずだと思うけどね。
リネ:
……!
パイモン:
おい、なんかおかしいぞ…
旅人:
(どうしてリネは知らないんだろう?)
困惑する観客:
確かに、あんな大きな音、箱にいたなら絶対聞こえたはずなのに。
疑う観客:
あの時、俺は箱の近くの席で…はっきり聞こえたけどな。
「諭示機」の天秤が「リネの有罪」側へと傾いた。
パイモン:
あの天秤、まさか…
旅人:
「諭示機」のスタンスを表してるのかも。
フリーナ:
諸君、マジシャン本人の言葉を借りようか——「瞬きのタイミングは、慎重に選ぶこと」ってね。全員見ただろう?今のが正に、アリバイの崩れた瞬間だ!
フリーナ:
もちろん、キミのアリバイを崩すだけでなく、別の武器も用意してある。僕はとっくに準備万全だよ、世の中には根拠のない自信というものは存在しないのさ。
フリーナ:
キミとリネット君は——「壁炉の家」の人間だろう?
パイモン:
「壁炉の家」だって!?
旅人:
二人は…ファデュイだったの!?
肯定する観客:
道理でそんなことを。
落ち着いている観客:
「連続少女失踪事件」はファデュイの仕業だったのか…何か、一番納得の答えだな。
理性を保っている観客:
じゃあ…舞台上の予期せぬことも、事故とは限らねぇな。
リネ:
…一体何の関係が?僕とリネットの身分は、この件とは無関係のはずだ。
フリーナ:
確かにね?だったら、皆の前であの一分間の出来事を、思う存分最初から最後まで説明するがいい。
フリーナ:
今のキミにとっては、疑いを晴らすのが最優先だ。言えないことなんてないはず…まあ、「脚本」がすでに矛盾しているなら話は別だけどね。
フリーナ:
(異郷の旅人は何も言わなかったが、とても驚いていたように見えた…ハハハッ、次は仲間割れかな?楽勝すぎるね!)
フリーナ:
(ふっ…こんな尋問に緊張して一晩中眠れずにいたなんて、まったく損したよ、やれやれ。)
リネ:
……
パイモン:
おい、リネ、なんでそういうことを教えてくれなかったんだよ!
旅人:
(リネとリネットは、ファデュイ…)
ヌヴィレット:
静粛に。被告人リネ、フリーナ殿が上げた二つの観点について、改めて確かめさせてもらう。
ヌヴィレット:
歌劇場で鈍い音が聞こえた時、君は箱や地下道にはいなかった。そして、君と君の妹が「壁炉の家」の者であること。
ヌヴィレット:
それは事実なのか?
リネ:
……
旅人:
(マジシャンの人を騙す能力は疑う余地もない。リネは身分を隠し、ここに至るまでのすべてを仕込んだ可能性が高い。)
旅人:
(それから、公子や「壁炉の家」の他のメンバーもフォンテーヌで動いてる。きっと何か企んでるはず。)
旅人:
(前にもファデュイには煮え湯を飲まされた。そして今…)
ヌヴィレット:
私の質問に答えたまえ、被告人。
リネ:
ごめん…
リネ:
はい、大審判官。すべてその通りです。
興奮する観客:
やっぱり!
楽観的な観客:
ここまで来たら、もう判決を下していいでしょ?ふふふっ。
パイモン:
どうしよう…
旅人:
ちょっといい?大審判官。
ヌヴィレット:
どうぞ。
ヌヴィレット:
では、君の主張は?
旅人:
休廷し、話し合う必要がある。
イライラしている観客:
そんな必要、ねぇんじゃねぇの?もう決まってんだし。
失望した観客:
弁護してくれる人まで騙すやつとなんか、これ以上話しても何も出てこないでしょ?
ヌヴィレット:
静粛に。
ヌヴィレット:
合理的な主張だ。これより休廷とし、一時間後、審判を再開する。
フリーナ:
そんな事実を知っても、なおリネ君の弁護を続けると言うのか…どうやら、僕のお相手の「プロ意識」は想像を絶するようだ。
フリーナ:
僕の愛しい観衆たちよ、勝利の喜びはもう少し心の奥に沈めておこうじゃないか。ハハハッ…!
リネを問いただす
休廷中、あなたたちはリネとリネットと一緒に、歌劇場の舞台裏まで来た。
リネ:
まさかあんなことまで水神様に掘り出されちゃうとはね…いやぁ、困っちゃったよ。
リネ:
…ごめんね、旅人、パイモン。
リネット:
ごめん。
パイモン:
もう、どこから突っ込めばいいかわからないぞ。はぁ、あれだけおまえらを信じてたのに!
パイモン:
調査する時、オイラたちの推理は全部、おまえらが犯人じゃないって前提の上に成り立ってたんだぞ!
パイモン:
ひどい話はしたくないけど…オイラ、ほんっとに怒ったからな!
リネ:
申し訳ない。君たちが怒ってるのは分かってるけど、それでも僕の説明を聞いて欲しい。
リネ:
君たちとファデュイの間には、これまでの旅で色んないざこざがあったって聞いてる。きっと名前を聞くだけで不快だろう。
リネ:
だけど、ファデュイという組織はとても大きいんだ。執行官の方々は個性豊かで、成し遂げたいこともそれぞれ全く違う。
リネット:
今、私たちは人を助けたいと思ってる。できるだけ多くの人を。
リネ:
そう。この国と、ここにいる人たちが直面するかもしれない災難に対して、僕たちは感情的な面では同じ立場のはずだ。
リネ:
だから、身分さえ明かさなければ、僕たちはとても良い友達になれるかもしれないと思った…
リネ:
君たちに対して「嘘」をつきたくなかったから、あえて「隠す」ことにしたんだ。
リネ:
真実は確かに重要だよ。でも、すべての真実をいつも明らかにしてしまえば、僕たちは多くの力を無駄に使うことになる。
旅人:
それが嘘じゃないって、誰が断言できる?
リネ:
そうだね、だから君に判断してもらおう。いやぁ…もしも僕が君だったら、僕もこのリネってやつは信用できないかもね。
リネ:
偶然の出会い、ファデュイという身分、その上マジシャンとして、人を欺く演出を披露するのが仕事だなんてね…
リネ:
——でも、それでも僕を信じてほしい。少なくとも今回の事件の犯人は僕じゃない。
リネット:
ごめん。でも、許してほしい。
パイモン:
そう言われてもな…
パイモン:
そうだ、まずはおまえの答えを聞いてからじゃないとな。オイラたちの信頼が欲しいなら、全部素直に吐くんだぞ。
リネ:
ああ、もちろん。何でも答えてあげる。
リネ:
——僕たちはずっと、「諭示裁定カーディナル」がどのように機能し、なぜ自意識を持てているのか、なぜすべての罪状を正確に判決できるのかを知りたかったんだ。
リネ:
その後調査をしていく中で、「諭示機」の下にそのコアが存在していることを知った。
リネ:
その時から僕とリネットは、交換ボックスのマジックを考案し始めたんだ。真の目的は、そのコアに近づくためだった。
パイモン:
それが一分間もとってた理由か?
リネ:
そうだよ。観客が60回のカウントダウンを終えるにはおよそ75秒かかる。そして僕が向こう側のボックスに入るのには15秒あればいい。
リネ:
だから、地下道に跳び下りた後は、通気口から歌劇場の地下に向かい、コアのある部屋で調査をしてた。
リネット:
その通気口は、このために地下道を作る時に掘られたの。
旅人:
で、何を知った?
リネ:
なんにも。部屋に着いて調査を始めようとしたら、突然人の声が聞こえたんだ…
リネ:
あまりにもおかしい——当時その部屋にいるのは、確かに僕一人だったはずなんだ。他の人が現れるなんてあり得ない。
リネ:
その声は僕のことを知っているようで、僕に話しかけようとした。慎重を期して僕は調査を諦め、すぐに元のルートを辿って戻ったんだ。
リネ:
そして戻る時に、割れた花瓶と落ちた服を見た。でも、残り時間は少なかったから、よく考えている暇はなかった。
リネ:
その後はご覧の通り…殺人事件が起こったわけだ。
パイモン:
確かにそれなら、あの鈍い音が聞こえなくて当然だよな…
旅人:
「諭示機」の原理を知ってどうするの?
リネ:
もちろん、予言のためさ。「予言の危機」に対応するために、僕たちはこの国のすべての秘密を知る必要がある。
リネット:
そうしないと、みんなを救う方法を知ることができないから。
リネ:
これがすべての真相だ。これ以上は何も隠していないって誓うよ。
リネ:
こんな風に、君からの信頼を失う状況に置かれることは、本当に僕の本意じゃないんだ。
リネ:
でもさっきも言った通り、あとは君が判断してくれていい。ファデュイへの不信感から離れたとしても、仕方ないさ。
パイモン:
おまえが決めてくれ。おまえがどう思おうと、オイラはおまえについていくぜ。
旅人:
真実を信じる。
リネ:
そうか、ありがとう。
リネット:
チャンスを与えてくれて、ありがとう。
パイモン:
よし、今の問題は、あの天秤がリネとリネットにとってかなり不利になってるってことだな…
パイモン:
これからの審判の過程で真実を見つけるには、なんとかして水神の告発に反論しないと。
旅人:
鍵となる証拠はもう見つけてる。
パイモン:
え?
旅人:
そろそろ裁判が再開するから戻ろう。
パイモン:
そ、そうだな…おまえの言ってること、オイラも把握できたぞ、多分…
審判を続ける
休廷が終わり、張り詰めた空気の中で審議は再開した。
ヌヴィレット:
双方、元の位置に戻ったようだな。それでは、審判を続ける。
ヌヴィレット:
休廷前、被告人リネはフリーナ殿が提出した新しい証拠をすべて事実だと認めた。ならば、フリーナ殿から事件の状況について述べてもらおう。
フリーナ:
長い間、待った甲斐があった。さあ諸君、よく聞きたまえ。
フリーナ:
今回は、リネ君の視点から事件全体を再現しよう。
フリーナ:
まず、観客のカウントダウンが始まった時、リネ君はすでに地下道にいた。
フリーナ:
トロッコが地下道を通る間に、彼は箱を開けてホールジーと取っ組み合いのケンカをし…あの鈍く重い音を立てた。
フリーナ:
リネ君は、その音が歌劇場全体にまで響き渡るほどだったことに気が付かなかった。だからさっきの尋問ではわざと、聞こえなかったと嘘をついたのさ。
フリーナ:
最後、リネ君は花瓶を使ってホールジーを気絶させ、彼女が誰かということが服装から周りにバレないように、上衣を脱がせた。
フリーナ:
しかしその時、コーウェルが異変に気づき、地下道に降りてきて…偶然リネ君の犯行を目撃してしまった。
フリーナ:
そこで、リネ君はまたコーウェルを気絶させ…彼を箱に入れた。
フリーナ:
その後、リネ君は気絶したホールジーを観客席側のマジックボックスを通して待機していた仲間に引き渡し、仕掛けを操作してコーウェルを事故死に装って殺害した。
フリーナ:
これこそが事件の全貌さ。
ヌヴィレット:
原告側が述べた状況説明に対し、被告人から反論はあるかね?
旅人:
(反論の鍵は、時系列順にリネが地下道で何を体験し、何を目撃したかってところにある…)
リネの供述と休廷前の反応を詳しく分析した。それを利用して「リネがホールジーを襲った」という仮説を論破できると考えた。
旅人:
(リネの話によると、地下に入った後は通気口を通って地下道を離れたから、少女と揉めようがなかった。)
「諭示機」のコアがある部屋の音に関して、リネから聞いた話を詳しく分析した。それを利用して「リネがホールジーをさらった」という仮説を論破できると考えた。
旅人:
(リネは「諭示機」のコアを保管する部屋に行った——それが真実のはずだ。)
「諭示機」のコアがある部屋から帰ってきたタイミングを詳しく分析した。それを利用して「リネがコーウェルを気絶させた」という仮説を論破できると考えた。
旅人:
(リネは地下道のトラブルに巻き込まれたわけじゃない。ただ戻った時に現場に残された痕跡を目撃しただけ。)
審判を続ける
パイモン:
名探偵パイモンから、言いたいことがあるぞ!
パイモン:
カウントダウンが始まった時、リネは確かに地下道に入ってた。
パイモン:
でも、こいつはすぐに通気口を通って歌劇場の地下室へ向かった。つまり、「諭示機」のコアが保管してある部屋だ。
パイモン:
着いた後、リネは誰もいないはずの部屋で話し声を聞いた。それで違和感を覚えたから、すぐ部屋から引き返すことに決めたんだ。
パイモン:
そんで、地下道に戻った時には、すでに犯行現場は出来上がってた。でもマジックを無事に成功させるために、リネは立ち止まってる暇はなかった。
パイモン:
そしてリネが地上に戻ったら…事故が起きた。これがリネ視点からの説明だ。以上、というわけでリネは無実だ!
パイモン:
わぁ、一気に全部説明できちゃったぞ!すごい、オイラすごくないか!
フリーナ:
要するに、キミたちはリネ君がまったく事情を知らなかったと主張してるのかい?
パイモン:
ああ、そうだぞ。
旅人:
それに、原告側の推理には穴があった。
フリーナ:
え?ぼ、僕の推理に?
パイモン:
もしコーウェルが地下道に入らなかったら?リネはいったい誰を殺すために仕掛けたって言うんだよ?
パイモン:
おまえの言う真実に従えば、リネはただ少女を誘拐し、新しい失踪事件を作るだけでよかったんだから、わざわざ舞台で殺人を犯す必要なんてないだろ?
同意する観客:
一理あるな…
ナヴィア:
そうそう、そう来なくっちゃ。ふふっ、さすがはあたしの相棒、形勢逆転だね。
フリーナ:
くぅ…ぼ、僕の推論を大胆に否定してくれたけど、自分のほうが正しいなんていう証拠はあるのかっ?
フリーナ:
覚えているが、それがどうした…彼がずっとマジックボックスの中にいたなら、その音が聞こえなかったはずがない…
フリーナ:
あ、つまり…
公演中の物音について、リネはそれを全然知らなかった。
パイモン:
そうだ!リネはマジックボックスにはいなかったし、地下道にさえいなかった。だからこそ、「公演中の物音」が聞こえなかったんだ。
パイモン:
つまり、事件が発生した時、リネはすでに通気口を通って地下室に着いてたってことだ。
パイモン:
ふふん、おまえがリネのアリバイを否定するために使った手がかりが、今またリネの有力なアリバイになったぞ!
ナヴィア:
でかした!
フリーナ:
チッ…そんな推理をするとは…
フリーナ:
ただ、だとしたら!この件がリネの仕業じゃないなら、一体誰が犯人だって言うんだ?
コーウェル、ホールジー、および潜在的な第三者の犯行の可能性を詳しく分析した。唯一犯行が可能なのはコーウェルだけだと考えた。
旅人:
犯人は…
パイモン:
え?嘘だろ?おまえ、本気かよ?
パイモン:
えっと…犯人は、今回の被害者——コーウェルだ!
フリーナ:
ほう?面白い。キミの推理を話してみるがいい。
旅人:
(これから俺がやるべきことは、事件の真相を導き出し、コーウェルが何をしたのか、いかにして犯人から被害者になったのかを考えること。)
容疑者であるコーウェルの視点から分析した。地下道の物音でトラブルがあったのは確かで、しかもその間リネの犯行は不可能だった…だが、それでも失踪したホールジーがどこに行ったのか、判断するすべはまだない。
旅人:
(この事件の犯人は、きっとリネのマジックのすべての秘密を知ってて、かつ簡単に道具に細工することができた人物。)
旅人:
(コーウェルがなぜ死んだのかはともかく、彼は完璧な犯行能力を備えていた。)
旅人:
(公演中の物音は、コーウェルとホールジーの諍いによるものだった可能性が高い。)
旅人:
(リネは一分間ほど地下道を離れていた。その時間があれば、コーウェルは観客席側のマジックボックスからホールジーを外に連れ出せた。)
旅人:
(でも、警察隊員の証言によると、その時は誰も入口から出入りしなかったから、運んだとしても出られなかったはず。)
旅人:
(それに第一、大勢の観客がいる中でマジックボックスからバレずに出るなんて不可能…)
パイモン:
どうした?やっぱわからないか?
旅人:
ホールジーはどこに行ったの…?
フリーナ:
フフッ…なるほど、虚勢を張ってるだけだな。自信満々かと思いきや、真相にはまだほど遠いようだね。
リネ:
落ち着こう、行き詰まったら、考え方を変えればいい。
リネ:
マジックと一緒さ。最終的に見えるものは、きっとマジシャンのトリックとはかけ離れているように見えるはずだよ。
リネット:
ホールジーを失踪させる方法が分かれば…
パイモン:
そうだな、それが分かれば話は早いんだけど。地下道の出入り口の三つは、どれもありえなさそうだよな…
パイモン:
マジックじゃあるまいし、生きた人間が、舞台上のリネットが水槽から消えたみたいにいなくなっちゃうわけないだろ?
旅人:
(まさか…水?)
フリーナ:
失礼だが、親愛なる諸君、観客たちが待ちくたびれていることに気付いていないのかい?この歌劇場で、場を白けさせることほど大きな罪はないよ。
ヌヴィレット:
被告人側に有益な発言ができないならば、次の段階へ移る。
旅人:
待って!
コーウェルの犯行計画と地下道での状況を再び分析した。今回はリネットが水から消えたマジックから発想を得て、地下道で割れていた花瓶と水について考えてみた…
パイモン:
おまえの言いたいこと、オイラにもわかったぞ。ホールジーが「誘拐」されたんじゃなく、「消え去った」なら…全部繋がるぞ!
パイモン:
あの水槽脱出のマジック——リネットがオイラたちの目の前で消えて、服だけを残したのとおんなじだ。
パイモン:
もし、人を水に変える方法があるなら…
フリーナ:
待った!ハハハッ、キミ…自分の言ってることがいかに馬鹿げてるか気付けるといいねぇ。
フリーナ:
人が水に変わる?そんなこと、あるわけがないだろう?あれはマジックだ、現実にあってたまるか!
フリーナ:
果たしてそんな必要があるのかね?そっちのリネ君は真相を一番よく知ってるはずだ…
フリーナ:
マジックなど、所詮は一種の目くらまし。しかし、事件の中のホールジーは正真正銘消えたんだ。同一に語れるわけがないだろう。
リネ:
いえ、それでも…僕は旅人の判断を信じます。
リネ:
真相は必ず存在する。不合理なところがすべてそこに集まれば、新たな発想が生まれるかもしれない。
リネ:
彼は死者だから、これまで僕たちは彼にあまり目を向けていなかった。
リネ:
しかし事件の解決に進展がない今、死者の手荷物を調べることくらい、難しいことではないはずです。
フリーナ:
はぁ…人は行き詰まると、拙劣な策しか思いつかなくなるものだね。こんな無意味な捜査の拡大など、時間稼ぎにしか思えないけど。
ヌヴィレット:
これは代理人の合理的な訴えであり、現段階で事件の結論が出そうにない以上、証拠を増やせることは審判の進展に有益であろう。
ヌヴィレット:
警察隊を休憩室に送り、死者コーウェルの手荷物を捜査させたまえ。
しばらくして、警察隊の人間が情報を持ち帰った。
エズモンド:
捜査は継続中だが——重要な進展があったため、この場にいる皆さんに共有します。
エズモンド:
コーウェルの荷物からは、液体の入った試験管が何本も見つかり…それぞれにはラベルが貼られていました。
エズモンド:
バッグにあったノートでは、これらの液体は「原始胎海の水」と書かれています。
ヌヴィレット:
「原始胎海の水」…
エズモンド:
ノートによれば、コーウェルはとある違法薬物の密売組織に所属していたようで、協力して計画を実行していた共犯者がいました。
エズモンド:
また、ノートには安全に使用するための注意事項が多く書かれており、「溶かす」というキーワードが何度も出てきます。
エズモンド:
ある試験管には、「エピクレシス歌劇場」と昨日の日付が書かれており、中身は使い果たした模様。
エズモンド:
ノートにはさらに、この溶解特性はフォンテーヌ人に対してのみ効果を発揮できると記載されています。恐らく、ホールジーは実験台に選ばれたんでしょう。
エズモンド:
従って俺たちは、リネ側が提出した推測には、それを裏付ける十分な証拠があると考えています。
驚く観客:
おいおい、人が水に溶かされるなんて、冗談だろ…?
驚く観客:
こんなばかげたことが、まさか本当だったの?
躊躇う観客:
おい、待てよ…例の予言を彷彿とさせるような気がするが…ただの偶然だよな?
ナヴィア:
人は水になれる。だから水槽の本当の目的は水たまりを隠すこと?コーウェルはあの少女に目をつけて…
ナヴィア:
待って…まさか!あんたたち、早くこっちに。
マルシラック:
お嬢様、お待ちください。「相棒」のことはどうなさいますか?
ナヴィア:
とにかく今はあたしについてきて、あたしの勘を信じて!
ヌヴィレット:
——静粛に。
ヌヴィレット:
すべての者にとって衝撃的な発見であったが、現時点ではこの手がかりの真偽を確認する術がない。
ヌヴィレット:
行方不明になったホールジーがまだ見つかっていない以上、当法廷ではこの手がかりの内容を暫定的に有効とみなす。
ヌヴィレット:
警察隊はこの手がかりに沿って調査を続けてくれ。
ヌヴィレット:
被告人リネ、君たちの推測は裏付けられた。話を続けたまえ。
リネ:
ええ——ありがとうございます、大審判官。
リネ:
この推測が成立して、無関係に見えていた多くの糸が繋がりました。
パイモン:
そうだな!例えば、ずっとハッキリしてなかったあのロープについてたフックのことも!
パイモン:
よく考えるんだ、コーウェルの手口はきっと「原始胎海の水」と関わってるはずだぞ。
分析した結果、犯人のコーウェルは「原始胎海の水」を使ってホールジーを溶かしたと考えた。彼はフック付きロープで風船を割って水を被らせ、ホールジーの溶けるタイミングをコントロールした。これらの仕掛けはマジックボックスの内側に隠されていた。
審判を続ける
パイモン:
再び名探偵パイモンの発言時間だぜ!
パイモン:
当初から立てていた計画の通り、コーウェルは水槽のロープと抽選機に細工して、今回のターゲットをロックした。
パイモン:
ホールジーの入ったマジックボックスが降りてくると、フックは徐々に引っ張られて、箱の上部にあった風船を突き破る。
パイモン:
上板に固定されていた風船は破裂し、風船の中の「原始胎海の水」が下にいたホールジーを溶かし、水にしてしまったんだ。
パイモン:
その後コーウェルは地下道に入って、花瓶を割って地下道の水が花瓶の水だと思われるよう細工し、残りの証拠は舞台上の水槽に隠した。
パイモン:
ところが、地下道でコーウェルは予想外の事態に遭遇し、証拠隠蔽のための水槽が原因で命を落とすことになる。
同意する観客:
一理あるな。
肯定する観客:
これでずっと疑問だった色んな証拠も繋がったね。
フリーナ:
(まずい、僕もヤツらの推理は理にかなってると思ってしまったぞ。まさか…本当に無実の者に濡れ衣を着せてしまったのか?は、恥ずかしすぎる…)
リネ:
どうやら今、解決していない唯一の問題は、当時コーウェルがどんな状況にあり…それがどう彼の死に繋がったかということのようですね。
リネ:
彼のノートによれば、彼には共犯者がいた。まさか、その共犯者と何か関係あるのでしょうか…
ヌヴィレット:
たった今、ある警察隊員から連絡が入った。新しく見つかった証拠を提供したいとのことだ。
ヌヴィレット:
舞台の真ん中に来てもらい、調査の状況を説明してもらおう。
ボーン:
大審判官、ありがとうございます。ついさっき、他の関係者の荷物を調べさせたところ…
ボーン:
リネのバッグの中から、コーウェルが持っていた「原始胎海の水」とまったく同じものを見つけました!
リネ:
ば、ばかな!?
リネット:
あり得ない。
フリーナ:
フフッ…なんと劇的なシーンだろうね。反撃に使うはずの弾丸が、かえって自分自身に致命傷を与えてしまうとは…
フリーナ:
さて、すべての疑問が解決したね?
フリーナ:
親愛なる民よ、忠実なる観客よ——この僕が、僕の推理によって…今回の事件に終止符を打ってあげよう。
フリーナ:
まず、リネ君は少女が溶かされることに一切関与する必要はないため、地下道に入ると通気口を使って去っていった。
フリーナ:
彼のアシスタントであるコーウェルは、その時点でマジック道具への細工を終えており、「原始胎海の水」を使ってホールジーを溶かした。
フリーナ:
しかし邪念を抱くリネ君は、引き返した時…この手柄を独り占めにしようと、自らの仲間をも片付けてしまうことにした。
フリーナ:
結果、リネ君はコーウェルを気絶させ、本来の痕跡を隠すための仕掛けでさえ、殺人の道具へと化したのさ。
フリーナ:
このような残酷で露骨な結論を出すのは実に心苦しいが…かの有名なファデュイは、きっとそれほど冷血で非情な組織なのだろう——
フリーナ:
ね、リネ君?
旅人:
(証拠はもう使い切った。説得力のある反論はできそうにない。)
旅人:
(もはや…ここまで?)
パイモン:
うぅ…思いつかない、思いつかないぞ。もう反論する方法はないんじゃないか…
パイモン:
そもそも、新しく出てきたあの原始胎海の水っていう証拠がイタすぎるだろ。なんで今になって、あんな証拠が出てくるんだ。おかしすぎるぞ…
フリーナ:
さて、この場にいる全員がその目で見た通り、僕の推理は完璧なものだ。
フリーナ:
おそらく、これで…「フィナーレ」となるだろう。
フリーナ:
それじゃ万人に崇敬される、そこの尊き最高審判官殿、ご覧の通り、もうすでに…
ナヴィア:
——みんな、ちょっと待って!あたしの話を聞いてちょうだい!
ヌヴィレット:
静粛に——お嬢さん、審判では秩序を守っていただきたい。
ナヴィア:
まあまあ、あたしが口を挟んだのには、それなりの理由があるんだから待ってよ。ほら、弁論ばっかり聞いててみんなも疲れたでしょ。マジックショーをもう一つ見てみたくない?
ナヴィア:
「消えた」少女を、もう一度目の前に出現させるマジックショーをね。じゃお願い、リネ。
戸惑う観客:
な、何を言ってるの?
リネ:
お嬢さん、がっかりさせるかもしれないけど、そういう奇跡を創り出すことは、いくら僕が魔術師でもできやしないよ。
ナヴィア:
ねぇ、大魔術師さん。マジックで最も重要なポイントは、人を惑わすことでしょ?人々の目に映るマジックはいつも真実を隠し、面白く、そして偽りの事象だけを見せる。
ナヴィア:
でも、みんなが「偽りの事象」を真実だと思った瞬間、その魔術もまた、人々の目には真実として映るんじゃない?
ナヴィア:
…そして、そんなマジックこそ…一番素晴らしく、今日の「フィナーレ」に相応しいと言えるでしょ?
ナヴィア:
さあ、リネにリネット、もう一度やってみて。安心して、「棘薔薇の会」は悩めるあんたたちのために、もう準備を整えてあるから。
ナヴィア:
あんたたちこそ、舞台のスポットライトを浴びるべき存在、魔術の創造者。最後のショーは、あんたたちが主演を務めないとね。
リネ:
分かったよ。
リネ:
(パチン——)
リネット:
ジャジャーン——
マジックボックスが開かれると、失踪したはずの少女が再び姿を現した。
???:
…え、えっと。あの、どーも。
驚く観客:
まさか、あれって失踪したホールジー?人が溶けるなんてやっぱり嘘だったってことか?
???:
先に言っておくけど、法廷で本当のことを証言したら、罪が軽くなるってその人から聞いて、それでここに来たの…
???:
さっきまでずっと、外で隠れながらこの裁判を傍聴してた。あたしが審判されるんじゃないかって、怖くて怖くて…
???:
だから、誰にもバレてないことを知ってホッとした。でも、気づいたらこの人に捕まってて…
ナヴィア:
ふふん、あたしたち三人のことを甘く見ないでちょうだい。
???:
どこから話したらいいか…はぁ、とにかく、ごめん。コーウェルを殺したのはあたしなの。
フリーナ:
は?何?どうして?
リリア:
あたし、本当はホールジーじゃなくって。本名はリリア、モンド出身なの。
リリア:
リネのショーがすごいって聞いたから観たかったんだけど、チケットを買えなかったから一枚すったのよ。
リリア:
それがあたしの本業でね、スリなんて朝飯前ってわけ。今まで一度だって捕まったことがないわ…
リリア:
でも、それがまさか先日、ロマリタイムハーバーであたしのスリに気づく人がいるなんてね。その時はなんとか逃げ切ったけど、あたしを追ってきた人の中にそこのリネがいたのよ。
パイモン:
あっ、どっかで見た覚えがあると思ったら、あの時の泥棒か!
パイモン:
おまえの身のこなしがすごかったって、たしかリネが褒めてたよな。
リリア:
まあ、なんとかあの場は乗り切ったんだけど、ショーを観に行ったら、まさか今度はあの抽選機に選ばれるなんてね。
リリア:
しかも彼が、「メロピデ要塞」なんて口にするし…だって、そこって監獄でしょ。てっきり目をつけられたんだと思って、びっくりしちゃって…
リリア:
だから、まずは合わせるふりして、隙を見て逃げようとしたの…けど急に水をかけられた上に、誰かが地下道に入ってきて、あたしを捕まえようとするし…
リリア:
…そのまま捕まるなんてゴメンだったからさ、その人を気絶させて箱に入れたんだ。
リリア:
ただ、逃げ道がなくって…だから、服を着替えてショーの衣装ケースの中に隠れることにしたの。
リリア:
で、最初の警察隊員が現場に駆けつけたタイミングで、あたしは隙を見て抜け出して、それからは歌劇場内で身を潜めてたってわけ。
パイモン:
う~ん、あの中に人って隠れられるもんなのか?
リリア:
でも誓って、水槽が落ちてくるなんて知らなかった。絶対、絶対にね!
リリア:
こうなるって知ってたら、彼をマジックボックスに入れはしなかったわ!盗みはするけど、殺人になんて絶対手を染めないから!
パイモン:
ここまで来て、やっと事件の全貌が見えてきたな。
旅人:
水神のこれまでの推理に反論する時が来た。
旅人:
(今度はリリアの視点で、最初から最後まで事件を振り返ってみよう。)
マジックショーの最中の物音をよく思い返してみた結果、その音を出したのは他の人であると考えた。
旅人:
(あの物音は争いによるものじゃなく、パニック状態になったリリアが扉を破り、そこから脱出した時の音だった。)
地下道にある割れた花瓶をよく思い返してみた結果、それこそが当時の衝突の痕跡であると考えた。
旅人:
(この状況から見るに、花瓶は水の痕跡を隠すためのものじゃない。リリアとコーウェルが争ってる時に意図せず割れたもの…)
地下道にある少女の服をよく思い返してみた結果、それこそが「ホールジー」が地下道でやったことだと考えた。
旅人:
(リリアは、そのまま離れたら捕まるのではないかと心配した。だから、着替えて地下道から出るチャンスを伺っていた…さすが経験豊富な泥棒。)
審判を続ける
パイモン:
パンパカパーン、名探偵パイモンの推理タイムだぜ!
パイモン:
事件当時、幸運な観客として選ばれたリリアは、思いがけない展開にパニックになってしまった。
パイモン:
その上、地下道に入った途端、水をかけられてそのパニックも最高潮に。だからリリアは扉を破って、そこから出た——オイラたちが聞いた音はずばりこれだな。
パイモン:
その物音を聞いたコーウェルは地下道に入り、計画通りに溶けていないリリアに気づいた。
パイモン:
けど、コーウェルは知らなかったんだ。リリアがフォンテーヌ人じゃなくて、ショーを見るためにチケットを盗んだ泥棒だったことをな。
パイモン:
そして、コーウェルは「原始胎海の水」が効くには時間が必要だって勘違いした。で、リリアを無理やり箱に押し戻そうとしたんだ。
パイモン:
花瓶はその取っ組み合いの際に割れたんだと思うぞ。最終的にリリアがコーウェルを気絶させて、そいつを箱に入れたってわけだ。
パイモン:
そんで、逃げ場のなかったリリアは服を着替えて、ショーが終わるまで衣装ケースに隠れてたんだな。
パイモン:
歌劇場を出るには警察隊のチェックを受けなきゃいけなかったから、それから二日間、リリアはずっと歌劇場の中にいたんだ。
ナヴィア:
マカロンを食べながらおしゃべりしてた時、いつの間にか二つなくなってたけど…お腹を空かせたこの子に食べられてたってわけか。まったく、本当に泥棒の天才ね。
パイモン:
これで地下道でなにが起きたのか、はっきりしたな!
悟る観客:
そういうことだったのね…
喝采を送る観客:
素晴らしいわ、ブラボー!
ヌヴィレット:
被告人側の主張に対して異議はあるかね、フリーナ殿?
フリーナ:
ぼ、僕は…えーっと…
ヌヴィレット:
何も言うことはないのか、フリーナ殿。ちなみに…審判が終わるまで、原告側は退廷できない決まりだ。
フリーナ:
なな、なんで僕の考えが分かったんだっ!?
フリーナ:
はぁ、異議はない、僕の負けだよ。まったく、わざわざ聞かなくてもいいだろ。僕にだってメンツってもんがあるんだぞ…
パイモン:
空気が抜けた風船みたいに、一気にしぼんじゃったぞ。
ヌヴィレット:
では異議がなければ、フォンテーヌの最高審判官である私が、この事件の一部始終をここで振り返らせていただこう。
ヌヴィレット:
少女失踪事件の真犯人であるコーウェルは、観客リストから次のターゲットを選んだ。
ヌヴィレット:
抽選機にあらかじめ細工を施しておけば、そのターゲットの少女は必ず選出される。
ヌヴィレット:
また犯行の痕跡を消すため、コーウェルは水槽を落とすことで、少女が溶けた後に残る「水」を隠そうと画策した。
ヌヴィレット:
それを成すために水槽を吊っていたロープに細工し、ショーの最後に打ち上げる花火を利用したのだろう。
ヌヴィレット:
そして、彼は少女を溶かすために、風船にもある細工をした——そう、「原始胎海の水」を入れたのだ。それをショーの準備中、マジックボックスの上板へと結びつけた。
ヌヴィレット:
最後に、コーウェルは少女をマジックボックスに入れる際、あらかじめ用意しておいたフック付きロープを扉の隙間に通した。
ヌヴィレット:
マジックショーが始まり、少女の入ったマジックボックスが地下道に入ると、フック付きロープが引っ張られるという仕組みだ。それにより、「原始胎海の水」を入れた風船を割ったのだろう。
ヌヴィレット:
無論、当初のプランでは、このタイミングで少女は溶けるはずだった。だが、リリアはフォンテーヌ人ではない。さらに、彼女はマジックボックスから逃げ出したのだ…大きな物音と共にな。
ヌヴィレット:
異変に気づいたコーウェルは地下道に入ると、リリアに遭遇した。そこで彼はある勘違いをしてしまう、「原始胎海の水」に即効性はないと。そして、そのまま計画を続行すると決めた。
ヌヴィレット:
しかし、相手は思いもよらぬ反抗を見せる。格闘の末に彼は気絶させられ、マジックボックスに入れられた。そうして、最終的に彼は被害者となった。
ヌヴィレット:
一方、リリアは先ほど彼女が述べた通り、地下道で着替えて、身を隠すことにした。ショーが終わった後は、歌劇場の他の場所に移って隠れていたというわけだ。
ヌヴィレット:
その間、被告人リネはずっと歌劇場の地下にいた。ゆえに、地下道で起こったことを知らなかったのだろう。
ヌヴィレット:
ふむ、こうして事件の全貌を振り返るに、被告人は無罪と見るべきだ。
パイモン:
よかったな、リネ、リネット!
ヌヴィレット:
ただし、リリアと被告人リネの行為に関しては、別途審議をする必要があるが…
ヌヴィレット:
本一件は、もう「諭示裁定カーディナル」に最終判断を任せていいだろう。
ヌヴィレット:
よって、これにて判決を言い渡す——被告人リネ並びにリネットを無罪とする!
パイモン:
へへっ、名探偵パイモンの大勝利だぜ!
ナヴィア:
やるじゃん、さすがあたしの相棒!
リネット:
ありがとう、みんな。本当にありがとう。
旅人:
お祝いするのはまだ早い。
ヌヴィレット:
では警察隊員ボーン殿、説明してもらおうか。
ヌヴィレット:
君はどうやってリネ君の荷物から、「原始胎海の水」を見つけたのだ?
フリーナ:
そ、そうだそうだ。そのせいで僕は誤った判断をしたんだからな。それともまさか、ここで嘘の証言をしたっていうのか?だとしたら、いい度胸だ。
ヌヴィレット:
コーウェルのメモにあった仲間とはリネ君ではなく、君のことだな?
ボーン:
わ、私は…
ヌヴィレット:
君はよく分かっているはずだ。どうすれば、罰が軽くなるかをな。
フリーナ:
ほら、さっさと吐け。でないと、一生「特別許可券」と仲良く過ごすことになるぞ!
ボーン:
わ、私はただ言われた通りにしただけなんだ!
ボーン:
リネに「連続少女失踪事件」の濡れ衣を着せ、ファデュイに容疑を被せる絶好の機会だと…そう上から言われて!
ヌヴィレット:
計画が露見し、「原始胎海の水」の秘密も公になった今、そちらのトップはもう君のことをリスクの一部として見始めているだろう。
ヌヴィレット:
最も賢明な選択は、警察隊の保護を得るためにも、包み隠さずすべてを白状することだ。
ボーン:
ああ…い、言おう、すべて話そう!
ボーン:
「原始胎海の水」に人を溶かす効果があると気づいたのは、うちの首領だ。
ボーン:
しかも、この「原始胎海の水」っていうのは薬にもなる。限りなく水で薄めて飲むと、人は気分が高揚するんだ、それはもう病み付きになるくらいにな。
ボーン:
私たちはずっとこれを売ってきた。ずいぶんと儲けさせてもらったよ。連続少女失踪事件も首領が計画したもので…あっ、その首領ってのは…あの…
ボーン:
ッ…アァアアアアッ——!
みんなが注目する中、ボーンが黒幕の名前を口にしようとした途端、彼の体は水となって溶けた…
一同:
!!!
パイモン:
ひ、ひぃ…!?
旅人:
水に…なった。
リネ:
これって、口封じってやつだよね。
ナヴィア:
なんて残酷なやつら…
ヌヴィレット:
なんと浅はかであるまじき愚行。
ヌヴィレット:
この場にいる者を皆、すぐに検めよ!
しかし、現場にはボーンが溶けて残された液体と服以外に、他の手がかりは何もなかった。
リネと会話する
パイモン:
オイラたち…これで帰っていいのか?
パイモン:
それはそうだけど…
リネ:
旅人、パイモン!ちょっと待って…
旅人:
……
パイモン:
リネ…
リネ:
その、口もききたくない、顔だって見たくないって気持ちは分かるけど…
リネ:
君は僕がファデュイだと知りながらも、最後まで僕のために弁護し、無罪にまでしてくれた…あらためて、お礼を言わせてほしい。
リネ:
…そっか。でもいずれにせよ、君には面と向かってちゃんと話をさせてほしい…
リネ:
僕は別に目的や下心があって、君と接触してたわけじゃないんだ。これまでずっと、「リネ」というひとりの人間として君に接してきた。
リネ:
ファデュイに身を置いてるのは、僕みたいな孤児と壁炉の家の利益が一致したからに過ぎない。
リネ:
あの時、僕たちの「お父様」が——つまり、「召使」様が僕を迎えてくれたのも、そういった理由で…
パイモン:
「召使」って…ファデュイの執行官のことだよな?壁炉の家を管理してるって聞いたことあるけど、おまえのお父さんだったのか。
リネ:
ああ…その、もうここまで聞いてもらったんだ。僕の過去についても話させてほしい…
リネ:
昔、両親を亡くした僕とリネットは、二人して路頭を彷徨うしかなかった。
リネ:
だから生計を立てるためにも、路上でパフォーマンスするマジシャンを観察することにしたんだ。何日も観察して、ようやくその巧妙なトリックを見抜いたよ。
リネ:
僕は妹を連れて、そこからいくつか通りを挟んだ先の、人が行き交う街角で試しにマジックショーを始めてみた。
リネ:
ショーは思いのほか受けが良くてね。食事の問題はひとまず解決したよ…けどやっぱり妹には、僕と同じように野宿してほしくなかった。
リネ:
でもそれからすぐに、ある一人の貴族が僕を訪ねてきたんだ。ショーを見て、僕たちを養子にしたいと言ってくれた。
パイモン:
孤児からいきなり貴族の養子になったのか?
リネ:
ああ、運がまた僕たちの味方をして、苦しい日々とさようならできると…僕たちも最初はそう思ったよ。
リネ:
でも「養子」を取ったのは、その人がただ僕のマジックの才能に目をつけただけだったと分かった…
リネ:
彼は人の目を惹くために、僕を様々なパーティーに出席させてね。そして、社交界でコネを広げようとしたんだ。
パイモン:
えっと…それも別に悪くないんじゃないか?少なくとも路上で生活するよりはマシだろ…
リネ:
はは…後になって気づいたんだ。あの貴族たちの闇は、僕たちが思っているよりもずっと深いってね。
リネ:
あるパーティーでのショーが終わった後、僕はリネットが同じ車に乗っていないことに気づいた。
リネ:
家に着いてしばらく経っても、リネットは帰ってこなかった。だから、僕はその貴族の寝室に行って、妹はどうしたんだと聞いたんだ…
リネ:
すると、そいつはこう答えた——「パーティーである大物のお眼鏡にかなってな、贈り物として差し上げたんだ。助手を変えてもマジックはできるだろう?」って。
パイモン:
えっ…まさかそいつ…
パイモン:
フォンテーヌの法律で、そういったやつって裁けないのかよ?
リネ:
外の人間から見れば、単なる「養子縁組」の関係だからね。調査を誤魔化す方法はいくらでもあるさ。
リネ:
その「大物」とやらの邸宅の場所を聞き出して、すぐに向かったよ…警備の目を盗んで塀を越え、邸宅に入ったけど…
リネ:
そこには、月明かりに照らされた床の血痕と…暗闇に佇む「召使」様の姿があるだけだった。
パイモン:
「召使」が、もうそいつを始末してたってことか…
リネ:
うん、リネットが被害に遭う前に、あの方が救ってくれたんだ。そして、地下室からは閉じ込められてた女の子が数人見つかった。全員、両親のいない孤児だったよ。
リネ:
「お父様」…いや、「召使」様はたぶん、僕の素質を見て迎え入れてくれたんだと思う…
リネ:
「君と私たちの利益は一致しているはずだ。壁炉の家は君を歓迎しよう。君は、ここで裏切られることはない。そして、裏切りも一切容認しない」って。
リネ:
貴族に裏切られたばかりの僕からすると、その言葉をすぐ鵜呑みにはできなかった。
リネ:
でもその直後に「召使」様は、僕を養子にした貴族を始末して、僕に自由を返してくれた。
パイモン:
それでおまえと妹は、壁炉の家に入ったってわけか。
リネ:
「召使」様には…何かご自身の計画があるみたいだ。
リネ:
あの方は、スネージナヤ女皇の許可を得てる。フォンテーヌの神の心を奪った後、「召使」様はその力を使ってまず予言を打ち破り、この国を救う方法を探すつもりなんだ。
パイモン:
つまり、そいつも予言が本物だって信じてるのか?
リネ:
そう、壁炉の家は全力で「予言の危機」に抗おうとしてる。
リネ:
そして今日の事件は、フォンテーヌ人が特定の水に溶けることを証明し、予言を裏付ける新たな根拠となった…
リネ:
ブーフ·ド·エテの館は「召使」様も含めて、みんなフォンテーヌ人なんだ。僕たちは自分の故郷を守ることを諦めない。
リネ:
なにせ僕たち孤児にとって、この世界との繋がりは「家族」であるみんな以外に、もう「故郷」しか残っていないからね。
パイモン:
「マジックポケット」を配ることから、神の心を盗むことまで、すべて予言をどうにかするためにやってたことなのか…
リネ:
大丈夫、分かってるよ。僕もただ言いたいことを伝えたかっただけだから。
リネ:
でも、たとえ壁炉の家にいても、僕は一度だって自分の意思を手放したことはない。僕はずっと正しいと思うことをしてきたんだ。これだけは、どうか分かってほしい。
リネ:
この先、もし何か手伝えることがあったら、いつでも僕を訪ねて。「リネ」として君を助けるよ。
パイモン:
じゃ、じゃあな…リネ。
歌劇場を出る
ナヴィア:
ちょっと——!はぁ、はぁ…やっと見つけたぁ。裁判が終わった途端に姿を消すんだから。
パイモン:
なんだナヴィア、オイラたちを探してたのか?
ナヴィア:
この事件はまだ終わってないでしょ。あたしたちは、これで「連続少女失踪事件」の真実にまた一歩近づけた、そうだよね?
ナヴィア:
ん?どうかした、相棒?
パイモン:
…それに、こういう数十年も未解決だった事件を、本当にオイラたちの力で解決できるもんなのか…?
パイモン:
今回、新しい手がかりが見つかったわけだし、水神の部下が芋づる式で解決してくれると思うぞ?
ナヴィア:
えっ…
ナヴィア:
そ、そっかぁ…うん…その返しは予想してなかったけど、でもまあ…あんたたちって、フォンテーヌに来たばかりの旅人だもんね…
ナヴィア:
ごめん、勝手に一人で舞い上がっちゃって。
パイモン:
いやいやナヴィア、謝る必要ないって。
ナヴィア:
はぁ…あんたたちと事件を調査してる時間は楽しかったよ。なんていうか…その…
ナヴィア:
うん、まるで淀んだ水に新たな流れを、新たな希望をそそいでいくかのようで、水に映った影がだんだん鮮明になっていって…
ナヴィア:
あははっ…あたしってばすぐ感傷的になっちゃうんだ、気にしないで…
ナヴィア:
あっ、そうだ、送別会!送別会やろ?
パイモン:
えっ?律儀にわざわざそんなもんを…へへっ、オイラたちとの関係を本当に大切にしてくれてるんだな。
ナヴィア:
あらゆる大切な思い出に悔いを残すことなく、完璧なピリオドを打ちたいの、あたしは。
ナヴィア:
それに、ただ食事するだけで、あまり時間は取らせないから。
パイモン:
ボスのナヴィアがおごってくれるってんなら、オイラは喜んで食べに行くぞ。そうあれこれ考えるなって。
ナヴィア:
へへっ、それじゃ、まずはフォンテーヌ廷に戻って、それから一緒に「ホテル·ドゥボール」へ向かいましょ?そしたら、ちょうど夕食の時間に間に合うだろうから。
パイモン:
よーし、送別会にレッツゴー!