arrow_back 原神 任務
三川遊芸夢綺譚・中夜

泡影を見るが如く


泡影を見るが如く
「三川花祭」の会場付近で異変が起きた。なにやら良からぬことが渦巻いているようだ…
影:
温泉が閉まる頃に向かいましょう。やっておきたいことがあったら、先に済ませておいてくださいね。
パイモン:
おかしいぞ…神子のやつ、どこにもいないし、綾人と綾華も見当たらない…
パイモン:
もしかして、オイラたちが早く来すぎたのか?でも、神社にみんなが寝泊りできる場所を用意しておくって、昨日綾人が言ってたし…
千賀:
…聞いた?ゆうべ、ここで…「二重身」を見た人がいるそうよ!
若菜:
「二重身」って…あの、瓜二つの人が現れるっていう?
瀧藤:
「二重身」に会った人は、人知れず「二重身」と入れ替わっちまうらしいぞ…それも三日以内に…
若菜:
そ、それってただの怪談でしょ!?
パイモン:
…「二重身」って、たしか稲妻の怪談だよな…聞いたことあるか?
パイモン:
怪談の中でもかなり有名な部類らしいぜ…いつの間にか友達が入れ替わってるっていう…
パイモン:
タイミング的に…昨日の夜の出来事と関係してそうだと思わないか?
パイモン:
それに「二重身」って…「幻夢の分身」とちょっと似てるよな…もしかしたら、吉法師がうっかり妖力を漏らしちゃったんじゃ…
パイモン:
うーん…今はあんまり手がかりがないし、ひとまず早柚たちのところに行ってみようぜ。
パイモン:
早柚たち、まだ来てないみたいだな…
旅人:
まだ神社で寝てるのかも?
パイモン:
うっ…早柚なら、たしかにありえそうだな…あれ?誰かがこっちに向かってきてるぞ?
天領奉行衆:
……
パイモン:
なんだ…?設備を調整しに来た人か?でも、昨日はあんな人いなかったぞ…遊びに来たようにも見えないし…
天領奉行衆:
……
パイモン:
あっ…どっか行くぞ!もしかして…
旅人:
ついて行ってみよう。
パイモン:
よっ、トーマ!ちょっと設計の構想について聞きたいんだけど、いま大丈夫か?
トーマ:
おっ、早くも仕事に着手してるのかい、審査員さん?
「証城」:
…「セッケン」?「小僧」?
一つ目小僧:
…なら、トーマの親分に聞いたらいいぜ。
妖狐:
ゆうべ、トーマの親分と証城は深夜まで起きて…案を練っていた。
河童:
なのに今もぴんぴんしてるなんて…トーマの親分すごいな!
トーマ:
大げさだよ…でもまぁ、審査員の質問には、班の中で一番会話に長けた者が答えたほうがいいだろうね。
パイモン:
ふふん…「面接」みたいなもんだからな!
「証城」:
…「悶絶」?
トーマ:
何でも聞いてくれ、審査員さん!
トーマ:
そうだね。仲間と協力して困難を乗り越えるところかな…
パイモン:
ストップストーップ。「面接」ってそんな生ぬるいもんじゃないぞ!オホン、こう聞くんだ——
パイモン:
この遊芸の「コンセプト」と「セールスポイント」を教えてくれ。あと「一番のアピールポイント」はなんだ?
旅人:
(結局、俺と同じことを聞いてるし…)
トーマ:
ほう?その聞き方、離島の店主たちに似てるね…なら、こう答えよう——
トーマ:
今回の設計は、普段よく見る典型的な打ち方を基に、何点か新たな要素を取り入れ、かつ既存の弱点を補うことで、真っすぐ素早く打てるようになってる…
トーマ:
これまでのオレたちの強みとお客さんの需要を振り返り、点と線、ひいては面を繋げるとともに、感知度を改善させることによって、遊芸の体験を向上させてるんだ…
パイモン:
…なんかすごそうだな!全然わからないけど!
旅人:
(——聞いた本人が分かってない!?)
河童:
——さすが、トーマの親分!
トーマ:
ハハッ…実はオレもちんぷんかんぷんさ。離島にいた頃、毎日のように聞いてたからスラスラ言えるってだけで。
パイモン:
離島の顔役ってすごいな…しまった、なに言ったかわからないからこれ以上続けられないぞ…!旅人、他に聞きたいことはないか?
質問の嵐を浴びせたが、トーマの答えは淀みなかった…
トーマ:
——と、オレからは以上だけど、審査員さんのお気に召したかな?
パイモン:
ぐっ…困った様子は微塵もなかったぞ…
旅人:
さすがトーマだね。
トーマ:
ハハッ、褒めすぎだよ。面接で受け答えが上手いからって、遊芸そのものが優れているとは限らない。やはり、体験してもらわないとね。
トーマ:
じゃ、オレは今日のステージの制作に取り掛かるよ。完成したら、遊んでみてくれないか?
旅人:
喜んで。
トーマ:
さて、さっそく始めるとするか。
一つ目小僧:
ト、トーマの親分、まじやべぇ!
パイモン:
うーん…どれもトーマらしい答えだったし…なんも違和感はなかったぞ。
パイモン:
それにゆうべは証城と一緒に夜遅くまで遊芸の準備をしてたって言ってた。となると、オイラたちが「悪夢の妖怪」に遭った時間、トーマにはアリバイがあるってことだ。
パイモン:
一つ目小僧たち三人はずっと一緒にいるから、もし誰かに問題が起きたら気づくはずだよな?
パイモン:
…うーん、まったく手がかりが見つからないぞ…残るは心海たちのところか。とりあえず行ってみようぜ…
早柚:
うぅ…眠い…昨日は熟睡できなかったぞ…主たち、どうしてそんなに元気なんだ?拙より遅くまで起きてたはずなのに…
「吉法師」:
ぬはは、弱い!
宵宮:
吉法師ちゃん!友達をそんな風に言ったらあかんで。昨日の案は、ほぼ早柚ちゃんが考えてくれたもんやねんから、元気出んくてもしゃーないやろ?
宵宮:
早柚ちゃん、もう少し休んどくか?このあとの面はうちが考えとくで。
宵宮:
早柚ちゃんを祭りに呼べるなんてめったにないことやのに、楽しんでもらえへんかったら本末転倒や。
早柚:
うっ…だ、大丈夫だ…まだ頑張れそう…
パイモン:
宵宮も早柚も、変わりなさそうだな!吉法師も今まで通りだぞ。どう判断すればいいんだ…
旅人:
昔のことを聞いてみよう。
パイモン:
そうだな、「二重身」が外見を変えるだけなら、昔のことには答えられないはずだ。よし、その作戦でいこうぜ!
「吉法師」:
ぬ!白髪、金髪!
宵宮:
ん?二人とも、えらい早いんやな。
パイモン:
お、おう…!審査員だから、早く来ないとな…
宵宮:
んん?…審査員は遊芸を作るわけでもないのに、なんではよ来る必要があるん?
早柚:
こういうのは…急ぎの依頼や緊急事態であることが多い…
パイモン:
え、えっと…その…こいつがおまえたちに早く会いたいって…!
旅人:
(パイモン、ちょっと…!)
宵宮:
ええ?なんやヤブから棒に…
パイモン:
う…なんだ…つまり…昨日、おまえたちの遊芸を遊んでたら、急に昔のことをいろいろ思い出してさ!
パイモン:
だから、朝早く来て昔話でもしようかなぁって…ほら、遅い時間だと、おまえたちの作業を邪魔しちゃうかもしれない…だろ…?
旅人:
(——怪しすぎる!早く来ても作業の邪魔にはなるのに!)
「吉法師」:
白髪…あやしい?
旅人:
(…早く話題をそらさないと!)
宵宮:
ああ、あんたもか!実はうちも昨日思い出してん。ほんで、アランナラに関するもんを作ろ思てたんや。
宵宮:
せやけど、頭ん中でぐるぐる考えるだけで、言葉にしようとすると、全然上手くできんくて…
「吉法師」:
「ラランララ」?美味いもん?
宵宮:
食べられへんで。スメールの…ちっこい妖怪?みたいなもんや。かいらしゅうて優しいんやで。それにええ夢も見せてくれる…
宵宮:
…そう考えると、吉法師ちゃんにちょっと似とるな。もし吉法師ちゃんがスメールに行ったら、きっと「いいナラ」や!
「吉法師」:
…「いいララ」?
早柚:
スメール…そこの「夢」は特別だと聞いたことがある。そこから何か発想を得られれば、こんなに頭を使わなくて済んだかもしれない…
宵宮:
あははっ…うちもあん時見た「夢」は簡単に説明でけへんねん…あんたもせやろ?
旅人:
感情が入り混じりすぎた夢は…
旅人:
かえって題材にしにくい。
早柚:
まあいい…はぁ、主たち一体どんな夢を見たんだ…
宵宮:
とにかく、色んなことがあって…うーん、長なってしまうし、遊芸終わらせてから喋ろか?
宵宮:
…そん時は、思い出すん手伝ってや。
旅人:
うん。
その後も、たくさんの思い出話をした…
宵宮:
う、あかんあかん、つい話し込んでもたわ…今日はまだ作らなあかん面がぎょうさんあるのに。
パイモン:
じゃあ、オイラたちはこれ以上邪魔しないでおくぜ。頑張れよ!
「吉法師」:
金髪、白髪!新しい遊芸、遊びに来い!
パイモン:
思い返してみると、ほんといろいろあったぜ。みんなと話さないと、なかなか振り返る機会ってないんだよな!
旅人:
パイモン、本来の目的覚えてる…?
パイモン:
本来の目的?——ああっ!完全に忘れてたぞ!
旅人:
そうだと思った…
パイモン:
でも正直、あいつらは問題ない気がするぞ…むしろ、無理やり話題を作ろうとしてたオイラたちのほうが怪しかったな…
旅人:
それはパイモンのせいでしょ?
パイモン:
オ、オイラも反省してるぞ!会ってすぐに思い出話するなんて、たしかにおかしかったし…次は「審査員」の立場を利用して攻めてみるか?
パイモン:
遊芸を設計した経緯を聞いて、本物かどうか見極めるんだ…さっきおしゃべりしてた時、トーマたちを見かけたから、さっそく試そうぜ!
「刑部小判」:
ぬ!白髪、金髪、はやい!
パイモン:
あれ?刑部小判、おまえ一人か?変だな…心海たちはどこいったんだ?
「刑部小判」:
妖怪、知らない…ウシウシ、後ろ?
パイモン:
ウシウシ?もしかして「深海ウシノシタ」のことか?…いや、それより…後ろって?
珊瑚宮心海:
もしかして…私に何かご用でしょうか?
パイモン:
こ…心海!なんでみんな後ろから現れるんだよ…
旅人:
…もう事情は分かってるみたいだね?
珊瑚宮心海:
ええ、「二重身」の噂は耳にしています。先ほど、あなたたちの会場での行動を見て、いくつかの推測も確信に変わりました。
珊瑚宮心海:
これを聞けば、あなたたちも安心するかと…
珊瑚宮心海:
…「エネルギー」。
パイモン:
「エネルギー」?…あっ!それって心海の手記に書いてあった——
「刑部小判」:
「たまねぎー」?「好き」?
珊瑚宮心海:
…コホンッ。
パイモン:
あ…ご、ごめん…
珊瑚宮心海:
その話は…ここまでにしましょう。他に聞きたいことはないですね?
旅人:
う…うん。
珊瑚宮心海:
刑部小判も昨夜神社を離れていません。あなたたちが探している犯人ではないでしょう。
「刑部小判」:
ぬぅ?刑部小判、犯人!?
パイモン:
い、いや、今その疑いが晴れたんだ!
「刑部小判」:
ぬ…晴れた…わからないけど、いいこと?
旅人:
いいことだよ。
「刑部小判」:
よかった!
パイモン:
そういえば…瑞希はどこだ?見かけてないけど。
珊瑚宮心海:
瑞希さんは夜中にある知らせを受けて慌てて出ていったきり、まだ戻っていません…今思えば、あなたたちが調べていることと何か関係があるのかもしれませんね。
珊瑚宮心海:
そういえば、出かける前このようなことを呟いていました——「夜も寝させてくれないなんて。まったく、人をこき使うにもほどがあるんだから…」と。
旅人:
(…神子だ。)
旅人:
(たぶん、「悪夢」の専門家と早急に対策を練るためかも…二人なら、犯人の正体をつかめるはず…)
八重神子:
おや…妾に想いを馳せるやつがおるようじゃのう?
パイモン:
あっ——神子!それに瑞希も!
夢見月瑞希:
…あぁ…旅人、パイモン。
旅人:
仕事は一段落した?
八重神子:
うむ、あとのことは社奉行家の若造に任せてある。今のところ、案ずることはなかろう。
パイモン:
ってことは…犯人は会場に潜り込んでないんだな?ふぅ、ほっとしたぞ…
八重神子:
早くも油断か?この姿に化けて近づいた甲斐があったものじゃ——
パイモン:
——えっ…な、なんだって!?は、は、犯人はおまえだったのか!?
八重神子:
ん?欲張りじゃのう。二割で話はついておるはずじゃ。
旅人:
こんな冗談を言うのは…
八重神子:
はぁ、冗談も通じにくくなるとは。
夢見月瑞希:
そういう冗談はよくないぞ、神子。あたしまでびっくりしたんだけど。
八重神子:
五百年も経つというのにまだ慣れぬのか?まだまだ修行が足りんようじゃ。
夢見月瑞希:
少なくとも今日は勘弁。睡眠不足のせいで、これ以上のストレスは心がもたない。
旅人:
ゆうべは何をしてたの…?
夢見月瑞希:
幕府の役人の悪夢を調べたり、影向山周辺で見え隠れする妖力の痕跡を分析したり…もちろん、残りの遊芸作りも忘れてない。
パイモン:
働きすぎだろ!
夢見月瑞希:
三川花祭を荒らされるのはごめんだし…だからといって、その調査で祭りの準備をおろそかにしたくはなかったから。
八重神子:
……
夢見月瑞希:
患者さんの中には、生計のためにいくつもの仕事を掛け持ちしてる方も少なくない。たまに仕事が増えたからって文句を垂れてたら…なんていうか、自分に甘すぎるでしょ?
珊瑚宮心海:
瑞希さん、とりあえず少し休息をとってはいかがでしょうか。その間、遊芸のほうは私と刑部小判にお任せください。
珊瑚宮心海:
昨日学んだことを活かせば、簡単な設計なら私でも対応できるはずです。休憩を挟んでから、出来具合を見ていただくというのはいかがでしょう?
珊瑚宮心海:
もし今回の設計の柱である瑞希さんが倒れたら、最後までまとめられる自信が私にはありません。
夢見月瑞希:
こんな自然な流れで誘導するなんて、「心理療法士」に向いてるかもね…ふふっ、それじゃ、心海さん、刑部小判、しばらく頼んだよ。
「刑部小判」:
ぬ、たっぷり寝て!
休憩に行く瑞希の足元は少しふらついている。相当眠いのだろう…
パイモン:
あんなになるまで無理するなんて…瑞希のやつ、三川花祭によっぽど思い入れがあるみたいだな…
八重神子:
…かつて過ごした三川花祭を思い出したのじゃろう。あやつも妾も、まだ幼かった頃の話なんじゃが——
八重神子:
三川花祭になると、最初に揚げられる油揚げを食すために、他の妖怪たちを追い抜いてラーメン屋台まで駆けっこしておったんじゃ。
八重神子:
ふん、五百年もの時を経て、なお覚えておるとはのう。
旅人:
神子もよく覚えてるみたいだけど…
八重神子:
…童よ、思ったことを口にしないほうが好感を持たれる時もあるのじゃぞ?
八重神子:
ふぅ——昔の話はよそう。目の前のことのほうが大事じゃ。
パイモン:
目の前…?でも、心配はないってさっき言ったよな?犯人が紛れ込んでる可能性はないんだろ?
八重神子:
それはあくまで一つの可能性じゃ。もう一つの可能性は…犯人が予想よりも巧妙に「変化」する場合——
八重神子:
そうなると、より専門的な「探偵」に現場調査を頼むか…何らかの手を使って犯人を刺激し、隙を見せるよう誘導する必要がある。
パイモン:
でも、かなり危ないんじゃないか…?
八重神子:
もし犯人が本当に上手く隠れておるのなら、刺激を少し与えたところで、正体を現すことはなかろう。
八重神子:
もっともらしい状況を作り、犯人に囚われの獣になるかもしれぬという危惧を抱かせることができれば…そやつは戸惑い、こちらにとって好機となるじゃろう。
旅人:
刺激するって、どうやって?
八重神子:
おや?影から聞いておらぬのか?…ふふっ、ならば、この後の展開を愉しむとよい。
八重神子:
…皆の者、三川花祭の主催者として一つ知らせがある——
八重神子:
此度の三川花祭じゃが、天守閣より特別な客人がまいった。
八重神子:
登場してもらおう——「御建鳴神主尊大御所様」じゃ!
宵宮:
しょ…将軍様や!
トーマ:
将軍様…自ら会場に?
影:
神子…これがあなたの言う「妙計」なのですか?
八重神子:
…どうじゃ、悪くなかろう?
パイモン:
まさか、影が来るなんて。しかも、こんな大っぴらに…
九条裟羅:
…将軍様がおいでになれば、どちらにせよ騒ぎにはなる。ならば、堂々と歩いてしまったほうがいいだろう?
鹿野院平蔵:
おかげで、部下の中に一介の「探偵」が混じっていても気づかれない。
九条裟羅:
「天光」を前にすれば、いくら狡猾な犯人といえども将軍様に注力することになるだろう。
鹿野院平蔵:
でも、注力すればするほど、他の面でボロを出しやすくなる。
旅人:
それが神子の言う「好機」…
九条裟羅:
犯人をおびき出すために、将軍様をおとりにするとは…ふん、宮司様の度胸は相変わらずだな。
パイモン:
もっと早く言ってくれれば、みんなにあれこれ聞かなくて済んだのに。
鹿野院平蔵:
いや、君たちが集めてくれた情報は大いに役に立つよ。まだ目途は立ってないけど…じきに真相が明らかになるって予感がするんだ。
鹿野院平蔵:
旅人、それまで将軍様と共に行動しながら、注意を引いてほしい。
旅人:
うん、頑張る…
九条裟羅:
…よし。お前たちの結論が出るまで、天領奉行は厳重な警戒態勢で臨もう。何かあれば、随時知らせてくれ。
旅人:
(その後…昨日と同じく、何事もないように屋台を見て回った…)
旅人:
(影の登場に会場は一時騒然となったが、すぐに落ち着き、次第にお祭りの雰囲気に浸っていった…)
旅人:
(いつか…影が天守閣を出て歩いても、誰も驚かない日が来るかもしれない。)
井上:
…しょ…将軍様!永遠なる鳴神、常道を恢弘せしは…あ、いや、えっと、いらっしゃいませ…
影:
見覚えのある屋台ですが…店主が変わったのですか?
井上:
ああっ…智樹のことですね?腹を壊したようで、俺が代わりに店番をしているんです…あはは…
影:
そうですか。そういえば、あなたの顔にも見覚えが…天領奉行府の同心と似ているような…
井上:
えーと…その…
パイモン:
影、どうしたんだ?
影:
いえ、少しおやつが欲しくなったのですが…こちらの店主は…
旅人:
(「店主」が助けを求めるような目を向けている。並べられている料理を見るに、今日は屋台の初日なのだろう…)
旅人:
影…彼は「勤務中」だよ。
影:
「勤務」?…あっ。
影:
…なるほど。ご苦労様です。
井上:
と、とんでもありません!皆さまにお仕え出来て恐悦至極です!
影:
あまりかしこまらないでください。それでは、団子牛乳を三つお願いします。
井上:
——はいよ!
パイモン:
「三つ」?オイラたちの分も頼んでくれたのか?
影:
ええ、お礼です。今日、もしあなたたちが傍にいてくれなかったら…ずっと人々は緊張し通しだったかもしれません。
影:
事情があるとはいえ、民が三川花祭を楽しむのを邪魔したくはありませんから。
影:
ふふ、そうですね。三川花祭に参加するのは数百年ぶりです。人も場所も、遊芸の内容も変わりましたが…
影:
「三川花祭」という名前や、人々に与える喜びは…昔とちっとも変わっていませんね。これも、ある種の「永遠」なのでしょうか。
夢見月瑞希:
旅人、パイモン…それに将軍?
パイモン:
あれ?瑞希、だいぶ顔色がよくなったな。
影:
夢見月瑞希…先般の件、感謝します。
夢見月瑞希:
いえ、やるべき仕事をしたまでです。全力で臨んだつもりでしたが…状況が状況だけに、悪夢に囚われた人々を目覚めさせることはできませんでした。
影:
夢の中でもがき苦しむ人々の負担を和らげてあげられただけでも大きな前進です。さすがは夢喰い一族の末裔ですね。
パイモン:
瑞希にも治せないなんて…「悪夢の妖怪」って一体何者なんだよ…
影:
……
夢見月瑞希:
…詳しい話はまたあとで。実は、みんなに聞きたいことがあって来たんだ。
夢見月瑞希:
ね、秋沙銭湯に興味ない?ほかの参加者はほとんど行くって。お金のことなら心配しないで、無料で招待するから。
パイモン:
タダなのか?もちろん行くぞ!
旅人:
どうしてこのタイミングで温泉に?
夢見月瑞希:
遊芸を考えるのは結構大変だし、みんな疲れが溜まってきてるんじゃないかなーって思って。適度な休憩も大事だよ。
夢見月瑞希:
ずっと神経尖らせて調査に集中してたから、疲れてるでしょ?みんなで一緒にどうかな?
パイモン:
おう、行くぜ!だろ?
影:
…私は遠慮しておきます。面白そうな屋台が沢山出ていますし、せっかくの外出ですので、いろいろ回ってみたいと思います。
パイモン:
そっか…残念だな…
旅人:
じゃあ俺も行かない…
夢見月瑞希:
あっ、そうだ。旅人、神子が探してたよ。何か用があるみたい。一緒に行く?
影:
そうですか?では、私も…
井上:
将軍様!ご注文の団子牛乳です…
パイモン:
う~ん、いい匂いだな♪
夢見月瑞希:
あ、神子は審査員に用があるそうなので、旅人だけで大丈夫ですよ。
旅人:
すぐ戻ってくるから。
夢見月瑞希:
…ここならいいかな。
旅人:
やっぱり神子はいない…
夢見月瑞希:
今日一日将軍に付き合って、「症状」に気づかなかった?
旅人:
まさか…影はどこか悪いの?
夢見月瑞希:
灯台下暗し、か…何か悩んでるように見えなかったかな?
旅人:
(たしかに今日の影は…ちょっと様子が変だった。普段、天守閣を離れることがあまりないから?それとも、周りの人たちの反応のせい…?)
旅人:
(いや、一緒にいろんなことを経験してきたけど、影がそんな小さなことで動揺するはずない…何か言いづらい事情でもあるのかな…?)
夢見月瑞希:
仕事柄、何らかの理由で治療を拒んだり、治療を受けられない患者はたくさん見てきた。何も手を打たないでいると、心の病はどんどん進行していき…
夢見月瑞希:
いくら強い人でも、自分自身に囚われて押し潰されてしまう。…そして将軍にはすでに、その兆しが見えてる。
旅人:
神も…心の病にかかるの?
夢見月瑞希:
人間も妖怪も神も、心があって感情がある。もちろん心の病にもかかるよ。
夢見月瑞希:
一見強そうに見えても、心の病を抱えながら生きることに慣れてるだけかもしれない…決して「健康」な状態とは言えないんだ。
旅人:
…分かる気がする。
夢見月瑞希:
とにかく——心の病を治すためには、まず心を開いてもらわないとね。この仕事はキミに一任!
旅人:
「心理療法士」じゃなくて?
夢見月瑞希:
そんな肩書きを持ってるあたしじゃ、警戒されちゃうでしょ?でも、しっかり助けるから、そこは心配しないで。
夢見月瑞希:
ってことで、閉店後も秋沙銭湯に入れる「特別券」を二枚あげる。まずは——
パイモン:
あ、やっと戻ってきたな。あんまり遅いから、団子牛乳、二人分飲み干しちゃったぞ!
夢見月瑞希:
待たせてごめんね。旅人は他に用事があるみたいだから、パイモンはあたしと秋沙銭湯に行こっか。
パイモン:
えっ?おまえは一緒に行かないのか?
旅人:
ちょっといろいろあって…楽しんできて。
パイモン:
わかった…お土産に温泉卵を買ってきてやるぜ!
影:
…私のことなら、どうかお気遣いなく。今から追いかけても間に合うはずです。
旅人:
そういう影も気を遣ってるんでしょ?
影:
…どういう意味でしょうか?
旅人:
みんなの邪魔をしたくないんでしょ?
影:
…気を抜くために訪れたはずの温泉で、緊張してしまっては本末転倒でしょう。
影:
祭りに私が来ているというだけで、皆さんの準備作業に影響を与えてしまっているはずです。これ以上負担をかけるわけにはいきません。
旅人:
…影も疲れてるでしょ?
影:
ご存じでしょう、この身体はまださほど衰えてはいませんよ。あと百年は問題なく動けます。
旅人:
…疲れてないとは言わないわけだ。
影:
…はぁ、凡人の弱き肉体と私の肉体、どちらかしか取れないのならば、後者を切り捨てるのが合理的です。
旅人:
みんなを邪魔しない方法があるなら…
影:
そんな空想を話しても…思う通りにはいかないのが世の常です…
旅人:
行く気はあるってことだよね。
旅人:
「特別券」が二枚ある…
影:
…巧みな話術ですね…最近、神子とつるむ時間が長すぎたのではありませんか?
旅人:
「将軍に二言はない」——でしょ?
影:
「将軍を陥れた罪」からは逃れられませんよ?
旅人:
とにかく行こう!
影:
はぁ…あなたがそこまで強く言うのも珍しいですね…分かりました。夜更けに出発しましょう。
影:
そろそろ行きましょうか?
影:
蘭の芳満ち、色は桃花の如く漲る——なるほど。「温泉」に浸かるとこういう気分になるものなのですね。
旅人:
温泉は初めて?
影:
ええ、天守閣の隣に「御温泉」がありますが、それは五百年前に柊弘嗣がスネージナヤの高炉を仕入れて建設を始めたものです。
影:
完成した頃には、すでに私は一心浄土に入っていました…「将軍」は温泉に浸かる必要がありませんから。
旅人:
柊弘嗣…
影:
かつての勘定奉行で、眞と狐斎宮の友人でもありました。人間の身であの時代を生き抜いた、並々ならぬ実力者です。
影:
…どうしてそのようなことを?
旅人:
さっきの影の表情…
影:
……
影:
…温泉は話をするのに最も適した場所だというのは、幕府でもよく耳にしていましたが…納得ですね、つい気が緩んでしまいました。
影:
——五百年前も、漆黒の災厄と共に「悪夢」が稲妻を襲ったのです。
影:
漆黒の戦場に赴いた兵士は、暗黒の魔物に侵され、果てなき悪夢に苛まれました。夢喰い獏の一族は全力でこれを退けようとしましたが、結局症状を和らげることしかできませんでした。
旅人:
でも、影の気が重いのは…
影:
…はい。当時の戦いは熾烈を極め、戦場に向かった人々は、皆帰らぬ人となりました。死を覚悟したからには、たかが悪夢を恐れることなどないと思うかもしれませんが——
影:
強い者が悪夢に囚われた場合、行動の自由を完全に奪われることはなく、「夢遊」状態に入ります。
影:
大きな力を持つ者が、夢と現を区別できなくなり、現実で起こっていることのすべてを戦の延長線上にあるものと勘違いしてしまったら…
影:
現実のすべての喜びを闇で覆い、抹殺すべき敵と見なすようになってしまったら…さらに痛切な「悪夢」が、その者自身と周りに降りかかることになります。
旅人:
(…もし昨日、悪夢から抜け出せなかったら…俺もそうなってたのかな?)
旅人:
過去に…そんな例があったの?
影:
…ええ。
旅人:
最後はどうなったの…
影:
私は…彼女に「無想の一太刀」を振り下ろしました。
旅人:
……
影:
謝る必要はありません。あの時の決断を悔いたことは一度もありませんから。稲妻のためにも、彼女のためにも。
影:
必要とあらば…再び一太刀を振り下ろすことも躊躇いません。
旅人:
影…
影:
…そこで盗み聞きしている二人も、そろそろ出てきては?
夢見月瑞希:
…あっ。
八重神子:
ふん。
旅人:
君たちだったんだ。
夢見月瑞希:
…言っとくけど、あたしのアイデアじゃないからね?
八重神子:
ふ~む、ばれてしまったのなら、いっそのこと…
八重神子:
——このまま温泉茶会を開くとするか。
夢見月瑞希:
ちょっと——
八重神子:
ふぅ…温かくて気持ちがよいのう。道理でするすると言葉を引き出せたわけじゃ。
影:
…そろそろ白状してください。一体どちらの案です?
夢見月瑞希:
半々、かな。
八重神子:
とある「心理療法士」に「旧友の心を開くにはどうすればよいか?」と尋ねたら…
八重神子:
信頼のおける者と共に、新たな環境で新たな体験に臨むとき…人はしばし心のたがを外すとの答えを得てな。先ほどの様子を見るかぎり、効果てきめんだったようじゃ。
旅人:
理屈は分かった…
夢見月瑞希:
悪意はなくても、相手は神子だよ?まったく警戒しないでいられる?
旅人:
…もっともだね。
八重神子:
ふふっ…
影:
…私のことを案じてくれていたようですが、それは杞憂です。例の件を話さなかったのは、此度の事件に関係しているとはっきり分かるまでは、調査に影響を与えたくなかったからです。
影:
もし調査が滞ったり、あの頃の「悪夢」と関係していることを示す手がかりが見つかったりすれば…あなたたちに相談するつもりでした。
八重神子:
「相談」か…汝に過去のことを話すよう迫った妾たちの思いを、まだ理解しておらぬようじゃな。
影:
…え?
梨絵:
た…助けて!
旅人:
なに——!?
旅人:
(影が心配してるのは…もしかして…)
夢見月瑞希:
外からみたい。行ってみましょ!
夢見月瑞希:
大変…人が倒れてる!
梨絵:
うっ…うぅ…
旅人:
まさか「悪夢」!?
影:
そうではなさそうです。確認しますから、下がっていてください。
梨絵:
うっ…あっ——
旅人:
…目が覚めた?
梨絵:
私、一体…えっ!しょ…将軍様!
影:
何があったのですか?ひどく怯えていたようですが。
梨絵:
しょ…将軍様…えっと…そ…その…
夢見月瑞希:
大丈夫、将軍がいらっしゃるんだから、誰もキミに危害は加えられない。さ、深呼吸して、何があったのか教えてくれる?
梨絵:
ふぅ…心臓が止まるかと思った…
旅人:
どうして?
梨絵:
さっき…何か食べようと思って、烏有亭に向かって歩いてたの…でも、橋を渡ったところで、木の後ろから誰かがこっちを見つめてるのに気付いたのよ!
梨絵:
暗かったから、その人の姿もぼんやりとしか見えなくて…怖かったけど、月明かりを借りてよくよく見つめてみたの。
梨絵:
そしたら——私にそっくりだったのよ!
梨絵:
「二重身」を見た人は、原因不明な死を遂げるっていうでしょ?その話を思い出して、恐怖のあまり気を失ってしまったの…その後のことはあんまり…
八重神子:
「二重身」?それが稲妻城周辺にも現れたのか?「悪夢」の痕跡は影向山の辺りに留まっておったはずじゃが…
梨絵:
影向山でも「二重身」を見た人がいるって聞いたけど…ま…まさか妖怪の仕業…?
夢見月瑞希:
状況は分かった。奉行所はすぐそこだから、一緒に届けを出しに行こう。
梨絵:
え…ええ。
八重神子:
…状況が悪化しているようじゃな。これまで「二重身」が現れたのは会場に限られていたゆえ、皆に恐怖が伝染せずに済んでおったが、ついに稲妻城の町にまで…
夢見月瑞希:
うん…でも、直接的な危害を受けてなくてよかったよ…
陽斗:
ほ、報告に参りました!
影:
天領奉行の者ですか…どうしたのです?
陽斗:
か…会場に…被害者が…か…河童が…「悪夢」に!
夢見月瑞希:
——ええっ!?
八重神子:
あそこには裟羅たちがおるというのに…一体どういうことじゃ…
影:
直ちに…影向山に戻りましょう!
妖狐:
…河童!河童!
夢見月瑞希:
ちょっと通して——あたしに診せて!
パイモン:
あっ…瑞希?旅人も!やっと帰ってきたのか!
九条裟羅:
将軍様!…申し訳ありません。私どもの警備不行き届きのせいで…
影:
起こってしまったことの悔恨に体力を使うことはありません。目撃者はいますか?
九条裟羅:
…残念ながら、おりません。敵の痕跡も見つからず…
一つ目小僧:
ぼくたち、ちょっと河童と離れてたんだけど、振り向いたら倒れてたんだ!
妖狐:
ぐすっ…きっと…恐ろしい大妖怪の仕業に違いない…
鹿野院平蔵:
現場には妖狸の変化のほかに、妖力の痕跡はない…手口を変えたか?
鹿野院平蔵:
待って…稲妻城でも事件があったのかい?
旅人:
うん、実は…
鹿野院平蔵:
「二重身」…「悪夢」…稲妻城と影向山…
八重神子:
瑞希、どうじゃ?
夢見月瑞希:
おかしい…悪夢を「感知」できない。まるで…死者みたい。
一つ目小僧:
きっと…大妖怪が…もっと強くなったんだ!
妖狐:
河童…ぐすっ…死ぬな…
九条裟羅:
…私の責任です!襲撃や敵の手口を予測することすらできませんでした…
影:
いいえ、敵を侮った私に責任があります。皆の安全を守りつつ、祭りを無事に開催できるだろうと高を括っていました…
影:
裟羅、他の参加者や職員の様子はどうですか?
九条裟羅:
…異常ありません。念のため、社奉行の当主に人々の避難と保護について依頼してあります。
影:
分かりました…ではこれより、三川花祭を中止とします——
八重神子:
待て。
影:
神子…何か?
八重神子:
性急に過ぎるのではないか?民の身を案ずる気持ちは分かるが、無暗に動いては敵の思うつぼじゃぞ。
八重神子:
影が誰よりも「悪夢」を警戒していることは百も承知じゃ…しかし、此度の敵…「悪夢」だけではあるまい。
影:
…どういうことですか?
八重神子:
ただの勘じゃ。さすが——こちらの鹿野院同心には、早くも思い当たる節があるようじゃが。
鹿野院平蔵:
…ご賞賛には及びません。いくつか推論を得ただけです。
鹿野院平蔵:
「悪夢の妖怪」の痕跡は現れたり消えたりを繰り返しつつも、影向山の麓辺りに留まっていた…しかし今回、突然稲妻城に「二重身」が現れた。
鹿野院平蔵:
もし追っ手から逃れるために会場に潜入したならば…あえて「二重身」の形で現れる理由はない。
鹿野院平蔵:
「悪夢の妖怪」が突然、空間移動の能力を手にしたと考えるよりも、別の線を考えたほうがいいだろう…
トーマ:
あれ?温泉に行かなかったのかい?
旅人:
トーマも行かなかったんだ?
トーマ:
ああ…前半組は人が多かったから。あとで証城たちや職員を誘ってオレも行くつもりだよ。
トーマ:
ただ、遊芸の進捗がちょっと芳しくないから、もうひと踏ん張りしないと。
旅人:
一番人数が多いチームなのに…?
トーマ:
ハハッ、オレがこだわりすぎてるせいか、一つ目小僧たちもいまいち手を動かしづらいみたいでね。
トーマ:
仕事を振り分けるのは、仕事をこなすよりも難しかったりするんだな…若の気持ちが少し分かった気がするよ。
旅人:
あまり無理しないでね。
トーマ:
うん、心配してくれてありがとう。君もね。
「鉄之助」:
ぬ…あとちょっとで逃げ切れる——
九条裟羅:
…これ以上お前たちに振り回されて将軍様の前で失態をさらすのはごめんだ!
「銀閣」:
ぬぅ…!天狗だ!
「金閣」:
飛んでやがる…天狗め、卑怯だぞ!
九条裟羅:
この場でお縄につけば、命は助けてやる。
「鉄之助」:
…なぜ人間なんかを助ける!?天狗も妖怪だろう?
九条裟羅:
ふん、愚問を。私は将軍様に忠誠を誓った身。人間も妖怪も、私の目にはなんら違いはない。
「銀閣」:
将軍…ぬ、人間たちのカシラ!
「金閣」:
…悪党を遣わせて土地を奪った…大悪党め!
九条裟羅:
でたらめを言うな。将軍様がいつそんな指示を出したと言うのだ!?
影:
裟羅、落ち着いてください。その者たちの話を聞いてみましょう。
「鉄之助」:
将軍が…人間を送り込んで、ボクたちのふるさとを奪った…
「金閣」:
それに三川花祭を開いて…妖怪を人間の奴隷にしようとした…!
パイモン:
奴隷?もしかして、遊芸のことを言ってるのか…?
「銀閣」:
うぅ…同族だけじゃない…夢喰いの大妖怪も、徹夜で働かされた…
夢見月瑞希:
えっと…昨日の夜のこと?あれはあたしが自分から望んでやったんだけどな…
パイモン:
こいつら、めちゃくちゃ勘違いしてるぞ…!
「銀閣」:
こ、来ないで!
「金閣」:
ぬ、人間がまたおれたちを奴隷にする気だ!
夢見月瑞希:
待って、この子たち…様子がおかしい!ちょっと方法を変えないと…
影:
その必要はなさそうです…彼らはすでに自らの「悪夢」に閉じ込められてしまっています。
「鉄之助」:
ぬ、何をする気だ…!ボクたちを捕まえて「化生現実」にするつもりか!
「銀閣」:
ぎ…銀閣は夜更かししたくない…ぬうぅ…
影:
奴隷や強制労働などと…傍から見ればおかしな誤解にすぎませんが、彼らの夢の中、そして彼らに見えている世界では…確たる事実となっているのでしょう。
影:
…絶望と恐怖に満ち、周りは敵で溢れかえり…一切の光が届かない、そんな世界。
パイモン:
つまり…こいつらは…「夢遊」状態にあるってことか?目覚めさせる方法はないのかよ?
八重神子:
…さような方法があるならば、とうの昔に使っておったじゃろう。
「金閣」:
ぬ…殺すなら早くしろ!狸の道に背くようなことは、絶対にしない!…働かされるくらいなら、死んだほうがマシだ!
旅人:
…方法ならあるかも。
影:
…ん?
旅人:
もし「悪夢」がアビスに由来するのなら…
「銀閣」:
ぬ…なにする気…や…やめて——
「鉄之助」:
…最近、人間がどんどん増えてる。ボクたちはいつまで隠れていられるのか…うぬぬ…
「金閣」:
いま、何年経ったんだ?百年?それとも、五百年か?
「銀閣」:
ぬぅ…思い出せない…五百蔵がいたら、覚えてただろうけど…
「金閣」:
しーっ!——誰か来る!
高田:
…ここの土地は上等だな。耕して畑を作れば、豊作間違いなしだ!
桐村:
周辺に妖怪の痕跡がないか、忘れず確認しろよ。将軍の特命だからな…
桐村:
…将軍の特命だからな。もし妖怪がいたら、一体残らず討伐しろって!
水川:
皆殺しはいかんだろう!少し残して、働いてもらわんと。故郷は自分の手で耕してもらわないとな!ははっ!
高田:
そういえば、三川花祭って知ってるか?祭りの収益の五割は、開発計画の資金に回されるらしいぞ!
水川:
ああ、聞いたよ。人間と…
水川:
…人間のための三川花祭だろ?妖怪のやつら、自分たちだけで楽しみやがって。今度は俺たち人間の番だ!
高田:
その通りだ!奴らを奴隷にして働かせてやる。変化の術に長けてるそうじゃないか?なら、その術でせいぜい楽しませてもらおうぜ!死ぬまでな!ははっ——
「鉄之助」:
そ…そんな…
「銀閣」:
しーっ…見つかるぞ…
桐村:
はっはっは…はっはっは!
「悪夢の断片」:
…フン…
高田:
ん?…あれはなんだ!?ひぃ…ああっ!
一つ目小僧:
おい…大丈夫か?妖狐!河童!人が倒れてるぞ!
河童:
今行くから…あ…あーっ!
「悪夢の断片」:
…フン…
「銀閣」:
ぬ、妖怪も…人間も…気絶した?
「金閣」:
まさか…道連れか?
一つ目小僧:
…三川花祭…
「鉄之助」:
こいつ!妖怪なのに喋ったぞ!
妖狐:
…いかん…三川花祭に参加しないと…トーマの親分が悲しむ…
妖狐:
…トーマの親分…に…食べられちゃう…
「鉄之助」:
——うぬぬ!
「銀閣」:
ぬ…どうしよう?人間が襲ってくる…また家がなくなるのかな…
「金閣」:
なら…三川花祭に潜入しようぜ!人間を全部追い払えば…きっともう来ない!
「鉄之助」:
でも、どうやって三川花祭に潜入すれば…?
河童:
トーマの親分…まじやべぇ…
「金閣」:
おれたちが…この三人の妖怪になれば…
旅人:
(これは…妖狸たちの記憶…?)
パイモン:
旅人!旅人!
影:
…旅人さん、具合が悪いのですか?
旅人:
…大丈夫。
「鉄之助」:
ぬぅ…こ…ここはどこ…
夢見月瑞希:
あれ?「悪夢」が消えた?…「浄化」されたの?
旅人:
ちょっとしたアビスへの対処法だよ。
「銀閣」:
ひぃ——っ!に…人間!妖怪もいっぱい!
「金閣」:
思い出した!人間は三川花祭でおれたちを捕まえようとしてたんだ…捕まえて…どうするんだっけ…?
鹿野院平蔵:
まだちょっと意識が混乱してるみたいだね。人間への警戒心が解けてない。
旅人:
ずっと隠遁生活を送ってたからかも…
鹿野院平蔵:
…隠遁生活?
先ほど見えた記憶をみんなに伝えた…
パイモン:
うぅ…「トーマの親分まじやべぇ!」って言いまくってたのも、その言葉ぐらいしか言えなかったからってことか…
パイモン:
よく考えたら、「秋津遊芸」を作ったのは一つ目小僧たちなのに、今回は全部トーマが作業を担当してたよな…最初から怪しさ満載だったぞ!
旅人:
後知恵バイアスならぬ、後平蔵バイアスだね。
パイモン:
えっ、どういう意味だ?オイラが平蔵ぐらい賢いってことか?
鹿野院平蔵:
ふふっ、まぁそういうこと。
八重神子:
ふむ、童の話からすると、こやつらは五百年前からずっと隠れて暮らして来て、五百蔵のことも知っておるということか…ならば、あやつに聞くのが早かろう。すぐそこじゃ。
影:
保生司正…五百年ぶりですね。裟羅、平蔵、「二重身」の件は解明しましたが、「悪夢」の脅威はまだ取り除かれていません。
影:
…あなたたちは会場に戻り、引き続き警備に当たってください。妖狸のことは、私が対処します。
鹿野院平蔵:
はっ、将軍様!
九条裟羅:
はっ、将軍様!
五百蔵:
金閣、銀閣、鉄之助…実はすべての人間が悪人というわけではないのだ。例えば、そこの金髪の小童は、これまで幾度となく吾輩を助けてくれた…
パイモン:
だいたい、五百蔵が人間に封印されたのも、大事なクシを盗んだからだろ…?
「鉄之助」:
五百蔵…泥棒したから捕まったって…自業自得?
五百蔵:
…あのクシが「神櫻大福」を作るのに必要だったなんて知るわけないだろう!大体、もう返してやったではないか!
「金閣」:
じゃあ、人間が悪いのか?
五百蔵:
ふむ…言うならば、吾輩はあの人間の小僧との勝負で…一瞬油断してしまい…だが、潔く負けを認め…とにかく、どちらが悪いということはないのだ!
パイモン:
自分に不都合なところを、めちゃくちゃごまかしてるな…
八重神子:
何はともあれ、これで分かったじゃろう。汝らを傷つけようとする人間などおらぬ。
「鉄之助」:
ぬ…ぜんぶ「悪夢」だったのか…
「銀閣」:
ぼくたち…五百年も無駄に隠れてたの…
五百蔵:
…フン。稲妻中の人間と五百年もかくれんぼできたのではないか?いったい何が残念なのだ?…それに、お前たちは勝ったのだろう?
「金閣」:
ぬ?おれたちの勝ち?…おれたち、すごいぞ!五百蔵よりもすごい!
五百蔵:
ま、待った——吾輩の「かくれんぼ」はまだ勝負がついておらぬだろう!
パイモン:
ポジティブだな…時々、妖狸が羨ましくなるぜ…
夢見月瑞希:
妖狸はそういう性質だからこそ、「悪夢」に侵されても、大きな過ちを犯さずに済んだんだろうね。
夢見月瑞希:
でも、一体誰の悪夢なのかな?五百年も続いていて、今なお影響を与えてるなんて…それに、影向山の地下に埋まっている角って…?
旅人:
そういう伝説、どこかで聞いたような…
八重神子:
「…かつて漆黒の景色に溺れた鬼族の武者が、大御所様に剣を抜いた。その者は片腕と一つの角を切り落とされ、森へと逃げたが、以降の行方は知れない。」——
八重神子:
こんなものもある…「…将軍の信頼できる将だったその者は、漆黒の深淵に陥り、虎の体と蛇の尾を持つこの世のものでない獣に飲み込まれたが、虎の腹を切り裂き一命をとりとめた…」
八重神子:
そこからそやつは「虎牙の千代」…あるいは「虎千代」と呼ばれるようになったのじゃ。
影:
…千代はきっと、その名を気に入ってはいないでしょうね。
影:
魔物の腹から抜け出して生き延びたものの…戦場を離れられないまま——
影:
仲間が引き裂かれる場面だけが目の前で絶えず繰り返される日々。次第に彼女は、夢と現を区別できなくなって行きました…
旅人:
(強い者が悪夢に囚われた場合…行動の自由は奪われないけど…その者自身がさらに痛切な悪夢となる…)
影:
…部下や家族、友人…世の中の素晴らしきものや喜びさえも、捻じ曲げられ、抹殺すべき敵と化した——
影:
そんな夢の中の戦場に、いつまでも閉じ込められていたのです…影向山で私に剣を向けたその日まで。
影:
「無想の一太刀」は彼女の片腕と一つの角とともに、山の一部を切り落としました…おそらく、その時に角が地中に埋まったのでしょう。
八重神子:
まさかそれが、妖狸どもに掘り出されるとはのう…しかもそこには、千代の悪夢の断片が宿っておった。
夢見月瑞希:
悪夢は、恐怖とか不安とかの感情を餌にしてる。前に旅人が見た光景と照らし合わせて考えると…
夢見月瑞希:
五百年にも及ぶ金閣たちの恐怖を餌に、悪夢はついに形を得て「地縛霊」みたいなものになったのかもね。
旅人:
「地縛霊」?
夢見月瑞希:
うん。地縛霊は地脈の中を通って動くけど、地脈によって縛られてもいる。だから妖力の痕跡は現れたり消えたりを繰り返すけど、基本的には影向山辺りに留まってるの。
八重神子:
どうやら、この「悪夢の断片」も、その主と同様…素晴らしきことや喜びの感情を敵とみなしたらしいのう。
八重神子:
未来に思いを馳せる幕府の調査隊を襲い、仕事を手伝いに行く優しい一つ目小僧一行を襲い…
パイモン:
それから…遊芸を楽しんで充実した一日を過ごしたオイラたちを襲った…
旅人:
どうしてその後は現れてないんだろう?
影:
あなたとの戦いで弱り、休養が必要になったか…あるいは、あなたには勝てないと残り僅かな理性で判断し、隠れているのかもしれません…
影:
…ですが、「悪夢」によって歪められた憎しみは、いずれ再び姿を現し、視界に映る「敵」を襲うことでしょう。
影:
千代は…一度標的を定めたら、決して逃がさない性格でしたから。
八重神子:
……
影:
…いずれにしても、「悪夢の断片」を倒すことは可能ということです。
影:
「倒せる」ものであれば…「夢想の一心」で必ず断ち切ることができます。
夢見月瑞希:
…ほかに方法はないのですか?
影:
「御輿千代」はすでに亡くなりました。この世に残っているのは彼女の「悪夢」の断片にすぎません。大切なのは、今生きている者の命。去りし者に…執着することはありません。
旅人:
(将軍が再び「悪夢の断片」に「夢想の一心」を振り下ろす…そんなことをして本当に大丈夫だろうか?)
旅人:
(神も「心の病」にかかるって、瑞希は言ってた…それに、去りし者が生きている者に残した想いはどうなるの…?)
八重神子:
…去りし者の心配などしておらぬ——
八重神子:
妾が案ずるのは「生きる者」じゃ。
影:
……!神子、何が言いたいのですか?
八重神子:
ふふ、金閣と銀閣、鉄之助のことを言っておる——
「鉄之助」:
——ぬ?ボクたちのこと?
八重神子:
「悪夢の断片」は五百年近くも妖狸どもと共にいた。汝の一太刀が振り下ろされれば、何らかの因果の絡みで、こやつらも巻き込まれるやもしれぬぞ。
「銀閣」:
ぬ…うぬぬ!?
五百蔵:
しょ…将軍様、どうかそれだけは!小僧どもはただ一瞬…いや、五百年間、判断を誤っただけで…
影:
神子…本気で言っているのですか?
八重神子:
信じられないというなら、瑞希と童に聞いてみるといい。世界を渡り歩いてきたあやつらなら、似たような事例を見たやもしれぬ。どうじゃ?
夢見月瑞希:
そんなことは…あ。
夢見月瑞希:
…ええ、神子の言う通りです!遊学中に遭遇しました。璃月と、それからナタでも。
旅人:
そうそう、俺も。
影:
では…ほかに案はあるのですか?「悪夢の断片」は稲妻の民にとって脅威となる存在です。ほかの策がないというならば…私が何としてでも食い止めます。
夢見月瑞希:
…世界に対する悪意の断片が「悪夢」に由来するなら、最も合理的な方法は「悪夢」そのものをどうにかすること…
パイモン:
そうだ!瑞希が「悪夢」を食べちゃうのはだめなのか?
影:
…それはすでに五百年前、夢喰い獏の一族に試してもらいました。しかし、その時も昨日と同じように、人々の症状を和らげることしかできませんでした。
八重神子:
あの時なすすべがなかったからといって…今もそうとは限らぬじゃろう。今の瑞希の話で、一つ案が浮かんだのじゃ——悪夢そのものを取り除けないのなら…
八重神子:
夢境には夢境を、幻覚には幻覚を——「美しき夢」で「悪夢」を変えてしまうというのはどうじゃ。
パイモン:
そ、そんなことできるのか?
八重神子:
なに、稲妻で最も変化に長けた妖怪が目の前におるじゃろう。
「金閣」:
ど…どこだ?ぜんぜん気付かなかった!
「鉄之助」:
もしかして、木に変化したのか?それとも、風?
五百蔵:
馬鹿者!我輩たち妖狸一族のことに決まっておるだろう!金閣、鉄之助、アホなことを言うでない!
八重神子:
数百年もの間、悪夢の断片と共に過ごしてきたこやつらが作る夢境なら、「悪夢の断片」も見分けがつかぬじゃろう。
影:
…当時、「悪夢」の守りは極めて固く、ほとんど付け入る隙がありませんでした…何を機に妖狸を作戦に当たらせるか、目星はついているのですか?
八重神子:
今残っているのは往日の「御輿千代」ではなく、彼女の悪夢の一部にすぎぬ、と汝も言っておったじゃろう?そもそも不完全なものなのじゃ。
八重神子:
それに…妾の旧友を甘く見るでない。諸国を渡り歩いたこやつの「夢」の領域における造詣は深い。昔の夢喰い獏など、比べ物にならぬ。
夢見月瑞希:
え…
旅人:
どうしたの?
夢見月瑞希:
素直に褒めてくれるから、びっくりしちゃって…とにかく、神子の言う通り。みんなで協力して儀式を執り行えば、きっと「悪夢の断片」を完全に封印できるはず。
八重神子:
儀式で張った結界が効力を発揮するまでは、少々時間がかかるのじゃが…幸い、こちらは強大な戦力を抱えておる。
八重神子:
——漆黒の力に対抗する「代表」と天下無双の「将軍」…時間稼ぎには十分じゃろう?
夢見月瑞希:
でも、「悪夢の断片」は地脈を通って動くから、場所の特定が難しいよね?どうやって結界まで誘導するの?
八重神子:
その答えも…目の前にある。「悪夢の断片」はすべての喜びを敵と見なす。ならば…
八重神子:
喜びが大きければ大きいほど、やつにとっては耐えがたき敵となり、何としてでも討とうとするじゃろう…
夢見月瑞希:
つまり、おとりは…
パイモン:
——三川花祭だな!
八重神子:
ふふっ、締め切りまでに原稿を仕上げられた瞬間ほど、「喜ばしい」ものはなかろうに?
影:
…それはどうでしょう…ともかく、三川花祭が盛大に開催されれば、悪夢の断片にとって最大の標的となることは間違いありません。
影:
今度こそ…敵が現れれば間髪入れず「一心浄土」に引きずり込みます。そうすれば、他の人を巻き込まずに済むはずです。
影:
旅人さん、私とともに「一心浄土」に入り、「悪夢の断片」の足止めに力を貸してくれませんか。
旅人:
もちろん。
八重神子:
なら、妾は各隊に真実を伝えたうえで、儀式の準備に取り掛かるかのう…瑞希もついてくるがよい。今晩は忙しくなりそうじゃの。
夢見月瑞希:
今日も徹夜かな。
八重神子:
…汝の発案じゃろうが?そうじゃそうじゃ、「子狐の白昼夢」も、きちんと完成させてもらうぞ。
夢見月瑞希:
やっぱり、あたしの「悪夢」は神子だ——!
旅人:
うん!
影:
はい。あまり長居はせずに帰って来ましょう。
旅人:
もう少し待って…
影:
ええ、待っています。
パイモン:
よう、五百蔵!
五百蔵:
むにゃ…ぬ、騒がしいな…こんな時間にぞろぞろと…石になった身にも休憩は…必要——
五百蔵:
こ…これは将軍!ご挨拶を…うう、石の身では腰を曲げられない…ど、どうすれば…
影:
気にしないでください、隠神保生司正。
旅人:
なんで五百蔵は影に恐縮してるの…?
八重神子:
ふふ、こやつは御苑で鳴草を盗もうとしたことがあるのじゃ。一歩間違えば、影の剣でヤシオリ島の形にさばかれてしまうところじゃった…
五百蔵:
——クソ狐が!聞こえているぞ!
影:
…五百蔵、尋ねたいことがあって来ました。
五百蔵:
——ええ、ええ、なんなりと!知っていることならなんでも話します!知らないことでも話します!
パイモン:
態度がぜんぜん違うな…
夢見月瑞希:
ふぅ…ちょっと待って…この子たちったら、なかなかついてきてくれなくて、なだめるのが大変なんだ…
「鉄之助」:
あっ——五百蔵!
「金閣」:
——やっぱり、人間に殺されちゃったのか…!
「銀閣」:
——しかも、石にされちゃってる…!!
五百蔵:
うぬぬ!?——吾輩はまだ生きているぞ!!
「銀閣」:
ぬ…ほんとう?狐のうそじゃない?
「鉄之助」:
この匂い、やっぱり五百蔵だ。本当に生きてるのか?
「金閣」:
五百蔵!——人間に封印されたんだな!
五百蔵:
ぬ?この匂いは…金閣…銀閣…それに鉄之助?封印されたのではなかったのか?
「鉄之助」:
ぬ…あの惟神晴之介という人間がボクたちを害そうとしたけど…
「銀閣」:
ぼくたちは必死に逃げて、隠れてを繰り返した…でも、人間は血眼になって追いかけてきて…動ける仲間はどんどん減っていって…妖力も底をついたんだ…
「金閣」:
ぬ!そこで大妖狸「九百九」の逃げ技を真似て…穴を掘って逃げようとした!
「鉄之助」:
そしたら…大妖狸「偽一郎」が助けてくれたのか…なんと、妖力もりもりの「角」を掘り出せたんだ!
「金閣」:
角のおかげで、妖力は一瞬で回復した!そして、ズバーン、ドッカーン、シューッ…!
五百蔵:
おぉ…!ズバーン、ドッカーン、シューッ!その後はどうなったのだ?
「金閣」:
…人間の目を盗んで、逃げおおせた!
五百蔵:
…なんだ、惟神晴之介の小僧を懲らしめたわけではないのか…
「銀閣」:
その後も、角の力のおかげで…人間にばれずにいられたんだけど…人間がどんどん増えて、隠れるのが難しくなった…
夢見月瑞希:
妖力に満ちた角…妖狸たちが「悪夢」に囚われて、すべての人間を悪人とみなすようになったのはそのせい?
夢見月瑞希:
角に宿る妖力のおかげで隠棲できたけど、その角に残された悪夢に侵されて…五百年間、不安に苛まれながら生きてきたんだね…
五百蔵:
コホンッ、吾輩は知っていた…外の物を借りる行為は、狸の道から外れておる。だから、必ず悪い結果を招くのだ!
「金閣」:
ぬ!おれたちが…狸の道から外れたというのか?
「銀閣」:
でも…あの角のおかげでぼくたちは人間から逃れられた…人間はぼくたちの土地を奪おうとした…!
影:
…その逆です。幕府が事前に観測隊を派遣したのは、妖怪が住んでいる場所を調べ——
影:
その場所を避ける…あるいは双方の話し合いによって、平和に事を進めるためでした。
「鉄之助」:
——そ…そうだったのか?
「銀閣」:
ぬ、たしかにあの時…そんなことも言っていたような…
桐村:
——将軍の特命だからな…もし妖怪がいたら、よく話し合えって…
影:
旅人さん…明日は決して無理をしないでください。敵の攻勢が激しければ…私に任せてください。
旅人:
でも…
影:
心配には及びません…これ以上語らずとも、お互いの心中は分かり合っているはず。明日の決戦に備え、今夜はゆっくり休んでください。
影:
……
影:
…それから、ありがとうございます。
「鉄之助」:
大妖怪、本当に自ら望んで徹夜するのか?
夢見月瑞希:
うん、そうだよ。
「金閣」:
大妖怪は、どうして働く?
夢見月瑞希:
…大妖怪になった代償、かな。
「銀閣」:
大妖怪、かわいそう…
八重神子:
五百蔵、罰としては充分じゃろう。そろそろ出してやろうか?
五百蔵:
ぬ、ぬ、罰とは無礼な!吾輩は望めばいつでもここから出られる!石の中は冬は暖かく夏は涼しいのだ。ほっといてくれ!
「金閣」:
——五百蔵、すごい!
「銀閣」:
——五百蔵、すごい!
「鉄之助」:
——五百蔵、すごい!
五百蔵:
…どうせ封印の力も直に消える…コホン、それより、あのクソ狐宛てに伝言を頼みたい。
八重神子:
…五百蔵、あやつはもう…
五百蔵:
ぬ!また吾輩を騙そうとしているんだな?あいつ本人の口から聞くまでは、そんなでたらめ、信じるものか!
鹿野院平蔵:
——現れた時間と場所が偶然にも重なったことから、天領奉行はその二者を同一視してしまった。
鹿野院平蔵:
「悪夢の妖怪」を一旦脇に置き、「二重身」にまつわる事件だけを考えれば…犯人の目的は想像に難くない。
鹿野院平蔵:
うん、「二重身」の怪談は稲妻では広く知られてる。犯人はちょっとした変化の術で姿を見せるだけで、人々に恐怖をもたらすことができる。
鹿野院平蔵:
会場に天領奉行の警備体制が敷かれてから、犯人は稲妻城にも姿を現した。恐怖を伝染させるにはうってつけの場所ってわけさ。
九条裟羅:
だが、なぜそんなことを?怖がらせたかったというのは…動機としては不十分な気がするが。
鹿野院平蔵:
そうだね。それは手段に過ぎない。逆に言えば、「目的」が達成されない限り、また同じ場所で同じことを繰り返すだろうね…
鹿野院平蔵:
そして犯人が「稲妻城」を新たな標的として移動したなら、初めにやつがいた場所には「空き」ができてしまう…
鹿野院平蔵:
不在に気づかれないため、そしてさらに恐怖を拡大させるため、犯人はその地に…
鹿野院平蔵:
——「身代わり」を残す必要があった。
妖狐:
ひぃ——!
一つ目小僧:
ひぃ——!
パイモン:
か…河童が!?木だったなんて…!
夢見月瑞希:
道理で「悪夢」を感知できなかったわけだ!
影:
なるほど…「二重身」の犯人は河童のフリをして会場に潜入し、今は稲妻城に身を潜めている…ということですね?
鹿野院平蔵:
それだけではありません。一人ではバレる可能性が高い…しかし、同時に複数人に扮していれば、互いに援護することだって可能です。
トーマ:
…前回の肝試し大会じゃ、あんまり交流できなかったけど——
パイモン:
…一つ目小僧たち三人はずっと一緒にいるから、もし誰かに問題が起きたら気づくはずだよな?
鹿野院平蔵:
そういえば、こういう変化の術って、びっくりすると「しっぽを掴まれ」やすくなるって聞いたけど…本当なのかな、「妖狐」さんと「一つ目小僧」さん?
妖狐:
——!
一つ目小僧:
——!
パイモン:
——あっ、妖狸のしっぽだ!
「鉄之助」:
——逃げろ!金閣、銀閣!
「金閣」:
——て、鉄之助!
「銀閣」:
——て、鉄之助!
パイモン:
ゴホッ…ゴホッ…あいつら、逃げたぞ!
「銀閣」:
い、稲妻城に残ってって言ったのに!
「鉄之助」:
…金閣と銀閣を置き去りにするなんて…狸の道に反する!
「金閣」:
——喧嘩してる場合か!?早く逃げるんだ!
パイモンと一緒にこっそりと後を追って、会場の外に出た…
パイモン:
あいつ、途中で何度も振り返ってた…やっぱり怪しいぞ!
旅人:
言い切るには早い。もう少し様子を見よう。
パイモン:
そうだな。あいつ、誰かに会いに行くみたいだ…不意打ちを食らわせてやろうぜ!
天領奉行衆:
…ただいま戻りました。「幻夢の分身」に異常はないようです。おそらく昨夜の異常現象とは関係ないかと…
九条裟羅:
ふむ…他に怪しい点は?
パイモン:
裟羅!?
鹿野院平蔵:
おはよう、旅人、パイモン。
パイモン:
へ、平蔵!?なんでおまえまで…
鹿野院平蔵:
天領奉行の密偵を尾行するなんて、どんな大それたやつかと思ったら、まさか君たちだったとはね。
九条裟羅:
旅人、パイモン…
天領奉行衆:
も、申し訳ございません…!私が未熟なばかりに…まったく尾行に気づけず…
九条裟羅:
…相手が彼なら仕方ない。
パイモン:
えっと…それで、いったいどういうことだ?天領奉行はなにを調べてるんだよ?平蔵まで動いてるなんて…
鹿野院平蔵:
それはだね…あははっ…
九条裟羅:
…命令があってな…申し訳ないが、伝えることは出来ない。
パイモン:
えっ?命令?…オイラたちにも教えられないのか…
旅人:
(平蔵と裟羅がこうも言い淀むなんて、そんな命令を出せるのは稲妻に彼女しかいない…)
旅人:
…将軍の命令だね。
九条裟羅:
……!
影:
事態は切迫しています…彼には真相を教えましょう。
九条裟羅:
将軍様…!
パイモン:
ええっ!?将軍がどうしてここに!?
旅人:
いや…影のほうだよ。
影:
…ひと目見ただけで分かったのですか?
九条裟羅:
将軍様、まだこの者については調べておらず…
影:
構いません。この者はまさに、私たちの友人である「旅人」だと、私が断言します。
影:
目つきや気配、体内から湧き上がる複数の元素の力…どれも偽物ではありません。今この時、まさに彼の助けが必要です。
九条裟羅:
…かしこまりました。昨日、天領奉行は幕府からこのような報告を受け取った——開発計画と土地観測を行う調査隊を派遣したところ、野外で気絶している人を発見したと。
九条裟羅:
…意識を失っているだけでなく、どうやら底なしの悪夢に囚われ、目覚められないようだ。
高田:
や…やめろ…
桐村:
…来るなッ!!
九条裟羅:
彼らが倒れていた場所には、ほのかに妖力が残っていた…その痕跡を辿っていくと三川花祭の会場近くに着いた。
パイモン:
な、なんだって!?
旅人:
なら、三川花祭は中止にしたほうが…
九条裟羅:
そう簡単にはいかない。会場に広まっている「二重身」の噂は、お前たちも聞いただろう?
九条裟羅:
犯人は姿を変え、人を惑わす能力を持っていると思われる。今現在も…もしかしたら、会場に紛れ込んでいるかもしれない。
鹿野院平蔵:
それを明らかにしないまま三川花祭を中止すれば、中に潜んでいる犯人は、混乱に乗じて逃げ出すだろう…
鹿野院平蔵:
ほんの少し動きを大きくするだけで、相手に悟られるおそれがある。全面的に封鎖すれば犯人は警戒し、一般人にまた危害が及ぶかもしれない…
パイモン:
たしかに…そのリスクはあるな…
影:
今回の三川花祭は、人間と妖怪の交流を促すために踏み出した新たな一歩…そのような事態は許されません。
旅人:
でも、また被害者が出たら…
鹿野院平蔵:
うん、だから夜中に天領奉行の兵を大量に変装させて、会場に潜入させたんだ。
鹿野院平蔵:
道を修繕するという名目で、近くの道に詰所も設置した。一般市民には出来る限り遠ざかってもらえるように…
九条裟羅:
…将軍様も労を惜しまず、一晩中辺りの見張りをされていた。
影:
…幸い、新たな犠牲者は出ませんでした。
旅人:
…ありがとう。
パイモン:
あっ!あの雷って、おまえの仕業だったのか!
九条裟羅:
…私どもの力不足で、将軍様のお手を煩わせてしまいました。
影:
私の独断です。あなたたちが気に病む必要はありません…昨夜は犯人を追っても埒が明かなかったため、あなたの無事を見届けたのち、神子に相談しに行くことにしたのです。それゆえ、姿を見せられませんでした。申し訳ございません。
パイモン:
そうだ…神子といえば、あいつはどこにいるんだ?
影:
…神子には付近の妖力の痕跡を調べてもらっていました。その妖力は現れたり隠れたりしているものの、やはり影向山に留まっています。
鹿野院平蔵:
もし犯人が会場に紛れ込んでいるなら…きっと今もそこを離れていないだろう。
鹿野院平蔵:
昨夜、会場とその近くにいたのは、一部の職員を除いて、神社で寝泊りできるよう手配されていた「作り手」たちだ。
影:
神子はいま社奉行の神里兄妹に同行して、職員の正体を密かに確認しています。じきに結果が出るはずです。
影:
そして会場にいる「作り手」たちの確認ですが…神子の手が離せない今、他の人にやってもらう必要があります。
旅人:
俺に頼みたいってこと?
影:
…現状、天領奉行が表立って介入するのは適していません。しかし「審査員」の身分で「作り手」に質問するのは、ごく自然に見えます。
パイモン:
つまり…会場に話をしにいって、怪しい人物を探せばいいんだな?
影:
まさにその通りです。旅人さん、友人を疑い、探るのは心苦しいと思われるかもしれませんが…
影:
しかし、もし友人が本当に妖怪とすり替わっていたら、おそらくもっと危険な状況となるでしょう…
旅人:
…分かった。協力する。
影:
ええ。すべてが…杞憂だといいのですが。
パイモン:
おまえたちは、これからどうするつもりだ?裏で調査を続けるのか?
鹿野院平蔵:
裏で動いても手に入る情報は限られてる。現場に入る方法を考えないとならない。万が一の事態に備えるなら、やっぱり会場にいるほうが対応しやすいしね。
九条裟羅:
しかし、将軍様の貴い身分で、理由もなく会場に入れば、大きな騒ぎを引き起こすかもしれません…
影:
心配する必要はありません。その点はすでに神子と話し合っています。彼女は妙計を思いついたと言っていました。ただ、まだ少し準備が必要とのことです。
パイモン:
うっ…神子の「妙計」か…
旅人:
嫌な予感…
影:
…あなたの心配も分かります。ですので、彼女の準備が整う前に…先に手がかりを見つけていただけると、こちらとしてもありがたいです。
旅人:
(みんな遊芸の準備で忙しいみたい…また後にしよう。)
旅人:
(みんな遊芸の準備で忙しいみたい…また後にしよう。)
鹿野院平蔵:
うん、興味深い…犯人の動機と手口には矛盾があるような気がする。一体どこから矛盾が生まれたんだろう?
九条裟羅:
せっかく将軍様が心から楽しんでおられるのだ…ふん、悪党どもに三川花祭を荒らさせはしない。
旅人:
敵は二つの能力のほかにも、瞬間移動したり、気配を消したりする力を持ってる…?そんなデタラメな…八重堂の小説じゃあるまいし…
旅人:
変身したのは逮捕されないようにするため?…でも、「悪夢の妖怪」じゃないなら、そもそも捕まる理由もない…
「銀閣」:
ぬ…もう無理だ!人間に追いつかれるっ!
パイモン:
あいつら…とまれ——!
「金閣」:
——アホか、それで止まるわけないだろうが!
旅人:
(みんな遊芸の準備で忙しいみたい…また後にしよう。)