arrow_back 原神 クエスト
春光が描く桃符・第一回
耽る璃月の佳節、八奇現れ瘴気隠る
任務一覧
今年も海灯祭がやってきた。璃月港では、どんな物語が繰り広げられるのだろう…
胡桃:
……
パイモン:
おっ、胡桃がいるぞ!
パイモン:
でも、なんか悩んでるみたいだな。挨拶しに行こうぜ?
香菱:
わっ!!元気してた?
パイモン:
うわっ!?香菱!
香菱:
えへへ、ちょっと驚かそうと思って…びっくりした?海灯祭を祝して!
パイモン:
海灯祭を祝して!今、胡桃に挨拶しようと思ってたんだ。
香菱:
だろうね。だから止めたの。今は邪魔しないほうがいいよ。じゃないと、新しい胡桃に会えなくなっちゃう。
旅人:
新しい胡桃?
香菱:
うん!服をプレゼントしたの。でも胡桃、往生堂の服のほうが慣れてるからか、着替えるのを迷ってるみたい。
パイモン:
わあ、どんな服なんだ?
香菱:
ふふん、せっかくの海灯祭でしょ?お祭りの雰囲気にピッタシのやつだよ!
香菱:
胡桃ってば、最近ずっとそわそわしてるんだ。遊びに誘っても、断られるか、一緒にいてもボーっとしてるかで…
香菱:
どうしたのって聞いても、はぐらかされちゃうんだよね。ずっと心ここにあらずって感じ。だから、親友として何とかしなきゃって思って!新しい服を着たら、気分も晴れるかもしれないでしょ?
パイモン:
やっぱり、なにか悩んでるんだな…
でも楽天家の胡桃が、一体どんな悩みを抱えてるんだろう?
——すると突然、ヒンヤリとした感触が背後から両目を覆った。
胡桃:
だーれだ?
胡桃:
おやおや、旅人。最初に思いついたのが鍾離さんだなんて。この堂主、悲しいよ。
旅人:
なんてね。海灯祭を祝して。
胡桃:
にひひ、海灯祭を祝して!
パイモン:
わぁ!胡桃、新しい服に着替えたんだな。すっごく可愛いぞ!
胡桃:
香菱にお礼を言わないとね。フォンテーヌの仕立屋に作ってもらったらしいけど、大変だったでしょ?
香菱:
そんなことないよ。ちょうど璃月港に仕立屋さんが来てたの。異国のお祭りから着想を得たいって言ってて、いい機会だからお願いしてみたんだ。そしたら、快く応じてくれてね。だから全然大丈夫。
胡桃:
そうなんだ。ありがとう、香菱。すごく気に入ったよ!
香菱:
えへへ、そう言ってもらえてよかった。
旅人:
胡桃、悩みごとでもあるの?
胡桃:
ん~?どうしてそんなこと聞くの?春風のように、柔らかい口調をしてるのに。
香菱:
胡桃。親友なんだから、何かあればすぐ気付くよ。
胡桃:
あははっ、分かった分かった。別に隠そうとしてるわけじゃないよ。ただ、その悩みっていうのは仕事のことでさ。
香菱:
仕事の?じゃあ往生堂のこと?
胡桃:
そ、これで分かったよね?もともと私の仕事なわけだし、それに今は海灯祭でしょ。みんなに心配させるのも気が引けるじゃん?
胡桃:
ま、安心して。堂主の私にかかれば問題ないから!
パイモン:
仕事のことで悩んでたのか!でも胡桃を悩ませるなんて、かなりの難題なんだな?
胡桃:
そりゃもう相当ね!この堂主の頭を何日も悩ませるんだもん。
旅人:
じゃあ、刻晴のところに行こう。
パイモン:
ん?刻晴のとこに?
旅人:
休むことが大切だって教えてくれるはず。
香菱:
そうそう!せっかくのお祭りでしょ?総務司が新しく「遊楽会」っていうのをやってるらしいし、面白いものがたくさんあるはずだよ。
香菱:
お仕事のことは忘れてさ、一緒に見に行こうよ!
パイモン:
おう!息抜きしてからのほうが、きっと仕事もうまく行くぞ。
胡桃:
う~ん、残念だけど、このあと人と会う約束があるんだよね…あ、断るための言い訳じゃないよ。
パイモン:
え?そんなに忙しいのか?
胡桃:
こうしよ。みんなは先に会場に行ってて。用事が終わったら探しに行くから。どう?
香菱:
そっか、じゃあ仕方ないね…でも早く来てよ。今日のご飯はアタシが腕を振るっちゃうから、あとで万民堂にも行こう!
胡桃:
やったぁ!香菱のごちそう!
パイモン:
えへへっ、待ち遠しくて、今からもうよだれが出てきちゃいそうだぜ。
旅人:
胡桃、仕事がうまくいくよう祈ってるよ。
胡桃:
うん、ありがと。先に遊んでて。仕事が終わったら、ダッシュで駆けつけるから!
刻晴:
ここは祝灯状を書く屋台よ。気に入った柄を選んで、お祝いの言葉と共に友人へ贈るの。
刻晴:
藍硯も興味があったら一枚どう?
藍硯:
これは?普通のモラとは違うみたいだけど…
刻晴:
ああ、これは吉語銭といって、流金庁が特別に作ったものよ。十二種類あって、璃月の古岩紋が刻まれているの。どれも縁起物ね。
刻晴:
例えば、この模様は…
藍硯:
兜跋毘沙紋!元は降魔印で法術に使われてたけど、今は厄除けやお守りとして商人たちに好まれてるんだよねッ!
藍硯:
あっ!興味のあるものだから、つい熱く…へへっ、ごめんごめん、玉衡様。
刻晴:
ふふっ、大丈夫よ、藍硯。
刻晴:
藍家のご祖先様は沈玉の谷に存在した十二の民のうちのひとつで、長い歴史を有し、法術に長けていたと聞くわ。さすがの知識ね。
藍硯:
ありがと、玉衡様!でも私のところは分家だし、本家ほど有名じゃないけどね。
刻晴:
そう謙遜しないで。今の璃月港で古岩紋が分かる人はごく僅かなんだから。
刻晴:
そういった知識を持っているだけで、才能ある人だって言える。そこに本家も分家も関係ない。いつか、藍硯に教えを請う機会があるかもしれないわね。
藍硯:
えへへ~、照れるなぁ。でも玉衡様のお役に立てるんなら、何でもお答えするよ。
パイモン:
刻晴!やっぱりこの会場で一番忙しくしてるのはおまえなんだな。
刻晴:
旅人にパイモン、それに香菱も。こんにちは。ちょうど今朝、そろそろ会える頃かなって思ってたの。
旅人:
刻晴、休むことを忘れないでね。
刻晴:
ふふっ、そうからかわないで。今年の海灯祭は、総務司も結構工夫しているのよ。
刻晴:
あっ、紹介を忘れるところだったわ。こちらは藍硯、沈玉の谷の工芸品組合に所属する職人よ。
刻晴:
総務司の招待で、海灯祭の準備を手伝ってもらっているの。あとで藍硯の作品も見れると思うわ。
パイモン:
へえ、職人さんなのか。よろしくな!
刻晴:
藍硯、こちらは…
藍硯:
旅人とその仲間のパイモン、それに香菱でしょ。会えて嬉しいよ!
刻晴:
ふふっ、藍硯たら、また興奮しちゃって。
藍硯:
あっ!ごめんなさい…えへへっ、君たちの話は聞いたことあったけど、まさか本人に会えるとは思ってなかったから、つい…
香菱:
アタシはただの料理人だし、そう興奮するような話はないと思うけど?
藍硯:
そんなことないよっ!璃月港に着いて最初に食べたのが万民堂の料理だったの。香菱の料理にどれほど感動したことか!
旅人:
こんにちは、藍硯先生。
藍硯:
藍硯でいいよ。ただの工芸職人だし、先生だなんておそれ多いもん。
刻晴:
先生かどうかは、作品を見れば分かるわよ。みんな、ついて来てくれる?藍硯の作品を見に行きましょう?
刻晴:
これは総務司が遊楽会のために用意した「八奇乱闘」という遊びよ。籐人形を操って対戦するの。
刻晴:
法術の施された籐人形は全部で八つ、自由に動かせるようになっているわ。いずれも藍硯が伝説の八奇仙をモデルに作ったの。不思議でしょ?
パイモン:
なんだかすごそうだな。でもその「八奇仙」ってのはなんだ?八人の仙人か?
刻晴:
本物の仙人ではなく、神通力を持った伝説にうたわれる人物よ。その方たちのことをまとめて八奇仙と呼ぶの。
パイモン:
おおっ、聞いたことない物語だな!
刻晴:
八奇仙が活動していた時期はとても短く、それに今から二、三千年も前のことで、仙人の物語ほど有名じゃないからね。
刻晴:
璃月港に着いたとき、今年の明霄の灯は見たかしら?
パイモン:
おう、あの大きな木のことだよな?
刻晴:
ええ。魔神戦争の時代、璃月には神山があった。そこには大きな木——「桃都」という名の魔神がいたと言われているの。
香菱:
あっ!講談師から「八奇煉桃都」って話を聞いたことあるよ。じゃあ、あの大きな木が「桃都」なんだ?
旅人:
「桃都」は木なのに魔神なの?
刻晴:
そうよ。「桃都」の背後には死者の地があって、生前に多くの罪を犯した魂は「桃都」を越えられず、彼岸に辿り着くことができないと当時の人々に信じられていたの。
藍硯:
私の地元じゃ今でも、「死んだ後、桃都の山を越えられないぞ」って言葉があるんだよ。でもそれは人を責めるときに使うものだから、軽い気持ちで言わないようにね。
刻晴:
やがて魔神戦争が始まり、「桃都」は戦争の災禍に巻き込まれてしまった。そして、生と死の地に変化が起こり、幽冥は乱れ、死が生の領域を侵食し始めた。
パイモン:
えっ?それでどうなったんだ?
藍硯:
その時の出来事が「八奇煉桃都」で語られてるんだよ!彼らは突然現れ、大きな法陣を描くと魔神の「桃都」を「煉化」したの。
刻晴:
ええ。その後、「桃都」の神骸は地脈に沈み、璃月の生と死を隔てる境界となった。
パイモン:
璃月の生と死の境界って、そうやってできたのか!?
藍硯:
伝説じゃそうだけど、実際どうだったかは分かんないよ。
パイモン:
魔神をどうにかしちゃうなんて…その八人、ほんとすごいな。なのに仙人じゃないのか?
藍硯:
うん。仙人じゃないし、そのほとんどが人間なの!
香菱:
アタシもちょこっと聞き覚えがあるな。たしか物語の中でその人たちって、何人かで一組だったよね…帰蔵とか、連山とか…
藍硯:
帰蔵三隠、連山{RUBY#[D]れんざんにけん}二賢、そして桃都{RUBY#[D]とうとさんよう}三妖——合わせて「八奇」になるの。主流の言い伝えによると、帰蔵三隠と連山二賢の人たちが人間だったみたい。
刻晴:
璃月に伝わる奇門占術は、帰蔵三隠の「万象風角霊官」が創始者だそうよ。
刻晴:
私の記憶が正しければ、その方は沈玉の谷に住む十二の民の出身で、奇門占術を後世に残したの。そして、藍家のご先祖様でもある。そうよね、藍硯?
藍硯:
家系図を見る限りはね。奇門占術——その大本の奇門法術については、ほんのちょっとしか学んでないけど。
刻晴:
もう一つ興味深い話があるわ。帰蔵三隠のもう一人、「雲来釣爺」という方は、不思議な釣りの技を身につけていたそうよ。
刻晴:
私が学んだ雲来剣法、そしてそれよりも前の雲来古剣法はみな、「雲来釣爺」の釣りの動きから変化したものだって言われている。
香菱:
へぇ、行秋が教えてくれた民話の武侠物語みたい。
パイモン:
なるほど…三隠って言ってたけど、最後の一人は?
刻晴:
最後の一人は「無妄童子」、またの名を「無妄の翁」。子供のような見た目をした隠者で、岐黄の呪符を使って妖魔を払い、病を癒す力があったとされているわ。
刻晴:
この方については往生堂が一番詳しいはずよ。往生堂の創始者たちは、「無妄童子」に師事していたそうだから。
刻晴:
往生堂の方々は人間でありながら、生身で生と死の境界を守り、数多の試練を乗り越えてある秘術を習得した。そして、それを今日まで受け継いできた。
藍硯:
ってことは、往生堂には何かしらの秘術がホントにあるんだ?
香菱:
胡桃から聞いた話だと、往生堂には代々伝わる火のついた棒のようなものがあって、それを使ったすごい浄世の儀があったらしいよ。
香菱:
真実かどうかは分からないけど…あっ、藍硯はまだ胡桃のことを知らないよね?彼女は往生堂の現堂主なんだ。
藍硯:
胡堂主の名前なら聞いたことあるよ。まだ一度も会ったことはないけど。
パイモン:
へぇ、その帰蔵三隠ってすごかったんだな。それで「二賢」と「三妖」は?
刻晴:
二賢は瓢箪使いの「瓢箪真人」と、銅鏡使いの「鑑真人」ね。
刻晴:
ただ、その二人に関する記録は少なくて、連山の秘術を学んでいたことだけが知られているため、「連山二賢」って呼ばれているの。
藍硯:
石門の南の山奥に隠された密宮があって、そこは彼らが残した道場だって聞いたよ。
刻晴:
そして三妖は、桃都の山で修行していたことから「桃都三妖」と呼ばれている。名前に「妖」とあるように人間ではないわ。
パイモン:
つまり…妖魔ってことか?
刻晴:
…甘雨?
パイモン:
えっ?甘雨が「桃都三妖」なのか!?
甘雨:
皆さん、海灯祭を祝して。
パイモン:
なんだ、甘雨が来たのか!
旅人:
海灯祭を祝して、甘雨。
甘雨:
すみません…お話を邪魔してしまったでしょうか?
パイモン:
そんなことないぞ。
刻晴:
甘雨、凝光が戻ってきたのかしら?
甘雨:
ええ、他の皆さんも到着しました。
刻晴:
分かった。
刻晴:
みんな、悪いけど私と甘雨は仕事が残っているから失礼するわね。
パイモン:
えっ、おまえたちも仕事で行っちゃうのか?
甘雨:
お祭りですから、総務司も気を引き締めなければなりません。ですが、そうご心配なく。
刻晴:
ええ、君たちは遊楽会を満喫してちょうだい。もし何か不満があったら、私たちに言ってね。
刻晴:
じゃあ、これで。
旅人:
ちょっと待って、甘雨。
甘雨:
どうかしましたか?
旅人:
仕事と休憩のバランスを上手く取ってね。
香菱:
へへっ、今日の旅人ってば、いつにも増して優しいね。みんなの体調をずっと気遣ってる。
パイモン:
ま、今日のところはそう言うしかないよな。大事なお祭りだから、仕事人間に働いてばっかいないで今すぐ休めとは言いにくいし。
甘雨:
ご心配ありがとうございます。心に留めておきますね…あなたも休むことを忘れないでください。
藍硯:
そういえば、私も往生堂に行かないといけないんだった。
香菱:
もしかして胡桃に用事?ちょうどご飯の約束をしてるんだけど、よかったら一緒にどうかな?
藍硯:
えっ、いいの?やった!
香菱:
でも胡桃、まだ仕事中かもしれないんだ。とりあえず、往生堂に行ってみようか?
パイモン:
おう、そうだな!
胡桃:
先に遊んでて。仕事が終わったらそっちに行くよ。
白朮:
他にも何かご用ですか?
旅人:
軽策山の魔神の残滓について…
白朮:
魔神の残滓ね。あんたたちも江蘺と嘉良のことを思い出したんだな?私たちも同じことを考えてた。
白朮:
あの時は、螭の血こそが軽策山の魔神の残滓だと思ってたけど、さっきの行秋の話を聞く限りだと違うかもしれない。螭じゃなく、桃都のものだった可能性がある。
白朮:
ただ少なくとも今は、行秋さんの曽祖父さんとティマイオスさんに魔神の残滓の気配はありません。今回の問題には別の理由があるのでしょう。
白朮:
そうだな。とりあえず、七七の帰りを待つことにするか。
少し前、往生堂の入り口——
胡桃:
…となると、楽器はやめたほうがいいってことだね。
安宿:
ええ、今は佳節ですので、なるべくご近所に迷惑がかからないよう、控えめにしたほうがいいと思いまして。
胡桃:
分かった。お供えとして燃やすものは?紙でできた部屋や金庫、乗り物とか…何か要望はある?
安宿:
曽祖父様は派手なのが好きではないので、大掛かりなお供えは必要ありません。
胡桃:
それじゃ、紙でできた服だけ用意しよう。派手にはならないし、ご家族の要望にも沿ってる。どうかな?
安宿:
お気遣いありがとうございます、胡堂主。
胡桃:
骨灰盒の用意は?
安宿:
曽祖父様は二年ほど前、自分で埋もれ木を探し、職人に骨灰盒を作らせました。今は遺瓏埠の古い屋敷に保管してあります。
胡桃:
埋もれ木なら申し分ないね。燃えることも、腐ることも、虫に食われる心配もない。喪屋と葬送はどうする?何か言われてない?
胡桃:
簡略化することもできるけど、よく考えたほうがいいだろうね。ちゃんとしとかないと、飛雲商会は大きいのに、仕事をする人がいないなんて非難されちゃうかもしれない。
安宿:
ええ、その通りですね。上の坊ちゃまも同じことを言っておりました。それと、往生堂はその点の作法を熟知しているから、どうすればいいか分かるはずだ、とも。
胡桃:
うん。私なら山形の屋根をした喪屋にして、一つの部屋に幕を二枚張るかな。三十六の席に新しい絹を敷いて、生地の模様は飛雲紋にするね。
胡桃:
あと喪屋の前には月洞門を作って、安楽椅子を置く。欄干は竹製にして、人士の堅く真っすぐな性格を表すの。どうかな?
安宿:
ええ、すごくいいと思います。そういえば、絨毯も敷いておかないと。曽祖父様はべっこう色を好んでいたので、それがいいでしょう。
胡桃:
分かった。法事は?
安宿:
坊ちゃんの指示によると、歌はなしで、棺桶を運ぶのに十六人が必要とのことです。派手なものは不要で、整った服を着ていれば大丈夫と。
胡桃:
魂輿は?
安宿:
如意輿が一つ、白い札が四対、赤い札が二十対必要です。
胡桃:
儀仗は?
安宿:
金メッキの器具を四対、それから招魂旗を四対。
胡桃:
じゃあ…金の瓜、金の斧、金の鐙、金の手甲、それに清道旗、飛虎旗、飛鯉旗、飛鰲旗にしよう。
安宿:
ええ、堂主のおっしゃる通りで問題ありません。
胡桃:
最後に、大幡と位牌亭はどうする?
安宿:
八角形の筒状幡を使い、それぞれの角に八つの飾り房を付け、赤い天蓋で覆います。あと鮮やかな香亭、更衣亭、四宝亭を設け、白い天蓋で覆ってほしいと。
胡桃:
天蓋に刺繍は入れる?
安宿:
あぁ、家族の皆様も動転していたので、それを失念していたようです。堂主、何か良いお考えはありませんか?
胡桃:
飛雲商会は璃月でも特に大きな一族で、四世代が同じ家に暮らしてる。曽祖父は家の最たる年長者、つまり全福。
胡桃:
期頤まで生きていて全寿。生涯で徳を積み、何事もなく最期を迎えられるとなれば全終。この三つが揃えば円満となる。
胡桃:
このことから天蓋に五福捧寿、鶴鹿{RUBY#[D]かくろくどうしゅん}同春の柄を刺繍することで、跡継ぎに幸運をもたらせるね。
安宿:
さすが堂主、よくご存知で。
胡桃:
別に大したことじゃないって。あれ?百聞さん?
百聞:
凝光様が到着したので、玉京台までお越しいただけますでしょうか。
胡桃:
ありゃ早いね。すぐ行くよ。
胡桃:
安さん、ごめんね。先約があるから続きはまた今度で。
安宿:
いえいえ、堂主はご多忙な身、どうかお気になさらないでください。
胡桃:
この件はひとまず任せたから、渡し守。
渡し守:
はい、安心してお任せください。
安宿:
後生畏るべし。胡爺と胡おじはいい後継者に恵まれて本当に幸せですね。
渡し守:
ええ、喜ばしいことです。
安宿:
そういえば、先ほどは前金のことを忘れておりました。
渡し守:
曽祖父様の件はまだ決まりきっていませんし、急ぐ必要はありません。今日いらしたのは、こちらに準備する時間を作らせるためだったのでしょう?
安宿:
はぁ、その通りです。事前に相談するよう、坊ちゃまに言われまして。ですので、この件は口外しないでいただけると助かります。
渡し守:
はい、心得ております。
安宿:
それでは、家族の皆様が確認しやすいよう、明細の作成をお願いできますでしょうか?
渡し守:
もちろんです…おや?皆さん、お揃いでどうかされましたか?
香菱:
渡し守のお姉さん、胡桃いる?
渡し守:
香菱さん、あいにく堂主は出かけております。
藍硯:
じゃあ…いつ戻ってくるか知らない?
渡し守:
それは聞いておりません。つい先ほど出かけたばかりなので、しばらくかかるかと思いますが…
渡し守:
急用でしたら、私にお申し付けください。堂主が戻ってきたらすぐ伝えますので。
藍硯:
えっと…急用ってわけじゃないけど…
渡し守:
では恐れ入りますが、堂主の用事が済むまでお待ちいただけますと。
パイモン:
残念だな。そろそろ仕事も終わってる頃だと思ったのに。
香菱:
想像してたより忙しいみたいだね。ここで待ってても仕方ないし、先にご飯にして、お腹いっぱいになったらまた戻ってこよっか?
パイモン:
そう言われると、ちょっとお腹が空いてきた気がするぞ。でも胡桃を待たなくてほんとにいいのか?
香菱:
渡し守のお姉さんの話だと、まだ時間が掛かりそうだしね。胡桃が来たら、追加で何品か作るから大丈夫。
パイモン:
じゃあ、そうするか!藍硯もお腹が空いただろ?ご飯を食べに行こうぜ!
藍硯:
……
香菱:
藍硯?
藍硯:
あっ!ごめん、ちょっとボーっとしてた…いいよ。
香菱:
渡し守のお姉さん、アタシたち行くね。もし胡桃が戻ってきたら、待ってるって伝えてくれる?
渡し守:
ええ、いってらっしゃい。
安宿:
……
渡し守:
安さん?
安宿:
葬儀屋さん、あの黒髪の女の子がどういう人物かご存知ですか?
渡し守:
いえ、見たことのない子でしたので…ただ、あの銀の燕の装飾品を見る限り、沈玉の谷から来たようですね。
安宿:
沈玉の谷…
渡し守:
どうかされましたか?
安宿:
ああ、いえ実は数日前、買い出しに出かけた際に、先ほどのお嬢さんと坊ちゃまが話しているのを見かけたのですが、その時あの子が奇妙な籐人形を持っておりまして…
安宿:
その後、曽祖父様の介護をしていたら、なんと同じ籐人形が寝床にあったのです!
安宿:
籐人形にはまじないが書かれていて、とてもひんやりとした触り心地でした。曽祖父様の部屋までひんやりとしていて、なんとも不気味で…
渡し守:
そのようなことが…まさか、この件の裏に何かおかしなことでも?
渡し守:
沈玉の谷の者には奇門法術を受け継いだ人がいると聞きます。五鬼運来法や命と引き換えに行使する術など…
安宿:
勝手な憶測はよくありませんが…曽祖父様がこうして病床に伏しており、坊ちゃまが葬儀の話をしてきたことを思うと、つい…
安宿:
いけません!私ときたらまた不安をたらたらと…葬儀屋さん、先ほどの話は忘れてください。くれぐれも他言しないようにお願いします。
渡し守:
ええ、往生堂には規則があります。口外することはありませんから、ご安心ください。
香菱:
お父さん、友達を連れて来たから、ちょっと厨房借りるね…あれ?お父さん?お父さーん!
卯師匠:
香菱、こっちだ!
パイモン:
卯師匠、鶯と一緒にいるみたいだ!行ってみようぜ。
パイモン:
あれ?ティマイオスじゃんか?なんでここに?
藍硯:
この気配…
鶯:
こないだから、ティマイオスがこっちで一緒にお祭りを過ごす言うてくれてたんやけどね、ゆうべこっちに着いた途端に、体調崩してしもて。ついさっき、意識までのうなってしもてん…
鶯:
旅の疲れのせいやろか。そやから卯師匠に店番を頼んで、不卜廬で診てもらお思たんよ。
パイモン:
ティマイオスを連れてくのか?鶯だけじゃ大変だろ?オイラたちも手伝うぞ!
鶯:
そんなん、悪いやろ?
旅人:
気にしないで、病人は放っておけないから。
鶯:
おおきに。ほな、お願いするわ。
藍硯:
じゃあ、私が店番しよっか?香膏のことならちょっとだけ分かるから。
鶯:
この子は…?
パイモン:
おう!こいつは沈玉の谷の工芸品組合から来た藍硯だ。すごくいいやつだぞ!
鶯:
みんなのお友達やったんやね。ほな、藍硯ちゃんに任せるわ。
卯師匠:
香菱、みんなが手伝ってくれるんなら、俺たちはひとまず帰ろう。落ち着いた後に、たらふく食えるよう飯を用意しておくんだ。
香菱:
へへっ、さすがお父さん、考えることが一緒だね!
香菱:
二人とも、ティマイオスを早く不卜廬まで送ってあげて。ご飯を用意しとくから忘れず戻って来てね。
鶯:
みんな、おおきに。
——患者を不卜廬に送り届けると、白朮が彼を奥の部屋へと連れて行った。
そして予期せず、二人の友達と久しぶりの再会をした。
行秋:
旅人、パイモン、久しぶりだね。
重雲:
海灯祭を祝して。
旅人:
行秋、重雲、海灯祭を祝して。
行秋:
うん、楽しいお祭りになるといいね。
パイモン:
なんか暗いけど…どうしたんだ?おまえも病気なのか?
行秋:
僕じゃないけど…
重雲:
行秋…
行秋:
構わない。ここにいるのはみんな僕の親友だ。隠す必要はないさ。
行秋:
実は曽祖父様が数日前に倒れて、昏睡状態なんだ。
パイモン:
えっ!?倒れた!?
行秋:
容体はあまり芳しくないようでね。家族は医者を大勢呼んだけど、誰も病気を特定できず、処方箋も出せないまま帰っていった。
パイモン:
病気を特定できない?それってじゃあ…
行秋:
…はぁ、曽祖父様は百歳を超えてるからね。ただ、うちの家族は誰もそれを受け入れられなくて…
行秋:
数日前、ある使用人にこう言われたんだ——曽祖父様は邪気に憑りつかれてるから、妖魔退治の専門家に見てもらったほうがいいと。
重雲:
それで…ぼくが見に行ったんだが、確かに部屋はヒヤッとしていたけど妖魔絡みじゃないと思う。
旅人:
じゃあ、どういうこと?
重雲:
しいて言うなら、あれは…
行秋:
言って構わないよ。
重雲:
寿命を全うした者が放つ、死の気配だ。
パイモン:
そんな…行秋、大丈夫か?
行秋:
ありがとう、心配しないで。それに僕よりも祖父様と父上のほうが悲しんでるだろうから…とにかく、いま二つの方面から準備を進めてる。
行秋:
往生堂への連絡は兄上が既にした。それで、僕は白朮先生のところに来たんだ。祖父様と父上も家で断食をしながら、曽祖父様のために祈ってる。
鶯:
調子どうえ?
ティマイオス:
ああ、すこぶる元気だよ。きっと朝ごはんを食べ忘れたせいだな。
鶯:
確かに元気そうやわ。
白朮:
大した問題はありません。おそらく山を越え、川を渡ってきたのに、よく休まなかったことで一気に疲れが出てしまい倒れたのでしょう。
鶯:
うちのせいや…
白朮:
こちらは体調を整える生薬です。毎晩寝る前に飲んで、しっかり休めば治るのでご安心を。他にも具合の悪いところが出てきましたら、また来てください。
鶯:
おおきに、白先生。
パイモン:
ティマイオスは大丈夫みたいだな、良かったぜ。
ティマイオス:
二人ともありがとう。君たちが送ってくれたって、鶯から聞いたよ。
旅人:
どういたしまして。
パイモン:
鶯、ティマイオスと先に帰っててくれ。しっかり休むよう白朮も言ってたしな。
鶯:
そやね。藍硯ちゃんをずっと待たすんも悪いし。二人とも用事済んだら、うちに寄ってくれはる?ちゃんとお礼さしてもらうさかい。
行秋:
白朮先生。
白朮:
行秋さん…率直に言わせていただきますが、事態は想像よりも厄介かもしれません。
行秋:
厄介…?
白朮:
さっき、白朮は本当のことを言わなかったんだ。ティマイオスの状況はどうもおかしい。飛雲商会のじいさんと同じくらいにな。
行秋:
曽祖父様と…?
白朮:
はい、お二人の状況は同じものです。ある意味、病気とも言えますが、そうではありません——彼らの身体は老化が進んでいるのです。
重雲:
老化!?
白朮:
はい、お二人の身体は老化速度が普通の人間よりもずっと速くなっています。原因については、私もまだ解明できていませんが…
白朮:
白朮はともかく、私だってあんなの見たことない。ま、見たことあるのに忘れたって可能性もあるけど。
白朮:
ティマイオスはまだ若いから疲れやすくなるだけで済んでる。でも、じいさんはもともと年寄りだ。それで今みたいな状況になってんのさ…
行秋:
そんな…つまり寿命が縮んだってことかい?
パイモン:
寿命が縮む!?そこまでひどいのか?
白朮:
はぁ…さっき白朮がティマイオスに秘術を使ったのに効果がなかった。今回の「病」はほんと厄介だね。
白朮:
いくつか方法はありますので、すべて試してみるしかなさそうですね。今朝、七七に軽策山の薬草を採りに行かせたので、もしかしたらそれが効くかもしれません。
白朮:
そうだ。軽策山といえば行秋さん、曽祖父さんはここ最近、軽策荘に行かれましたか?
行秋:
軽策荘に?
白朮:
毎年、海灯祭が始まると私たちは軽策荘へ診察に行くんだ。でも今年はその時期になる前に来てくれって言われてね。何か焦ってるみたいだな。
白朮:
先ほどの患者も、モンドから来る途中に軽策山の麓でしばらく休んだと言っていました…そこに繋がりがあるのではないかと。
行秋:
確かに数日前、曽祖父様は父上と共に、友人を訪ねに軽策荘へ行っていた。
白朮:
ふぅん、きな臭くなってきた…
行秋:
つまり軽策と関係が?そういえば軽策山には魔神の残滓があるそうだけど、もしかしてそれが原因なのだろうか?
重雲:
魔神の残滓だって?
行秋:
ああ。いや先に言っておくと、その話は道端で売ってる小説で読んだものだから、信憑性は高くない。
行秋:
本にはこう書いてあった——軽策山に密宮あり、名を無妄引責という。八門七門の法が刻まれており、無数の妖魔がここで浄化された。中でも最も尊き魔神を「桃都」という。
パイモン:
と…桃都の残滓が!?
白朮:
すみません、軽策と関係があるのではないかと言いましたが、魔神の残滓ではないと思います。
白朮:
ああ!魔神の残滓だったら、私と白朮が分からないはずない。
パイモン:
それもそっか…じゃあ、一体なにが原因なんだ?
白朮:
行秋さん、七七が薬草を採り終わったら、私が軽策荘へ行って確かめてみます。何か手がかりがあるかもしれません。
旅人:
俺にできることは?
パイモン:
オイラたちも薬草を採るのは得意だぜ。場所を教えてくれれば採ってくるぞ。
白朮:
ふふっ、お二人のご厚意はありがたくちょうだいいたします。必要があれば、その時にお声がけさせていただきますね。
行秋:
白朮先生、ありがとうございます。
白朮:
いえ、これも私の責務ですから。
旅人:
白朮も身体に気を付けてね。
白朮:
ええ、ちゃんと分かっています。ご安心ください。
行秋:
旅人、パイモン、僕は先に戻るよ。今の話を家族に伝えないといけないから。
重雲:
ぼくも一緒に行こう。曽祖父さんの部屋をもう一度確認したい。
行秋:
ああ、頼んだ。
行秋:
そう心配しないでくれ。僕なら大丈夫だよ。
行秋:
そもそも祖父様や父上と比べて、僕は曽祖父様とそこまで交流がなかったんだ。物心ついた頃にはもう、曽祖父様は言葉を話すだけで体力を使うようなお歳だったから。
パイモン:
そうだったのか。行秋もこっちに気を遣わなくていいからな。オイラたちもわかってるから。
重雲:
しばらく会わなかったうちに、パイモンはずいぶん気が利くようになったみたいだな。
パイモン:
オイラはいつだって気の利くやつだぞ。
行秋:
ふふっ、そういえば最近、胡桃の言葉をよく思い出すんだ。「生まれるべき時に生まれ、死すべき時に死す…」
行秋:
ここのところ、あまり彼女を見かけないから、きっと忙しくしているんだろう。あとで落ち着いたら、一緒にご飯にでも行かないか?
旅人:
うん、こっちはいつでも大丈夫。
行秋:
じゃあ決まりだ。みんな、またね。
パイモン:
魔神の残滓とは関係ないって白朮が言ってたけど、やっぱり「桃都」のことが気になるぞ。刻晴から最後まで話を聞ければ良かったけど、忙しいみたいだし…
旅人:
藍硯も色々と知ってるみたい。
パイモン:
そうだな、早く戻って聞いてみようぜ。藍硯と香菱をずっと待たせるのも悪いし!
鶯:
来てくれたんやね。さっきはティマイオスを運んでくれておおきに。これ、少ないけどお礼の気持ち、もろといて。
旅人:
これくらい「お茶の子さいさい」。
ティマイオス:
ええと…「お茶の子…のこのこ」?まあ、なんにせよ苦労を掛けたね、栄誉騎士。ぜひ僕たちの気持ちを受け取ってくれ。
パイモン:
いや、なんだよそのことわざ!?
鶯:
あんま言わんといたげて。ティマイオスは今、璃月のことわざを勉強中やさかい。
パイモン:
勉強はいいから、ちゃんと休むんだぞ!それと具合が悪くなったら、すぐ不卜廬に行くようにな。
旅人:
そういえば、藍硯はどこ?
鶯:
あぁ、伝えるん忘れてたわ。あの子、胡堂主を追いかけてってしもてん。あんたによろしゅう言うといて、って。
パイモン:
えっ、どっか行っちゃったのか?
胡桃:
鶯さーん、いる?…ってあれ?春香窯の店主って変わったの?
藍硯:
違うよ。鶯さんは用事があるから、代わりに店番をしてるんだ。
胡桃:
ほう。じゃあ臨時の店主さん、雲岫紅塵香を三つ貰えるかな?
藍硯:
雲岫紅塵香?名前は聞いたことあるけど、若い子に人気の香膏じゃないよね?
胡桃:
そうそう。商品棚には置いてないと思うから、どっか隅っこにあるはずだよ。探してくれる?
藍硯:
ちょっと待ってて。
藍硯:
お客さん、これでいいかな?でもこれって、祭祀用のお香だよね。
胡桃:
おや?お嬢ちゃん、ただものじゃないね。このお香を知ってる人なんて滅多にいないのに。
藍硯:
へへっ、じゃあ包むね。
胡桃:
ん~…あっ、分かった!ずばりお嬢ちゃん、沈玉の谷の藍家の人でしょ?
藍硯:
えっ?どうしてそれを!?
胡桃:
お嬢ちゃんが付けてる銀の飾り、銀翎翦玉玄鳥は桃都三仙の一人だからね。ふふん、アタリでしょ?
藍硯:
えっと…ごめん、君は?
胡桃:
にししっ、私もただものじゃないよ。でも今日は用事があるから、もう行かないと。
胡桃:
また会えるといいね、臨時の店主さん。
藍硯:
えっ?
藍硯:
おじいちゃんの言う通り、璃月港にはやっぱりすごい人がたくさんいるんだなぁ。ただお香を買いに来たお客さんなのに、あんなに物知りだなんて…
鶯:
胡堂主、その服、えらいかいらしなぁ~
胡桃:
鶯さん、さっきお店でお香を買ったんだけど、今日の店主さん、すごい人だね。
鶯:
ふふっ、そらよかったわぁ。
藍硯:
ふ…胡堂主?
鶯:
藍硯ちゃん、ただいま。店番お疲れやす。
藍硯:
鶯さん、さっきの人は…?
鶯:
ん?往生堂の胡堂主やけど。
藍硯:
えっ?でも胡堂主って往生堂の服を着てて、乾坤泰卦帽をかぶってるんじゃないの?
鶯:
せっかくの海灯祭のお祝いやさかい、サラの服おろさはったんちゃう?
藍硯:
しくった。あの人が胡堂主だったんだ!
藍硯:
鶯さん、用事があるから私はこれで!みんなによろしく伝えといて。
鶯:
あらあら?あない急いでどないしはったんやろ?
パイモン:
それで胡桃の後を追いかけて行ったのか?変だな…
旅人:
もう往生堂に戻ってるかも。
鶯:
藍硯ちゃんを探してるん?ほな、さっきお店でこれ見つけたさかい、ついでに届けてくれへん?
パイモン:
ん?それって…籐人形か?
鶯:
うちのお店ではこんなん扱ってへんし、たぶん藍硯ちゃんの忘れもんちゃうかなぁ。
パイモン:
藍硯は確かに籐人形を作ってるけど、これは遊楽会で見たやつとちょっと違うみたいだぞ。呪符が貼ってあるな…
鶯:
う~ん、普通のとはちゃうみたいやな。藍硯ちゃんの大事なもんやったら、はよ返してあげな。
パイモン:
じゃあ、往生堂に戻ってみようぜ。なにかに使うものだったら困るだろうし!
パイモン:
渡し守、胡桃と藍硯は戻ってきたか?
渡し守:
すみません、まだです。
パイモン:
あれ?変だな、こっちに向かったと思ったけど…もしかして別の用事でもあるのかな?なんか知らないか?
渡し守:
もしお仕事であれば、普段はそう言ってくれるはずです。例えば「今日は誰々と約束がある」と…しかし、プライベートとなると話は別ですので。
旅人:
ってことは、何か私用が?
渡し守:
そうかもしれません。堂主は最近、何か悩んでいるようでしたので。いつもはお昼頃ようやく往生堂に来るのですが、ここしばらくは朝早くからいるんです。夢を見るから、よく眠れないとおっしゃっていました…
パイモン:
よく眠れない…?胡桃らしくないな?
渡し守:
鍾離さんであれば、堂主のことをよく知っているはずです。聞いてみてはいかがでしょう?
パイモン:
あ、そうだった!鍾離のことを忘れてたぞ。きっとあいつのことだから、今頃どっかでお茶でも飲んでるんだろうな?
渡し守:
ふふっ、客卿は向こうの建物の二階で劇を観ています。耳を澄ましてみてください。何か聞こえませんか?
観察:
(訳)「物の怪騒ぐ樹の下で…」
パイモン:
おおっ!劇の台詞だ!
パイモン:
今日は会う人会う人みんなドタバタしてるのに、鍾離は相変わらずのんびりしてるんだな。さっそく行ってみようぜ。
卯師匠:
香菱、みんなにどんな料理を作るんだ?
香菱:
へへっ、新作の「梅落雪間酔」を振る舞おっかな!
雲菫:
(訳)「…あくる年には、燕が拾い、春の川辺を過ぎ去らん。」
鍾離:
素晴らしい。古い劇に新たな解釈を取り入れ、これまでとはひと味違うものに仕上がっている。
雲菫:
お褒めにあずかり光栄です。この劇は久しぶりなので、腕が鈍っていないといいのですが。
茶博士劉蘇:
とんでもありません、雲座頭!練習の時点でこれほどの表現力なのですから、海灯祭の本番はなおさら楽しみでなりませんよ。
パイモン:
よっ!鍾離、雲菫、ここにいたんだな?
雲菫:
えっ?旅人さん、パイモンさん、ごきげんよう。
鍾離:
久しいな。二人も劇を観に来たのか?
茶博士劉蘇:
おや、あいにく今日の劇はもうおしまいでね。これ以上やったら、雲座頭の喉に響いてしまう。
雲菫:
ふふっ、劉蘇先生、このお二人は私の友人です。彼らが聴きたいのであればもう少し歌っても構いませんよ。
パイモン:
へへっ、ありがとな、雲菫!でも練習で無理させるわけにはいかないから大丈夫だぞ。
雲菫:
もしかしてその急いだご様子を見るに、鍾離先生を探しにいらしたのでしょうか?
鍾離:
そうだったのか?用があるなら遠慮なく言ってくれ。
パイモン:
えっと、友達に忘れ物を届けてやりたいんだ。そいつ、胡桃と一緒にいるみたいでさ。胡桃がどこに行ったか知らないか?
鍾離:
堂主は自由奔放だからな、どこにいるかは定かではない。
パイモン:
鍾離にもわからないのか…
雲菫:
大事なものなのでしょうか?
パイモン:
大事かどうかはわからないけど、なにかに使うものならないと困るかなって思って。
旅人:
(籐人形を取り出す)
茶博士劉蘇:
おやおやおや!これは籐人形じゃないか…まさか噂の五鬼の籐人形だろうか!?
雲菫:
五鬼の籐人形?劉蘇先生はこれをご存じで?
茶博士劉蘇:
最近、こんな噂を聞いたことはありませんか?飛雲商会の曽祖父さんが倒れて、家から不気味な籐人形が見つかったと…その人形には五鬼運来の呪符が貼ってあったそうです。
茶博士劉蘇:
きっとその呪物のせいでしょう。あの方の財運や福、精気をすべて持っていったんですよ!
茶博士劉蘇:
その籐人形は、噂で聞いたものとそっくりだ。もしかしたら同じものかもしれない。悪いが、ちょっと離れてくれないか。
パイモン:
そんなわけないだろ?これは藍硯が忘れてった籐人形なんだぞ。ずっと持ってたけど、別になんともないし。
雲菫:
藍硯さん?沈玉の谷の工芸品組合の藍硯先生ですか?
茶博士劉蘇:
なに!沈玉の谷の藍家だって?なおのこと納得だ。藍家には代々伝わる奇門法術がある。五鬼運来を扱えてもおかしくないだろう!
茶博士劉蘇:
ただ疑問があるとすれば、彼らが飛雲商会にどんな恨みを持っているのかという点だな。
パイモン:
…なに言ってんだよ?まるでそれが真実みたいに言っちゃってさ。そんなのを信じるくらいなら、岩王帝君が実はスライムだったってことを信じたほうがマシだぞ…
鍾離:
ハハッ、そうだな。劉蘇殿はきっと噂に惑わされ、籐人形に貼られている古岩紋が目に入っていないのだろう。
茶博士劉蘇:
ほう?それはどういったもので?
鍾離:
その紋は兜跋毘沙紋と言って、四大降魔印のうちの一つだ。決して邪なものではない。
鍾離:
今年の璃月港にも、降魔印を刻んだ吉語銭が流通している。劉蘇殿が知らなかったのは少し意外だな。
茶博士劉蘇:
ふむ?ああ…思い出した。確かにそうだったな。さすが鍾離殿、物知りだ。ありがとう、早とちりしてしまい面目ない。
パイモン:
そういうことだ。藍硯が悪いものを使うわけないだろ?
雲菫:
どうやら飛雲商会にあった籐人形は、ご家族の厄除けのために用意されたものだったようですね。
パイモン:
じゃあ、藍硯が忘れてったこの籐人形も、ティマイオスを守るためのものかもしれないな。
鍾離:
ああ、そうだろう。
パイモン:
ふぅ…じゃあ急いで藍硯に届ける必要はなくなったな。ないと困るものだと思って届けようとしただけだし。
パイモン:
でも、藍硯は胡桃になんの用があるんだろ?胡桃もなんでバタバタしてるかわからないし…心配だな…
旅人:
鍾離先生は何か知らない?
鍾離:
堂主は思慮深く、捉えどころのない方だ。その考えは、俺たち全員が束になっても及ばないものかもしれない。
パイモン:
眠れなくなるような悩みがあるってことは?
鍾離:
それも聞いたことがないな…
鍾離:
しかし、往生堂は璃月の生と死の均衡を保つ責を担っている。もし堂主が本当に見た通り、何も考えていないのであれば、そのほうがかえって心配だ。
雲菫:
ええ、その通りです。私も胡桃さんと知り合って随分経ちましたが、彼女は突拍子もないように見えて、実際は心の中に芯を持ったお方。私たちは友人として、彼女が必要とするときに支えてあげれば大丈夫でしょう。
鍾離:
ああ、堂主が仕事を全うしてくれていなければ、俺も安心してここで茶を飲み、劇を聴いてなどいられないからな。
パイモン:
おい、鍾離、サボってることをそれっぽく言うなよ!
雲菫:
ふふっ、鍾離先生はお二人に胡桃さんのことを信じて、あんまり考えすぎないようにしてほしいのでしょう。
パイモン:
そうだったのか。鍾離が落ち着いてるのを見て、なんだかオイラも心配なんていらない気がして来たぞ。不思議だな、へへっ。
鍾離:
ちょうど海灯祭の時期だ。この佳日を無為にしないよう、遊楽会で心ゆくまで遊ぶといいだろう。
鍾離:
もしまだ気がかりであれば、これを。
旅人:
それは…?
鍾離:
吉語銭だ。最近、それを贈り合うのが流行っているらしく、真似てみようと思ってな。
パイモン:
なんだって!?今年の海灯祭はほんとすごいぞ。鍾離がお金を持ち歩いてるなんて!
茶博士劉蘇:
んんん!?鍾離殿、その吉語銭の模様、少々特別なものとお見受けするが、もしや伝説の帝銭では?
パイモン:
…帝銭?
茶博士劉蘇:
ああ、その吉語銭の模様だが町で見るものとは違うだろう?見るにそれは岩王帝君の模様…間違いない、岩王帝君が触ったとされる帝銭だ!
鍾離:
劉蘇殿、これは露天商から手に入れたものに過ぎない。おそらく模倣品だろう。もし興味があるなら、その商人を紹介するが。
茶博士劉蘇:
おっと…その辺で買ったものだったのか。家宝か何かかと思ったよ。
鍾離:
ハハッ、旅人、ぜひ受け取ってくれ。困ったことがあれば、それが道を切り開いてくれるかもしれない。
パイモン:
えっ?そんなにすごいのか?
茶博士劉蘇:
ご存知ないかもしれないが、たとえそれが偽物であっても、岩王帝君の模様は偽物ではない。模様が本物ならばご利益だってある。ハハッ、岩王帝君の加護があらんことを。
茶博士劉蘇:
鍾離殿、ぜひその商人のところに案内してくれ。私も岩王帝君の加護にあやかりたい。
鍾離:
フッ、いいだろう。では皆、また会おう。
鶯:
しばらくはよう休みや。ええね?
ティマイオス:
「感恩戴徳」…分かったよ。
鶯:
それでよろし。
雲菫:
そうだ。実は数日後、海灯祭の舞台で先ほど練習した「八奇煉桃都」という劇を披露するんです。良かったら、ぜひ観に来てください。
パイモン:
雲菫がさっき歌ってたのって「八奇煉桃都」だったのか?すっごく興味あるぞ!絶対観に行くな!
パイモン:
そういえば、八奇の中の「桃都三妖」がなんなのか、まだわかってないんだよな。
雲菫:
「桃都三妖」ですか?では、彼女たちが「桃都三仙」とも呼ばれていることはご存知でしょうか?
雲菫:
「朱赤引火冥蝶」、「銀翎翦玉玄鳥」、そして「金目乗黄月駒」。いずれも神通力を持ち、人間の姿になれる存在です。
パイモン:
おお!ほんとに人間じゃないんだな…冥蝶はわかるけど、玄鳥と月駒はどんなやつなんだ?
雲菫:
玄鳥は燕で、月駒は白い馬です。伝説によると、桃都が「煉化」された後、玄鳥は万象風角霊官と共に旅に出て、月駒は姿を消したとされています。
雲菫:
『竹林月夜』を読んだことはありますか?その話で描かれている軽策山に白い馬が登場するのですが、彼女を金目乗黄月駒だと考えている人が多くいます。
パイモン:
へぇ、そうなのか…じゃあ蝶々は?蝶々はその後どうなったんだ?
雲菫:
彼女は八奇における唯一の犠牲者で、法陣の儀式の際に亡くなっています。
雲菫:
八奇はそれぞれ神通力を持っていますが、桃都も尋常ならざる魔神であったため、「煉化」するのは容易ではありません。そこで、彼らは八門七門の陣という秘術を使いました。
雲菫:
妖魔を根絶やしにするその陣を発動させるには、犠牲となる「門」が必要になります。冥蝶がその一門を担い、この世を去ったのです。
パイモン:
そんな…気の毒だな…
雲菫:
ですが幸い、八奇の中には冥蝶を慕う無妄の翁という方がいて、その伝承を受け継いだと聞きます。
パイモン:
えっ?無妄の翁って、往生堂の創始者に法術を教えたやつだよな?
雲菫:
ええ、そこはまさに運命と言えるでしょう。幽冥を平定する人が、偶然にも後世に法術を残し、その後継者は今も生と死の境界線を守っているのですから。
雲菫:
命は失われましたが、璃月を守る意志は二、三千年の時を経た今も受け継がれています。これが、「八奇煉桃都」というお話です。
パイモン:
ありがとな、雲菫。これで八奇がどういうやつらなのかやっとわかったぜ。
雲菫:
どういたしまして。…この劇は久しぶりですので、帰ってからもう少し練習しないと。
旅人:
ほどほどにね。
雲菫:
はい、ありがとうございます。それではまた。
香菱:
——話は終わったかな?ずっと待ってたんだけど。
パイモン:
あれ?香菱!どうしてここに?
香菱:
だって、ぜんぜん帰ってこないんだもん。結構探したんだよ?
香菱:
旅人ってば、みんなには体調に気をつけろとか、ちゃんと休憩しろとか言うのに、自分はご飯もろくに食べないんだから。
香菱:
このままだと、今度はアタシが旅人を叱っちゃうよ~!
香菱:
お腹空いたでしょ?ほら、香菱特製の新メニュー、梅落雪間酔だよ。ささ、食べてみて!
パイモン:
わあ!ありがとな、香菱。ぜんぜん気づかなかったけど、匂いを嗅いだ途端、お腹がペコペコになってきたぞ。よぉ~し、いっぱい食べるぞー!
香菱:
パイモン、旅をするのって大変じゃない?お腹いっぱい食べれるかも分からないし。いっそ、アタシと一緒にいるのはどうかな?美味しいものをたらふく食べさせてあげるよ。
パイモン:
おおっ!なんて魅力的なお誘い!!
パイモン:
それはそうだけど。ごはんを食べるタイミングが不規則だったりはするだろ?
香菱:
えへへ、冗談冗談。パイモンは食いしん坊だけど、それだけで釣られるような子じゃないもんね。
香菱:
さ、遠慮なく食べて。遊楽会に行くにしても、他のことをするにしても、まずはお腹を満たさないとね!
茶博士劉蘇:
鍾離殿、例の帝銭の商人はどこに?
鍾離:
もう売り切れて帰ってしまったのかもしれないな。
茶博士劉蘇:
何か…誤魔化してないだろうか?
鍾離:
そんなことはない。