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山の長い一日・第三章
審判
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やっとの思いで、無想の間から神殿へ戻ることができた…
カテリンド:
生きてると、いいこともあるんですね…
カテリンド:
メランタと戦った時のあなたたちはとても凄かったです…でも…
カテリンド:
あれ?あなたたちは…何をしたんでしたっけ?
カテリンド:
えっと…誰でしたっけ…?
パイモン:
記憶が消え始めてるのか?
カテリンド:
私は、誰?
旅人:
君はカテリンドだよ。
パイモン:
そうだぞ。で、オイラはパイモン、こいつはTravelerだ。オイラたちはおまえの友達だぞ!
カテリンド:
私たちが…友達?
パイモン:
おう、そうだぞ。オイラたちは一緒に大変なことを乗り越えて、危機をくぐり抜けてきた、最高の友達だ。
カテリンド:
そうなん…ですか…?
カテリンド:
いえ…そうなんですね。なんとなく、感じます。
パイモン:
それから、おまえのお姉さんは気分転換に世界を旅してるんだ。いつかきっと、また会えるぞ。
パイモン:
お姉さんもおまえと同じで、今はおまえのことを忘れちゃってるかもしれないけど…おまえたちは家族だし、顔だってそっくりだ。
パイモン:
会った瞬間に、お互いすぐにわかると思うぞ。
カテリンド:
私には姉もいるんですね。
パイモン:
あっ、このお墓は無視していいぞ!
パイモン:
この墓碑は、おまえのお姉さんが遊び半分で自分用に立てたもので、自分が生まれ変わったことを表してるんだ。
パイモン:
おまえのお姉さんは絶対に生きてるぞ!
カテリンド:
お姉ちゃん…
パイモン:
うんうん。
カテリンド:
私のお姉ちゃんって、ヘンなことをするんですね。
パイモン:
お、おう…?
パイモン:
とにかく、おまえのカバンの中にはおまえに関する情報が入ってるはずだぞ。見てみればわかるはずだ。
カテリンド:
わかりました。
パイモン:
それとな、おまえは本当にすごいやつなんだぞ。
パイモン:
世界を救ったことがあるくらいな。
カテリンド:
私が?
パイモン:
みんな、おまえにすごく感謝してるんだ。だから胸を張って生きてくれよな。
パイモン:
誰かにいじめられたり、嫌なことがあったりしたら、Travelerに手紙を書けよ。こいつに解決できないことなんてないからな。
旅人:
今、何かやりたいことはある?
カテリンド:
よくわかりません。でも、まるで何日もご飯を食べてないみたいに、お腹がぺこぺこです。
パイモン:
オイラもだぞ!はやくなにか食べたいぜ。
パイモン:
もう、バッグの中にある鳥肉と野生キノコの串焼きをぜーんぶくれよ!
イストリア:
カテリンド、このまま君を下の世界に帰すわけにはいかない。
イストリア:
でも…僕はまたしても自身の臆病さゆえに、口を開くことができなかった。
イストリア:
君が今、下の世界に戻ったら、どんな選択をするのか…僕には分かる。
カテリンド:
もう、別れを告げる必要のあるものとは、お別れを済ませました。ただそれだけのことです。
パイモン:
な、なにを言ってるんだ?オイラ…さっぱりわからないぞ。
パイモン:
どうやって天に通じる道を具現化させて、メランタを懲らしめに行くのか、って話をしてたんじゃないのか?
イストリア:
最後に、僕たちみんなのためにメランタに会いに行って…
イストリア:
自らの記憶をすべて捧げた人こそ…君のお姉さん、ロムヒルダだったんだ。
カテリンド:
そんな…!
イストリア:
あの頃、メランタはすでに狂い始めていて…大勢の人を罰していた。
イストリア:
でも、僕らは機械ではないし、命に終わりがないわけでもない。一度忘れ去ったことも、やがては取り戻す。
イストリア:
ヒルダはメランタの理不尽な暴政について聞き、罰された人々を見た。
イストリア:
僕はそんな彼女に、ここの出来事は天国で見たやや不愉快な出来事として片付ければいいと伝えた。
イストリア:
別に激怒する必要も、悲しむ必要もない。彼女はニヒリットに送られてきただけなのだから、みっちゃんに送り返してもらうこともできる。
カテリンド:
でも、そのまま戻るわけにはいかないでしょう。
イストリア:
彼女も同じことを言ってたよ。あはは、君たちは本当によく似ている。
カテリンド:
…よく言われます。
イストリア:
でも、ヒルダは明るくておしゃべり好きだったけど、君は控えめで落ち着いているね。
カテリンド:
それもよく言われます。
パイモン:
ちょっと待ってくれ、前に「いま空の神殿に神はいないから、天へと続く道は一回使っただけで消えたりしない」って言ってたよな。
パイモン:
それじゃあ、オイラたちはカテリンドのお姉さんが残してくれた道を登っていくのか?
イストリア:
そういうことなら——取るべき作戦は「突撃してぶちのめす!」だっただろうね。
イストリア:
でも、メランタがヒルダに何を話したのかは知らないけど…激怒したメランタは、君のお姉さんの記憶が残した天に通じる道を断ち切ったんだ。
イストリア:
そして、ヒルダもすでにここを去ってしまった。
パイモン:
ってことは、結局だれかが記憶を全部差し出さないと、上には行けないってことか…?
パイモン:
そうだ!みっちゃんになんとかしてもらうってのはどうだ?
パイモン:
みっちゃんって、メランタと同じような存在なんだろ?メランタが人を行き来させる力があるなら、みっちゃんも頑張ればできるよな?
イストリア:
最上層の「非有非無の神殿」と千柱そびえ立つ空無辺の神殿を隔てる空間は「無所有の回廊」と呼ばれているが…
イストリア:
「無所有の回廊」の力は神殿そのものに由来している。その力の本質は「離れゆく規則」であり、対して守護者のものは「維持する規則」だ。
イストリア:
みっちゃんはまだ幼体だから、規則をコントロールする力は持っていない…
パイモン:
だったらどうすればいいんだ?
イストリア:
僕が記憶を差し出すよ。
パイモン:
イストリア、でも、おまえ…
イストリア:
…前にも言った通り、全ては僕が臆病だからこそ起こったことだ。僕が知る真実、歴史と知識はあまりに重すぎる。だから、僕はためらった。
イストリア:
そして、僕のためらいは、ヒルダに見抜かれた。
カテリンド:
あなたの一生に比べれば、普通の人間一人の苦しい一生など、確かに取るに足らない代償でしょうね。
パイモン:
イ、イストリア。みんなおまえの知識は貴重だって言ってるし、やっぱり別の人にやらせたほうが…
パイモン:
でもオイラとTravelerには、まだやらないといけない大事な事があるし…
旅人:
パイモン。それはみんな同じだよ。
旅人:
他人を犠牲にしていい理由にはならないよ。
パイモン:
確かに他のやつに、今まで経験してきたすべてを諦められるかなんて、聞けないよな…
カテリンド:
私にやらせてください。
パイモン:
カテリンド!
イストリア:
またお姉さんと同じことを言い出した。でも、今回ばかりは同意しかねるよ。
イストリア:
君はここで歴史を体感し、世界のあらゆる不可思議な出来事を目の当たりにしたはずだ。
イストリア:
それでも…この世界への未練は呼び起こされなかったかい?
イストリア:
前に、最も基本的な哲学問題とは、「明日死ぬべきかどうか」だと言ったのを覚えているだろう。君はどう思う?
カテリンド:
……
イストリア:
…迷ったね。たった一秒の迷いでも、この問題の答えは明確に示してくれる——明日は生きるに値するんだよ。
カテリンド:
いいえ、イストリアさん。あなたは物知りです…でも、二つだけ間違ってます。
イストリア:
どういうことだい。
カテリンド:
一つ目は、ニヒリットがなぜお姉ちゃんを選んだのか。
カテリンド:
二つ目は…私は本当に「偶然」ここに連れてこられたのかどうか、です。
イストリア:
お姉さんは、ここに連れてこられたのは偶然だと言っていたよ。
イストリア:
お姉さんは療養所が閉まるという話を聞いたあと、夜中に散歩してたら、ニヒリットに出会ったんだ。
カテリンド:
偶然なんかじゃありません。なぜなら、自分を救うことは、世界を救うからです。
イストリア:
そんな…
カテリンド:
もし全てを忘れられていなかったら、お姉ちゃんはきっと自ら命を絶っていました。
カテリンド:
今なら…なぜお姉ちゃんが絶対に生きていると断言できたのか、わかります。やり直された人生は、きっと希望に満ちてますから。
カテリンド:
唐沢栄一さんの小説に、こんな一節がありました——
カテリンド:
「救世主は闇の世界で己を犠牲にし、自ら十字架にかけられた。ゆえに彼の魂は救われ、光の王国へと昇った。」
カテリンド:
最高だと思いません?病を克服して、世界をも救ったなんて——
カテリンド:
こんなチャンス、譲りませんから。
イストリア:
……
イストリア:
一瞬、ヒルダが話しているのかと錯覚したよ。彼女はそんな話し方はしないのにね。
カテリンド:
お姉ちゃんは本なんてろくに読みませんから、古典を引用するなんて有り得ないでしょうね。
カテリンド:
パイモンもTravelerさんも、反対したって無駄ですから。
カテリンド:
記憶を失って地上に戻った時…私は誰で、どこに行けばいいのか、必ず教えてくださいね。
パイモン:
そんなこと言われても…!せっかく仲良くなったのに、また最初からになるのか?
カテリンド:
「記憶を消してもう一度読みたい小説」って言うでしょう?あなたたちは、それぐらい最高な友達なんです。
パイモン:
そんな冗談でごまかすなよ…よけいに悲しくなるだろ。
カテリンド:
話はまとまりましたね。イストリアさん…連れていってください。
パイモン:
…もう、やり残したことはないよな?
イストリア:
はぁ…
カテリンド:
これ…お姉ちゃんの筆跡です。
パイモン:
あっ、もしかして前に下で取り戻せなかった手紙か?
カテリンド:
いえ。メッセージと…お姉ちゃんが書いた短い詩みたいです。
カテリンド:
確かに、別れの言葉じゃない…お姉ちゃんは生きてるんだ…!
パイモン:
オイラたちも見ていいか?
カテリンド:
そのうち見せますよ。
イストリア:
カテリンド…もう一度だけ説得させてくれないか。
カテリンド:
イストリアさん、討論は私の勝ちです。
カテリンド:
もう私…下にあるお姉ちゃんのお墓が空だって知っちゃったんですよ。私が代わりに中に入ろうとするかもって、心配してくれないんですか?
イストリア:
…わかった。
イストリア:
君のお姉さんの記憶が具現化させた天への階段は断ち切られてしまったが…半分は残っているはずだ。
イストリア:
もしかすると今回は、君の記憶とヒルダの記憶が混ざって、不思議な光景が現れるかもしれないな。
パイモン:
じゃあ、カテリンドは記憶を半分残しておける可能性があるってことか?
イストリア:
前にも言っただろう?記憶を捧げることと、無所有の回廊を通れることに絶対的な関係はないんだ。
イストリア:
今までの人生を振り返らせてくれるのは、お上のほんの小さな慈悲さ。
パイモン:
そ、それって、オイラたちがロムヒルダの個人的な記憶を見れちゃうってことだよな?ちょっと気が引けるぜ…
カテリンド:
「あなたが生まれるずっと前、とある夕暮れに一輪の黄色い薔薇を見た。その記憶を、あなたに捧げる。」
カテリンド:
「あたしから見たあなたと、あなたに関するあらゆる理論、そしてあなたに関する真実と驚くべき情報を、あなたに捧ぐ。」
カテリンド:
あなたたちには後で、私に関するすべての質問に答えてもらわないといけません。
カテリンド:
だから、自由に見ていってください。これは、本当の意味で、私を再構築するために欠かせない一部だから…
カテリンド:
人に見せられない恥ずかしい情報でも何でも、一緒に見てやりましょう。私という妹のことを忘れて世界を巡るなんて、許せませんからね。
パイモン:
も、もしかして…本気で怒ってるのか?冗談に聞こえないぞ…
パイモン:
それと、急におしゃべりになったよな。
カテリンド:
そうですか?
カテリンド:
イストリアさん、無所有の回廊の天へと続く階段はここから造るんですか?
イストリア:
そうだよ。
カテリンド:
じゃあ、始めましょう。
カテリンド:
お姉ちゃんの詩…
カテリンド:
感情ばかりで、文学的な表現が全然ないですね。
カテリンド:
でも…悪くない。
パイモン:
カテリンド、まだオイラたちが誰だか覚えてるか?
カテリンド:
イストリアさんは、ここを離れるときに、記憶が急速に薄れていくと言っていました。
カテリンド:
今はまだ大丈夫ですよ。
カテリンド:
今見えたのは、実は全部、小さい頃にお姉ちゃんが本を読んでくれた時に二人で思い描いた外の世界なんです。
カテリンド:
フォンテーヌの海の下には本当に沈没船のお宝があるのか、稲妻の鎮守の森には本当に妖怪がいるのか…
カテリンド:
それから、アランナラという不思議な精霊は本当にいるのか——私はもう大人になってしまったから、もう見ることはかなわないかもしれませんが…
パイモン:
本当にいるぞ!あいつらは記憶を力にするんだぜ。
カテリンド:
じゃあ、私もアランナラですね。
パイモン:
もっと不思議なものだって、オイラたちは見てきたんだ。きっと存在するはずだぜ。
カテリンド:
いつかアランナラに会ってみたいです。
カテリンド:
これより先、空無辺の神殿と塔を結ぶ天への道は——
カテリンド:
永遠に、二人の少女が世界に抱いた美しい憧れであり続けるでしょう。
カテリンド:
これもある種の「永遠」かもしれません。
カテリンド:
どうですか?準備はできましたか?
イストリア:
カテリンド、もう一度考え直さないか?
カテリンド:
もう心に決めました。
イストリア:
はぁ…
メランタ:
異邦人よ、お前は人の子ではないな。いったいどう呼べばいいのだ。
旅人:
俺はTraveler。それと…
旅人:
「人の子」じゃないってどういうこと?
メランタ:
衆生の統率者は始祖を作った。その始祖の末裔は、みな「人の子」だ。胎海の偽りの人間もまた、恩赦を賜っておるが故、その類と見なす。
メランタ:
だが、お前は違う。
旅人:
神はどうして俺の妹を連れ去ったの?
メランタ:
答えられぬ。我にもその意図は理解できぬからな。
メランタ:
単なる僭越なる行いに対する咎めかと思っていたが…恐らく何か意味があったのだろう。光と闇が原人を生むという、異端の神話のごとくな。
パイモン:
おまえ、なんで急にいろいろ答えてくれるようになったんだ?
メランタ:
此れは我が魂に刻印されし規則だ。人の子が全てを捧げる献身を以って答えを求めた以上、我は造物主に代わって責務を果たし、知ることを包み隠さず話さねばならぬ。
メランタ:
人の子はいずれ全てを忘れる。束の間の答え、永遠の解放…此れもまた神の慈悲だ。
パイモン:
じゃあ、なんで神殿のやつらには、あんなに厳しく当たってたんだよ?
メランタ:
それもまた規則だ。創造主の不在、虚無の堕天…我は我が主の定めた規則を貫かねばならぬ。
メランタ:
ここは保存のみを目的とした地。いかなる革新も進化も、許されぬ。
カテリンド:
あなたが「メランタ」ですね?
メランタ:
人の子よ、そなたの名は知っている。
メランタ:
カテリンド。
カテリンド:
お姉ちゃんは私のことをどう紹介していたんですか?
メランタ:
自分は我をどうにもできないが、妹がいつか我を打ち負かしに来るだろう、と言っていた。
カテリンド:
聞きましたか?つまり私はTravelerとパイモンに巻き込まれた側では無く、巻き込んだ側だったんです。
パイモン:
オ、オイラたち、ちっぽけな報酬で用心棒代わりにされたんだな…くっそー、ニヒリットめ!
メランタ:
ニヒリット…あの裏切り者、堕落者め!
メランタ:
己の責務を放棄しておきながら、開眼したなどと嘘八百を並べ立ておって…!
メランタ:
我ら守護者は、ただ沈黙し、この世界の神殿を見守るべきなのだ。
パイモン:
なんだ、急に興奮して…おまえって、自分が不自由でいるより、他人が自由になるのを見るほうが辛いんだな。
カテリンド:
お姉ちゃんは一つ間違えていました…
カテリンド:
私は内向的な性格で、人と話すのが苦手です。それはたくさんの本を読んで、教養をつけても同じでした。
カテリンド:
私なんて…話さなくてすむなら、ずっと黙っていたいもの。だから…あなたの考え方を変えさせるのは、私ではない他のだれかです。
カテリンド:
Travelerさん…お願いします。
メランタ:
人の子よ…いや、お前は…!
メランタ:
我が創造主よ!なぜあなたは彼女を選び、我を捨てたのだ!
パイモン:
あいつ、急に怒り出したぞ?
メランタ:
こいつらを追い返せ。
メランタ:
ニヒリット!ニヒリット!
メランタ:
わかった…わかったぞ…
メランタ:
神はその座に居ない。故に、創造物はみな自由だ。
カテリンド:
メランタさん。
メランタ:
なんだ?
カテリンド:
今さら言っても遅いかもしれませんが…憂鬱な気持ちと付き合う中で、ある結論を得たんです。
カテリンド:
抑えきれないほどの憂鬱は病気なんです。早く医者にかかって、治療を受けるべきです。
メランタ:
…お前は変な事ばかり言う。お前の姉とそっくりだ。
メランタ:
ふふ。規則によって具現化された我らのような「化け物」は…病に侵されたとき、誰を頼ればいいのだろうな?
カテリンド:
病人と戦うのに、今更罪悪感を感じるのですか?
パイモン:
カテリンド…おまえって仲良くなると、ちょっと意地悪になるよな。
カテリンド:
内向的な人間っていうのは、心に闇を抱えがちなものなんです。
カテリンド:
それに、私のこんな様子を見れるのも、そろそろ最後ですよ?
パイモン:
またそんな悲しいこと言うなよ…
カテリンド:
さっきも言った通り、私は心に闇を抱えてますから。
旅人:
まだメランタに聞きたいことがある。
メランタ:
何かあるなら早く聞け。我はもう消えるのだ。
メランタ:
空間の理を汚した絵師を独断で罰し、無所有の回廊への道を断ち切った。
メランタ:
すべて、本来は許されない行為だ。我が反逆は、すでに規則にある種の自滅を引き起こしている。
メランタ:
実をいうと、もう質問にも答えたくないが…逆らえば消失を早めることになりそうだ——仕方なく聞いてやる。
旅人:
俺の妹は…
メランタ:
お前はここに来られるだけの自由な意志と、両足があるではないか!自分で探せ。
メランタ:
我のように、自分から翼を縛ったうえ、その翼を折られたわけでも無かろうに。
旅人:
どうして人々を虐げるの?
メランタ:
虐げてる?彼らをあるべき姿に戻してやっているだけだ。天国へ昇っておきながら、神聖なる不変の調和を喜ばず、下界の腐敗を羨むとは。
メランタ:
分かったぞ…我は嫉妬しているのだ。彼らに、そして堕天したニヒリットに。変化を、自由を、そして…命を妬んでいるのだ。
メランタ:
我一人だけでも、十分にやり遂げれば、創造主が戻られた時に褒めてくれるに違いないと思っていた。それだけで我は慰められ、他者の間違いをも証明できると…
メランタ:
なぜ彼女は振り返らなかったのか。なぜ、我に共に行かぬかと、問うてはくださらなかったのか…
カテリンド:
あなたは、昔からそんなに堅物だったんですか?それなら納得です。もっと反抗的な性格だったら…誘われてたかもしれませんね。
旅人:
カテリンドは何か聞きたいことある?
カテリンド:
私もいいんですか?そうですね…では、どうして療養所には「帰れぬ魔の山」の伝説があったんでしょうか?
メランタ:
…かつて、大規模なアビスの災厄が発生した。ここを守っていた騎士たちは退くことなく最後まで戦い続け、その結果ドーンマンポートには、このような戦況報告が届いた——
メランタ:
「風止みの山へ向かった者の中に、帰還者なし」
カテリンド:
なるほど…つまり、間違って伝わってしまっただけで、呪いなんかなかったんですね。ただ、戦士たちが安らかに眠っているだけ…風止みの丘は、西風が眠る場所だったんですね。
メランタ:
我に残された時間はもう僅かだ。憎い…!お前たち全員が憎い。しかし、それ以上に意識を保ちたい…
メランタ:
お前とお前の姉——すべてのものと人を愛する凡人は、終わりを望んでいた。なのに我は…これほど生を渇望しているにもかかわらず、終わりを迎えねばならない…
メランタ:
ニヒリット…我は今、この上なく憂鬱だ…
メランタ:
ニヒリット!ニヒリット…!
メランタ:
わかった…わかったぞ…
メランタ:
神はその座に居ない。故に、創造物はみな自由だ。
カテリンド:
メランタさん。
メランタ:
なんだ?
カテリンド:
今さら言っても遅いかもしれませんが…憂鬱な気持ちと付き合う中で、ある結論を得たんです。
カテリンド:
抑えきれないほどの憂鬱は病気なんです。早く医者にかかって、治療を受けるべきです。
メランタ:
…お前は変な事ばかり言う。お前の姉とそっくりだ。
メランタ:
ふふ。規則によって具現化された我らのような「化け物」は…病に侵されたとき、誰を頼ればいいのだろうな?
カテリンド:
病人と戦うのに、今更罪悪感を感じるのですか?
パイモン:
カテリンド…おまえって仲良くなると、ちょっと意地悪になるよな。
カテリンド:
内向的な人間っていうのは、心に闇を抱えがちなものなんです。
カテリンド:
それに、私のこんな様子を見れるのも、そろそろ最後ですよ?
パイモン:
またそんな悲しいこと言うなよ…
カテリンド:
さっきも言った通り、私は心に闇を抱えてますから。
旅人:
メランタ。
旅人:
まだ聞きたいことがある。
メランタ:
もう答える力も、答える気もない。
メランタ:
空間の理を汚した絵師を独断で罰し、無所有の回廊への道を断ち切った。
メランタ:
すべて、本来は許されない行為だ。我が反逆は、すでに規則にある種の自滅を引き起こしている。
メランタ:
ニヒリット…我は今、この上なく憂鬱だ…
パイモン:
イストリア!オイラたち、メランタにガツンと言ってやったぜ。
イストリア:
空の色が変わったから、うまくいったのはわかってたよ。
イストリア:
メランタは何か役に立つ情報を教えてくれたかい?
イストリアに先ほどの出来事を話した…
イストリア:
はぁ…守護者は本来、見守る者…つまり、「覚醒者」であり「開眼せし者」なんだ。
イストリア:
でも…目を閉じたままの守護者は、闇に欺かれてしまうのはもちろん、目を覚ますこともまた、造物主の意志に対する叛逆であり、堕落と見なされてしまう。
イストリア:
みっちゃん…いままで色々なことを教えてきたよね。一緒に遊んで、楽しい時間を過ごしてきた。
イストリア:
だから、大きくなっても、僕たちを覚えていてくれよ。
イストリア:
?
パイモン:
そういや、メランタが光と闇が原人を生む異端の神話があるとか言ってたけど、心当たりあるか?
イストリア:
僕にも、具体的に何を指しているのかはよくわからないが…たしか天の使いの間で異端とされていた、こんな神話がある。
イストリア:
「光の神は自らを模した肉体を創った。しかし、闇の王がそれを奪い去った。」
イストリア:
「肉体の中で、光と闇は主導権を争い合った。こうして、光と闇を同時に宿す原初の人の中には、善と悪が存在するようになった。」
イストリア:
あまり知られていない、「原初の人」に関する神話さ。
パイモン:
思ったよりシンプルな話だったな。役に立ちそうにはないぞ。
イストリア:
今のところ、他には思いつかないかな。
カテリンド:
イストリアさん、別れの挨拶はしてくれないんですか?
イストリア:
君にも、君のお姉さんにも合わせる顔がない。
カテリンド:
黙っている間に…あることについて考えてたんです。
パイモン:
なにを考えてたんだ?
カテリンド:
墓碑に何を書こうかってことです。
カテリンド:
あっ、誤解しないでくださいね。私たちはいつかは死ぬでしょう?その時のために考えてたんです。
カテリンド:
でも、しばらくいい案が浮かばなかったんです。お姉ちゃんが墓碑に刻んでた一文が良すぎて…
カテリンド:
でも、ついさっき、思いつきました。
イストリア:
聞かせてくれ。
カテリンド:
私は墓石に、「つづく」と書きます。
カテリンド:
「一度きりの生など、ものの数にも入らない。」と同じくらい素敵でしょう?
イストリア:
うん。人類は絶えず続いていく叙事詩だ。ひとつの命が終わったからと言って、それが終わるとは限らない。
カテリンド:
それじゃあ、さようなら、イストリアさん。
イストリア:
さようなら、カテリンド。ヒルダに会ったら、よろしく伝えておいてくれ。
カテリンド:
私がそのことを覚えてるとは限りませんけどね。お姉ちゃんもあなたを忘れてるかもしれないですし。
カテリンド:
行きましょう、Travelerさん、パイモン。下まで送ってください。そして、もう一度仲良くなりましょう。